第9話 少年になってしまった

 ※ ※ ※ ※ ※


 イリア王国歴180年10の月20日 

「ここら辺で野営して待っていろ、私が服を用意して戻ってくるまで、じっとしているんだぞ」

 スイザ村と二つの集落を超えてここまで来たんだが、この先を二日程歩くとシエテの町があると言う。それで街道から少し離れた、見つかりにくそうな場所にいたんだ。


「ちゃんと隠れているんだぞ。馬で行って手早く用事を済ますつもりだが、戻って来るまで二日はかかると思う」

 寒くなって来るこの時期は、出くわす旅人も居ないような寂れた街道である。おそらく誰も来ないだろうが少し街道から外れた場所にテントを張った。

「私の従者としてシエテの町に入れば良いからな。少年の様に見えるが、その恰好と持ち物ではかなり怪しまれるのは間違いない。それにな、黒目黒髪の者はこのイリア王国ではかなり珍しいんだ」

 誰が少年に見えるの? おかしな事を言うもんだな? と思っていた。マ、今は買い物の事だ。エミリーが時々、通ってきた村で食料や日常品を手に入れていた。お金をかなり使ったんじゃないかな。で、俺なりに気を使って言ってみた。


「こんなの持っているんだが、見てくれる。町で売れないかな? こんなんだけど」

と言って小さめのポテトを取り出した。エミリーはジッと見返し、呆れたように話し出した。ポテトじゃなかった。隠そうと思った訳では無いが。念の為、割れた大きな物を見せると手に持ってウーンと唸ったままだ。大きなポテトは、黒くなって割れてしまったのでほとんど捨ててしまったんだけど。すいません。ハイ、これからは魔石と呼ばせて貰います。知らなかったんだよ。これが魔石なんて、遡って訂正し、お詫びいたしますだよ。

 

 以下、エミリーさんが言ってる事が長くなったので箇条書きにしておきました。

一、割れているけど、こんな大きな魔石見たことがない。どうしたんだ?

 (こんな使った後の魔石で怒られるとすると、他のを見せない方が良いじゃないか?)

二、王都ロンダにある聖秘蹟教会では、これより小さな割れた魔石が置いてあって、ズーと昔に奇跡を行う魔法に使われたそうだ。

 (やっぱり、今は見せれないな。俺、大きな魔石一杯持ってるもん)

三、魔石は色や形によって値段が決まり、小さくても非常に貴重だそうだ。

 (言い方からすると、かなり高そうだがダイヤモンドみたいだね?)

四、その服にテントや持ち物は何なのだ? 

 (気にはしていたんだ)

五、お前はいったい何者だ? 

 (今ここ!) 


 やっぱり、外国人設定が無理になって来ちゃったな。魔石だけじゃなく、金銀宝石だってダンボール箱で持って来たからね。なんか、へそくりっぽくなって小者みたいだけど、へそくりは大事なんだよ。それに魔石は高そうに見えたけど、数が有ると結構かさばる上に重くなるからね。マ、命の方が大事だと水と食料優先して持って来たんだ。まだ取りに行けないけど一杯有ったんだ。見つけたナイフはカッター代わりに使えるし。これ、思いっきり良く切れたけどミスリルなんて聞いた事もなかったんだよ。


 最後の問い五、お前はいったい何者だ? と言われてもねー。思わず、ミスリムのナイフの刃に自分の顔を写してじっと覗きこんでみた。良く反射していたから、鏡みたいだな。まさかねー。思わず二度見したよ。ホントは二度以上見たけど、これに写っているのって子供の時の俺の顔じゃないか! 大変だー錯覚じゃないぞ! 何処かに水たまりが無いのか? この際、水鏡でなくても良いけど何か大きく写るもの探さないと?


「もー、気づけよ。自分!」

俺が、縮んでいるんだ? イヤ、背が小さくなっていたんだ。身長なんか2・30センチは低くなっているじゃないか! 170センチは超えていたのに中学生か?

「27才の俺が? ホントに中学生じゃないか……」


 思えば、ここに来るまでの道中では寝る度に体調が良くなる。朝、目覚めると気分も体調も抜群なんだ。それが原因だったなんて。だけど、薄々背が小さくなった様な気がしていたんだ。あの男勝りのエミリーが、テントで添い寝しても嫌がらないんだ。災害備蓄の食品だけだからある意味、やせていくのは自然だよね。お菓子も食べていないし何百キロも歩いて移動していたんだ。


 俺が着ていた服は段々ブカブカになるし、自転車のペダルは足が届き辛くなった。靴は紐を結び直したけど、ベルトは緩くなってズボンが落ちそうだ。俺のヒゲはもともと濃くないし、ズボンの中は変わってないと思っていたんだ。


