SSSなヒーラーの如く

「おはよーございます! 今日も一日がんばりましょうー!」


 おー! と芝刈り後の綺麗な庭で腕を天高く振り上げる超絶可愛い俺は真贋幹也。現実世界では三五歳フリーターであり、「連勤の幹也」と呼ばれていた。


 紆余曲折合って今は狐耳超絶美幼女として宿屋を経営している。


 いつもの真贋幹也としての体操を交えたアイデンティティを保つ自分語りを終え、野菜を取り、スープを作って、突然乱入した残念ヒーラーの相沢さんに振舞う。


「それじゃいっただっきま——」


 相沢さんが嬉々としてスープをすくって、桜の花びらのような唇に差し込もうとした、その時、事件は起こった。


 ヒヒーン! ブヒヒーン、ヒンヒンヒーンと三匹ほどの馬の鳴き声が聞こえ、勢いよく俺の宿屋の入り口から突撃してきたのだ。


 俺は見えていたからすぐさま身をひるがえしたが、相沢さんは背中にもろに受けた衝撃と共に、スープ皿そのものを跳ね飛ばして、頭からスープを被った。


 この光景見たことある、二四時間前に。


「え、ええええ! ミキネさん。何故だ! どうして村が発展している! 毒沼は綺麗な湖に変貌し、荒れた土地は全て畑に。仕舞には民家もあるし——住人が三十人以上はいるじゃないか。どどどど、どこからきたんだ、僕が探したときは誰も——!」


 文字通り顔面蒼白の領主を前に、俺は何とか笑顔で対応する。気を抜くと笑ってしまいそうだ。


「ええ、大丈夫だと申したじゃないですか」


「大丈夫って、あれは社交辞令であって、本気で大丈夫な人なんて——ええ? ウソだろ、魔術——そう魔術か、魔術で僕に幻影を見せて——」


「使えませんよ、そんな便利なもの」


「じゃあ、なんでだ! どうしてあんな無理難題を! もう結婚式場も予約してたし、前払いもしてたんだぞ!」


「キャンセルしてくださいね」


「い、いやだ、何故だ、何故なんだ!」


「おうおう、喚いてんじゃねーぞ、このボンクラ英雄が!」


 頭からスープを被ったままの相沢さんが登場し、地面で両手両足をついて泣き叫ぶ領主に対して、胸元を掴んで顔を上げさせる。


「てめえがいくら泣こうが喚こうが約束は約束や。出すものしっかりと頭揃えて出してもらうからのう? 保険金の準備は十分か、クソ英雄ちゃあああああああん!」


 お前は何処の龍のような如くなんだ。

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