第2話 おっさん、遭遇する

 奮闘が功を奏し、オレたちパーティはボス・デカ火ダラカゲを倒した。

 すると、それまでわらわらいた子ダラカゲも嘘のように消え去った。デカ火ダラカゲの能力でできた眷属か何かだったようだな。オレとロイの苦労は一体。

 なんだかなあとちょっぴりしょっぱい気持ちになりながら、デカ火ダラカゲを解体していく。ダンジョンの主レベルのモンスターは体内に希少金属や鉱石を精製して溜め込んでいることがあるからだ。あと単純にダラカゲの肉は美味い上に、ダンジョンの主の素材は高く売れる。

「おおい。ロイ、罠解除と鑑定頼むぜ」

「動きたくねえー。もう無駄骨だったとか信じらんねえ……」

「まだ言ってるのか。さっさと働け盗賊シーフ

「盗賊じゃねえよ!忍者だ、シャ・ド・ウ!」

「どっちでもいいさっさとしろ」

 階層を探索していたヴァンとアレックが何か見つけたようだな。ヴァンは箱のようなものを抱えている。アレックは重そうな金属がすれる音のする袋をいくつか。

 ダンジョンでのお約束。最下層のボス討伐後の宝探しだ。大抵、今までボス討伐に挑んで散っていった冒険者の遺品だとか、古代のお宝が眠っていることがある。

 最下層ともなると、その旨味は計り知れない。だからオレたちもこの歳まで冒険者やってるんだが。

 何か違和感がある。オレが首をかしげていると、ロイも何かに気付いたのか怪訝そうにしている。

「これだけかよ?もっとなかったのか宝箱」

「あー、それなんだがな。俺らが持ってきたので全部だ。あとはもうすっからかん」

「すっからかん」

「出来て日が浅かったと思われる。これ以上は見つからなかった」

「あるいは、どっかに隠し通路があるのかってぇところだが、このダンジョンの作り的にねえだろ」

「おうふ。まじかー……」

 オレは思わず遠い目になる。ロイはとうとう真っ白に燃え尽きた。

 ダンジョン最下層で掘り当てる宝は大抵、ダンジョンができてからの年月に比例する。つまりこのダンジョンは冒険者的に言わせると『外れ』だ。あのデカ火ダラカゲそこそこ強かったんだがなあ。若い冒険者ならたぶん倒せなかったんじゃないか?それで外れかあ……。

 割に合わないと感じているのはたぶん全員だが、ダンジョンの奥底で嘆いていても仕方がない。今あるお宝を確認するのが先だ。

 解体をある程度済ませ、意識が飛んでいるロイをアレックと一緒に叩き起こす。オレは頭に平手、アレックは容赦なく頬をいった。「いひゃいっ!?」とか言ってもおっさんだと気持ち悪いだけだぞ、ロイ。

「ひっでぇ。グラさんまで……」

「早くしろのろま」

「アレックお前もいい加減にしろっつってんだろ。斧で叩き切るぞ」

「ヴァンにできるものなら「ハイハイストップ。ストップなー。先に鑑定しようか」チッ」

 こういう険悪な雰囲気を仲裁するのもすっかり慣れた。云十年一緒にパーティ組めば性格諸々把握している。まあ年のせいかね、最近ほんとパーティ組んだ初期みたいにすぐ口喧嘩になりかけるの、やめてほしい。仲裁する方の身にもなれ。そしてアレック?舌打ち聞こえてんぞ。

 ぶうぶう文句を垂れつつも、ロイが一つだけの宝箱をくまなく調べていく。懐から鍵開け道具を取り出して、鍵穴をいじること数分。ガチャリ、と開錠の音が鳴った。

「さて……」

 宝箱をあける役目はパーティのリーダーであるオレの役目だ。

 空振りであったとはいえ、最下層の宝箱だ。何が入っていてもおかしくはない。自然と全員が息をひそめる。

「いくぞ」

 ゴクリ、と誰かの喉が鳴った。

 そっと、オレは宝箱のふたを開けた。


 もふぁ。


「……もふぁ?」

 頬を何かふさふさしたものが撫でる感触がした。

 視界を白い毛玉みたいなものが占拠している。

「な、なん……モンスターか!?」

「あっ、ちょっこら!グラさんから離れろ!!」

「どうなってんだ!?宝箱から出てきやがったぞ!?」

「ま、まっってく……うぷっ」

 全員予想外の出来事に混乱しているが、まずこの顔面に張り付いている毛玉をどうにかしてほしい。顔が埋もれて息できないんだが!!

 慌ててロイが毛玉を引き剥がしてくれたおかげで、窒息死はせずに済んだ。助かったロイ。

 真っ白の毛玉はロイの両腕で抱えられる大きさだ。結構デカい。今のところなにもしてこないが、アレックとヴァンが武器を抜いて警戒しているからもしモンスターだとしても対処できるだろう。ロイも忍術なり忍刀なりあるしな。

 問題は宝箱の中身だ。まさか毛玉だけということはあるまい。

 ふたが空いたままの宝箱を再度確認する。中身は……ない。

 もう一度言う。

 ない。

 なっしん。

 のーもあおたから。

「がぁああぁぁぁっでむ!!!!!!」

 突然叫び声をあげたオレにロイたち三人が飛び上がった。気のせいかロイに抱えられた毛玉も跳ねたように見えた。

 常ならぬオレの様子にビビりながら声を掛けてきたのはヴァンだ。

「お、おい……どうした、グラ」

「見ろ」

「は……?」

「これを、見ろ」

 オレは空っぽの宝箱を指さした。

 三人が揃って恐る恐る覗き込み、中を触ったりひっくり返したり二重底がないかなどすべて確認すると、三者三様に唖然とした。

「なん、だと……?」

「おい、嘘だろ……」

「お宝はこの毛玉だけ……?」



 呆然と呟くおっさんパーティの只中で、ロイに抱えられた毛玉だけが元気にぴょこんと跳ねた。

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