 思い当たるのは、あの遺跡都市の小部屋の巻物だ。巻物ってウェブ小説でよくある話なら、あれは魔法の巻物という事になる。エミリーと色々話が出来るのも翻訳の魔法のお蔭だ。転移させられても、言葉が分かるって事はかなり有利だからな。やったねー! 他にも広げたな。あの時から俺チートだったんだ。でも、チョット待てよ。 ア! そうでもないぞ。体は中学生になったんだ。


 遺跡都市で巻物を見てから、エミリーに出会うまで9日だったからな。ポテト・大の虹色の魔石が9個黒ずんで割れていた。あれ、虹色1個で1年の魔石なのか? 数は9個で合っているが、どうして寝ると若くなるんだろう? そう言えばエミリー言っていたな。助けてもらった夜、テントで寝ていた時に俺は光っていたと。


 あの時は何の事が分からず、聞き流したけど確かに言っていたな。27才が9年若くなれば18才だよな。絶好調だったとは言わないけど、人間の体力って20才位がマストじゃないのか? 待てよ? そうか、若返ったとして、ここは一日が27時間として、390日が一年だったから日本の暦だと……13年間若くなっている……14才だ。

 

 ※ ※ ※ ※ ※


「カトー、魔法が使えたんだ。光っていたし、無意識に発動したヒールみたいだな。それで私の足、あんなに早く良くなったんだな。助かったよ」

俺は十代の体に戻っているんだ。だが、これ以上若くなったら色々差し障りがあるじゃないか。

「ン、どうした? 魔法の発動が何時か分らなくとも、ヒールなら体力・気力が戻るんで良いんじゃないか?」

(そうとも、それはヒールだったならでしょう。若返りと違うし、一緒にしちゃダメな魔法じゃないか?)


「良いんじゃないか。今は無意識の魔法も止まったみたいだし」

「ウーウー……」

(魔石は、まだ有るんだけど)

 エミリーのケガも気力と体力も戻っている。

「体が軽い、絶好調だ。まるで若返ったみたいに動ける」


 これってヒールなの? ハイヒールなの? 小説で読んでたのと違うよね。エキストラヒールでもなかった。治癒魔法じゃない、もっと上ってなんだ? 若返っている。時が戻っているようだ。

「こんなん、魔法じゃあるまいし、いや魔法だったか……」


 前進キャンプを出てから九日間、移動している間に14才の少年になってしまった。 オイ! チョット待てよ。そーと、エミリーから離れて腰袋の確認に行った。虹色の魔石・小が七個黒ずんで割れていた。町へ行くなら魔石をお金に交換してもらおうと、腰の袋にすぐ取り出せるように入れて寝たんだ。魔石を見てみる。7個ある。やっぱりか。これ、体に近いと発動するらしい。ポテト大の虹色の魔石が1個で1年なら、魔石の小なら3から4カ月若くなるのか。 


「もう俺、14才じゃない。 11か12だ!」

11才の男子の平均身長が約145センチ、みなさんどの位か知っていますか? 知っている人は少ないと思いますが、僕にはよーく解ります。目の位置がエミリーテの胸部より少し上です。揺れている胸を常に見る事になる。エミリーは大きな女の人じゃなかったんだ。 軍人だし西洋系だし、大柄な人と勘違いしてもしょうがないよね。エミリーの胸あたりが丁度目線に当たるんだ。これは不可抗力ですよねー。


体が中学生か、従者設定の話の為か分からないが、エミリーに話しかけるとついつい丁寧語になってしまう。俺が、僕に変わっているし使う頻度も上がっている。年上? に、丁寧語! 前世の社会人教養の所為なんだろうか? 


 エミリーとはテントで一週間ほど、つまり7日間一緒に寝た。また誤解を生む表現ですが無実です。前にお知らせしたように、二人用テントなので不可抗力です。エミリーは大きな魔石1個で怪我が治って若返り、さらに小が7個でまた若くなって元気一杯だ。これ、事件ですよ。お嬢さん、すごい事ですよ。デトックス注射どこ無いですよ。誕生日聞いてないけどエミリーも3年ぐらい若返っているはずだ。


「王都ロンダでは第七守備隊の副長で、それなりの出世をして結婚しなければ近衛に行く話もあるんだ」

と前振りされた。

「あらかじめ言っておくが、私はもう23才だ。君のような少年は、その―対象にはならないんだ」

で良いんですと、だからって、結婚うんぬん以前の話だと思うんですけど。寝顔は可愛いけど寝相がひどい。ええ、エミリーの足が被さって寝ている状態です。ちなみにパジャマは着てません。勘違いしないで下さい。エミリーさん普段着のままお休みになるんです。あ、剣は外してくださいね。刺さりますから。


 やっぱり、エミリーには事情を話しておいた方が良いかもしれない。

その晩、テントの中で話しました。エミリーの誕生日はイリア王国歴134年13の月7日との事。一年は15ケ月あります。因みに、この世界はムンドゥスと呼ばれています。(今、それは良いか)

「ホ~若返るのか、私が二十才って本当に?」


 いや、色々大変な事話したでしょ。異世界からとか、遺跡の町があったり、ドラゴンが飛んでいたりとか、見たことの無い物一杯持っているとか、なんで聞いてないの……。エミリーさんって細かい事言わない性格なの、細かい事なの。美容ってそんな一番なの? 

