第2話
「着いたーー!」
改札を出た私はぐーっと腕を伸ばす。
ジェイシーさんは空になったコーヒーの缶をゴミ箱に捨てるとポン、と私の肩を叩く。
「いいえ、まだ着いてないわ」
「え? そなの?」
「ラクシニアへの行き方は特殊だって言ったでしょ」
そう言って、私の腕を引いて歩き始める。
歩きながら彼女は、道に生えている木を眺めていた。
「今は……ええ、12時ちょうどね。それなら……あと3本……」
「ジェイシーさんブツブツ何言ってんの?」
私の言うことを無視していち、に、と木を数え始めるジェイシーさん。
私には彼女が何をやっているのかがさっぱりわからない。
「さん……と。ここね」
「えっ? なに? どゆこと?」
「レイカ、この木をよく見て」
言われた通り木をよく見てみる。
大樹とまではいかないが、緑の葉っぱがたくさん生えたどこにでもある普通の大きな木だ。
これのどこに変わったところがあるというのか──あれ?
幹に何かが書かれているような……。
「あ! うっすら魔法陣みたいなのが書かれてある!」
「そう。この木々はラクシニアに通じる門のようなもの。時間帯によって魔法陣が現れる木が違うの」
「へー……いや、どうやって入るのさ。木だよ?」
「こうするの」
ジェイシーさんは私の腕を掴み、そっと魔法陣に触れさせた。
「ええっ!? それ触って大丈夫なの!?」
「うるさいわね。触らないとラクシニアに行けないの。あと1分でラクシニアへ転送されるから大人しく待ってなさい。くれぐれも手を離しちゃダメよ」
「わわわわっ!? なんか私光ってない!? こわっ!」
「いやほんとうるさいな!? ちょっと黙ってなさいよ!!」
うんざりした表情でそう言いながらジェイシーさんは私の手を離し、距離を取った。
「えっ、待って! これ私だけで行くんじゃないよね!? ジェイシーさんも一緒だよね!?」
「は? 私は行かないわよ。これで案内は終わり」
「そんなー!?」
お父さんを見つけるまで付き合ってくれると思ったのに! そんなの余りにも無慈悲すぎる。と言いたいところだがジェイシーさんは案内役。ここでお別れなのは当然なのだ。
「あ、そうだ。どうせあんた武器持ってないでしょ? これ護身用に持っときなさいよ」
遠くからポン、と武器が投げ渡される。
これは──拳銃だ。
「ちゃあんと弾は込めてあるから。足りなくなったら自分のお金で買いなさい」
「あ、あの」
「なあに? まさかお金もないなんて言うんじゃないでしょうね」
転送まであと10秒。それまでにジェイシーさんに伝えなきゃいけないことがある。
「ありがとう! 私、頑張るよ!」
「……」
一瞬だけ呆気にとられた表情をしてから、フッ、と笑う。
「精々頑張りなさい!」
大きく手を振るジェイシーさんの姿が黄色い光に消えていく。
違う。消えるのは私の方で、黄色い光に包まれているのも私の方だ。
しばらく水中にいるかのような感覚が続いたあと、ようやく視界が開けてくる。
「あ──」
テレビのチャンネルが切り替わるように、私の世界は切り替わっていた。
そこは、元いた世界とか全く異なる世界。
ラクシニアという国(異世界)に私は着いた。
服装や町並みは日本とほぼ変わらない。
ただ一つ、異なるとすれば──
「ま──」
翼の生えた大きな犬のような生物にまたがって空中を飛ぶ、猫耳と尻尾の生えた人間。
なにやら呪文のようなものを唱えながら手を一切使わずに壊れた屋根を修理する耳の長い人間。
大きな荷物を浮遊させながら歩く鱗の生えた人間。
「魔族、だ」
魔族というものは、魔法というものは──
「本当に、いたんだ……。
本当に、あったんだ……!!」
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