SSSハチミツ短期決戦
「さあ食らいなさい、ハチミツの嵐を!」
相沢さんは腰のツボに手を突っ込み、粘着性のあるハチミツで強く手を振る。
「その程度の攻撃、当たりません——なっ!」
周囲に弾けさせたハチミツは囮!?
「ミキネちゃん、本命はこっち!」
俺がハチミツの攻撃に気を取られている隙に、視界から姿を消して死角から俺へと肉薄する。
そして俺たちの制服の肩は常に開いている——っ。
「ここから差し込んで塗りたくってみたかったんだよねえ」
俺の背後へと周り、肩から腕を滑り込ませてソフトタッチで平らな胸へとハチミツ手刀を滑りこませる。
「——っ!」
「どこまで耐えられるかな」
なんという屈辱、相沢さんに背後を取られ、制服の両肩という両肩の袖から手を入れられ、胸を中心にハチミツを塗りたくられるとは——!
「でも、かかりましたね!」
「まだ何かできるとでもいうの、この体位で!」
体位とかいうな、妙に生々しい!
下品か、このヒーラーは!
「ええ、今回は早かったですよ」
俺の小さな指は股と股の間から、唯一地面に降れている。
「ロック解除、1から八工程まで順次解放」
「ちょっと、それ反則じゃ!」
「撃鉄起こせ」
すると相沢さんが立っている地面の下が淡く緑に光り、途端、緑のツルが相沢さんの手を頭の上で縛り上げた。
「反則、反則ですミリャ先生ー!」
宙に持ち上げられた相沢さんは足をバタバタさせながら大声で叫ぶ。
叫びを聞きつけ公式審判としてミリャ先生は吊るされた井沢さんを眺め——、
「ミキネ領主さまのジョブは」
と、問うたので。
「テイマーとサマナーが複合されている新規ジョブです」
「合法」
白カードを上げて、ミリャ先生はその場をすぐに去る。お菓子祭りにおいて己のスキルを最大限に発揮するのは合法らしい。
「えええ、チートチート! 複合の能力チート!」
というわけで宙に吊るされたスクミズの相沢さんからハチミツのツボを、ツルに取り下げてもらう。
「ミ、ミキネさん、さっきは少しやりすぎたっていうか……」
「知ってましたか、相沢さん。ハチミツって保湿成分バッチリでお肌に良いんですって。しかもお菓子祭りの食材は厄払いも兼ねているそうです」
「わ、私は超ラッキーガールだから、厄払いとか必要ないかなあ、肌も張りがあるし?」
「いえ、ぎるてぃ、です」
俺という幼女の身体にハチミツを塗りたくった罪、万死に値する!
ツルにハチミツを持たせ、スクミズの首元と、お腹当たりの水抜きを若干広げてハチミツをじっくりと垂れ流し流していく。
「パーティーに追放されたり、水源に落ちたりと、何かとトラブルに見舞われていたようなので、じっくりと厄払いしましょう」
「ど、どろどろが——き、きもちわるいよぉ!」
ツボにたっぷりと相沢さんはハチミツを溜めていたが、そのおかげで今回はどうにか勝利を収めることに成功した。
本来ならば罪悪感に駆られるところだが、これは厄払い。
仕方ない、郷に入りては郷に従ったまでの結果だった。
俺は牛乳瓶と小麦粉を拾いなおして、すぐさま自軍のキッチンへと戻ったのだった。
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