「魔石とか凄いな! 必ず使用前に私を呼ぶように。そうかー20才か。悪くない、私も永遠の十七に成れるかもしれん、ウフフ」


 何言ってんの、魔石を使って若返って行ったら、俺は子供から赤ん坊に成っちゃうでしょ。全部使う前に、この世からいなくなっちゃうぞ。絶対、使うもんか! エミリーを何とか納得させなければ。エミリーだって使うといなくなるぞ。赤ん坊になったら成人するまでどれだけかかるのか。人をなんだと思っているんだ。善良な日本人男子だぞ。ハーレムが遠のくじゃないか。お約束じゃないか。ウェブ小説条項違反で訴えてやる。今でも限界だ。これ以上若くなってしまうのは嫌だと声を大にして言いたい。


 ※ ※ ※ ※ ※


 魔法だったにしろ、今は使えるのは僕だけだし。

「そうか!」

荷物から巻物を持ってきた。

「エミリーもやってみてよ」

エミリーが巻物を広げようとしても広げられない。おかしいな? 

「巻物に、字か図の様な物があるなと思ったら、直ぐ光って消えちゃうけど広げれるよ。ホラ、この茶色いのもさ」

「ね、何にも書いてないけど光って消えるでしょ。おかしいなー、まだ七本あるからやってみなよ」

結局、僕がみんな開けたけどエミリーは広げられなかった。


「なんだ、これは?」

「ふしぎだよねー」

とエミリーに遺跡であった事をもう一度話した。


 半地下の部屋がありカードが散乱していた。取って埃を払い、キラキラした鏡の様なカードとジッと見たらピカッと光った事。その一枚をポケットに入れた事。

「財宝が有った部屋には、頑丈そうなドアが有ったけどポケットに入れていたカードがドアノブに触れるたら開いたんだよ」

「不思議な話だな」

「建物の入館許可証だったかも。ほら、このカードだよ。僕が写ってる」

カードには27才の独身男子の多少埃っぽい顔が映されていた。

「違うな、お前はこんな男じゃないぞ。それに、この絵は何だ」

「これは写真っていうの、ホログラムみたいだけど。その顔は、この異世界に着いたばかりの時の。元はこうだったの」

「そう言えば目元はそっくりだ。確かによく似ている」

写真の事は、後で説明するとして。ウーン、他には部屋に入る時、時計の様なカチカチ音が聞こえていたみたいだけど気のせいかと思ったし。気分が悪くなって、座り込んでしまい、暫くじっとしていた事ぐらいかな。


「部屋に入る時、音がしたと言ったな。じっとしていた事で、何らかの装置が働いたのかとも思える」

「何かの仕掛けが働いた?」

「巻物のある部屋に入り、棚からいくつか抱きかかえてカートに運んで箱に入れて?」

「抱えた事かもしれないな」

たしかに小部屋から巻物を移す時、抱えたから。

「色々あってよく分からないが、それかも……だな」


 色々あったんだと思ったが、入館許可証だったのあのカード? 

巻物の有った部屋。ひょっとしてカチカチ音ってМRIなの、CTスキャンだったの!

これって生体認証しちゃったの? 

棚の巻物、宝探し用に埋めた袋の巻物、カートの巻物、使えるのは僕だけなの。皆、登録しちゃたの……。


 ※ ※ ※ ※ ※


 エミリーがお肉を狩りに出かけた時に荷物の量、特に魔石の数を調べてみよう。補充の当てが出来たので良かった。二人になったから三箱有った水と食料も一箱ちょっとに減っている。


 空いたダンボールに移し替えながらカウントした。隠した自転車の処にある物を含めてだが持ち出した魔石は全部で210個位かな。薄くだがみんな色が着いている。これが属性と言うのだな。適正に使えば1,2倍らしいが。色は赤・青・黄・緑色で大きなサイズが各十個と、見方によって色が変わるような虹色が少し多くて20個。


 綺麗だし色が変わるので高そうに見えたんだよ。中サイズは各十個で、小と少々サイズは隙間に埋めたので各色十個ぐらいあったはず。魔石の直径サイズは、小は3センチ、中は5センチ、大は8センチ位である。


 ここに有る魔石は段ボール箱二個。金銀宝石が段ボール箱一個と半分。巻物が赤・青・黄・緑色二本ずつで八本あるからね。宝石付きの指輪の塊もあったが、隙間に埋めたのは金銀宝石の方が多かったし。自転車の所まで戻ればまだあるし、何よりメリダの部屋にいっぱいある。まぁ、直ぐに取りに戻るの、無理ぽぃけど。と言うよりも、あんな風にさまようのはもうごめんだな。それにこれだけあれば、当分の間行けるんじゃないかな?

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