第1話 おっさん、疾走する

 大トカゲの巨大版。ドラゴンほど厳つくもなく、ただのトカゲほどかわいげもなく。そういうモンスターをダラカゲと呼ぶ。

 生息地やら主食やら、あとは天敵のあるなしで生態の変わるこのダラカゲは、スライムと並ぶ雑魚でありながら、個体によっては厄介な部類に入る。

 例えばそう、ダンジョンの最下層に住んでいるものとか。

「ヴァン、そっちにブレス行くぞ!」

「見えてんよぉ!ったく、ダンジョン出たら一杯奢れよ!?」

防壁バリアの強度を上げる、一旦集まれ」

「無茶言うなってアレック!」

 グワリ、と馬鹿デカく口を開いたダラカゲが仲間の一人に狙いを定める。

 注意を促せば、大盾を背負う重戦士ヘビーレックスのヴァンが防御の構えを取った。

 背後に控える破戒僧ウォークレリックのアレックが防御強化印を切り始めるが、離れて子ダラカゲを切り倒す忍者シャドウのロイが無茶な要求に悲痛な声を上げる。その気持ちは分かる、ロイ。

 ヴァンとロイ、そしてオレ――本名は長ったらしいんでとりあえずグラさんと呼んでくれ。ソードマスターのオレを含めて三人で前線を張って、アレックが後方支援と取りこぼしの掃討ってのがパーティのいつもの戦闘スタイルだ。破戒僧は普通の僧侶クレリックより攻撃手段が多彩、かつ僧侶が使える呪法をすべて使える特級職ハイクラスだ。重戦士、忍者、侍もそうだな。それぞれの基本職ノーマルクラスを極めたあと転職できる。

 さて、それじゃあ今はどうなってんのかというと、このダンジョンのボスっぽいデカさだけならドラゴン級の火属性ダラカゲをヴァンとアレックが。デカ火ダラカゲの子供か?大体人間とそう変わらんサイズのダラカゲの群れをオレとロイで捌いている。二人の方に近づけさせないよう、ロイと頑張っちゃあいるんだが、いかんせん数が多い。どれだけ繁殖してんだ。手が空いた隙にデカ火ダラカゲの方を確認しちゃいるが、そんな状況で近づけってか。鬼かよ無口野郎め。

「一瞬でいい、早くしろ」

「っの、それなら先に言え!火遁、風遁合成強化――【火炎業魔手裏剣】!!」

「――居合抜刀術攻の型、【日輪暁華】ァ!!」

「「「「「キュエエエエエエエエエエエ」」」」」

 ロイは忍術、オレは剣術でなるべく広範囲に攻撃。どちらも火属性の攻撃だが、子ダラカゲには普通に効果がある。子供だからか耐性はあまりないらしい。合成で強化された火の忍術が半数を焼き殺し、灼熱を纏った斬撃が半数の胴を焼き切った。

 しっかしまあ、壁の巣穴からまだまだ子ダラカゲが出てくる出てくる。だが時間は稼げた。

 ロイとオレの二人はダッシュでアレックの方へ向かう。

「ヴァン、もう少し下がれ。入らん」

「あぁ!?おっ前誰庇ってると思ってんだ飲んだくれ!?」

「五月蠅い。ブレスは防げよ」

「んなもんったりめーだろうが!防御戦術【要塞壁嶺・水の陣】!!!」

「よし」

 と、大斧の代わりに盾を構え防御スキルを発動させたヴァンに一つ頷いたアレック。だが、その頭上では溜め《チャージ》を終えたデカ火ダラカゲが今にもブレスを吐こうとしてるしその喉奥から火の粉が舞い始めてるんだがなー!?

「ちょちょっグラさんこれ間に合う!?焼け死なない!?」

「黙って走れロイ!多分ギリ間に合う!!」

「ギリかよくっそ!恨むぞアレック!!!!」

 隣で並走するロイが喚きながらさらに加速する。オレも死にたくはない。忍者には叶わずとも速度を上げた。無駄にこの階層が広いせいで二人までの距離が遠い。そして背後から子ダラカゲが押し寄せてくる。が、構っていられない。

 ロイ、オレの順番でアレックの呪術効果範囲内に飛び込む。同時にブレスも放たれた。

「ゴアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「ぐっ!?」

「――締めて、此処に在る我らは火に抗う者。【水令結界・空間固定】」

 まともにブレスを受け止めたヴァンの盾が勢いに押されかける寸前で、アレックの呪力防壁が完成した。水の防御スキルを発動させているヴァンを呪力防壁がさらにガードする。

 ロイとオレの背後に迫っていた子ダラカゲも水の壁に阻まれて、こっちまではついてこられない。立方体型の防壁の内部に四人とも入っている感じだ。アレックが印を解除しない限り安全なわけで、全力疾走したロイは腰を落とした。

「ああー、助かった。ていうかアレック、無茶ぶりはすんなっていつも言ってるだろ!?」

「防壁が剥がれる寸前でブレスの余波を受けたかったならそう言え、ロイ。無駄な魔力を使わずに済む」

「いいわけあるかあ!?」

「まーまーロイ。アレックも頼むから焦るからやめてくれ、いきなりは。オレらもうそこそこの歳だぜ?」

「おいグラ、いま歳の話はやめろ。盾捨てんぞ」

「「「捨てたら殺す」」」




 何を隠そう、オレたちは全員――ベテランのおっさん冒険者である。

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