SSSなバグってヒーラー
「ひ、ひい、ま、まさかこんな、こんなことが——」
「はよもってこんかい、王からの土地の権利書と金百万をよお! 舐めた顔してんじゃねーぞ!」
相当ストレスたまってたんだろうなあ、相沢さん。多分これ、昨日の水に落ちたことや服切られたことも根に持ってるなあ。あと金は貰う約束ないからね?
「で、でもぼくが、この、土地は、僕と女の子たちだけの!」
そもそもこの一帯の土地は殆ど荒れ地で何も発展していない。
それもそのはず吸血鬼のおひざ元だからだ。
この英雄くずれは王から不要な土地を意気揚々と褒美として受け取り、領地の端に立派なお屋敷を立てた程度で何もしていなかった。
俺に対する無理難題は自分がやりたかったことでもあるのだろう。だからこその悔しがり方か。
「口を動かすな手を動かせ! 英雄さんは誠意ってもんが感じられねえな! どうしてほしいかワイに言わせるんか? ああん!」
「も、持ってくるんだ、今すぐに!」
相沢さんの激昂により、領主は部下の女性たちに命令し、すぐに権利書は俺の手元にやってきた。
その間相沢さんはネチネチとした陰湿な言葉使いで彼を苛め抜いていた。
本当に相沢さんは見た目だけで生きてきたタイプで、内心は相当腐ってやがった。
勝手に台所の塩を取り出し、「もう二度と顔見せるんじゃねえ!」と領主にぶつけると、領主は逃げるように——俺でももう二度と関わりたくない——去っていった。
ふう、と相沢さんは爽やかな汗をスローモーションで流し、煌めいた汗を腕で拭う。
「明日も来ないかな☆」
「二度と醜い姿を見せないでくださいね」
見てる方の体に悪いから。
「でも気が付かなかったね」
「——結果良ければ全て良しですよ」
ニシシと俺は狐耳を揺らしながら笑う。
相沢さんと宿屋から出て村を見渡すと、確かに村人が三〇人ほど歩いている。相沢さんが手に持った《マジカル☆ロッド》という身も蓋もない名称の専用ロッドを振りかざすと、村人たちは一斉に足元から崩れて骨に戻っていく。
「うわあ、自分でやってても気持ち悪い……今日ビーフカレーはやめてね」
「……そうですね」
この世界に異世界転移した相沢さんは、異世界唯一のヒーラーである。だがしかし本来存在しないジョブと、魔術が正しく存在していない異世界なのもあり、正しく術式を理解していないと酷い現象が起こる。
つまり、相沢さんの治癒魔術は全てバグっているのだ。
森で見つけた白骨死体の山に『蘇生術式』を使用してもらったが、そこから復活したのは肉を生々しく戻していくゾンビ村人たちであり、行動も全て記録された日常動作を繰り返すのみの文字通りの生きる屍だった。
よくこの調子であの領主をまともに蘇らせたものである。もしかしたらどこかおかしくなってるのかもしれないけど。
伐採して切った小屋に関しては、ゾンビをテイマー技術で使役して小屋を建てさせた。勿論基礎工事なんてしていないので、少し触れば崩れるレベルのハリボテだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます