第89回『俺物語!!』
【作品紹介】
別冊マーガレットで連載され、高校生とは思えないゴツい見た目と巨体の持ち主が主人公、という異色の内容で話題を呼んだ少女漫画を実写映画化。
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『HK/変態仮面』の鈴木亮平が、体重を30キロも増やしてこの役を熱演。
映画館で見た予告に引いてしまい、結局劇場で見なかった作品。
あとでレンタル解禁の時に見たこの映画、すごく面白かった。
でも、映画館で見たほうがよかったか?と聞かれると……?
家で見てもさほど遜色ない、という言い方をしておこう。
主人公は、剛田猛男(鈴木亮平)という、まるでジャイアンか? と思うようないかにもな名前の男子高校生。オッサンが学生服を着て歩いている、と思われてしまうほど、暑苦しいふけ顔である。
ずば抜けた体力と運動神経の持ち主で、また困っている人を見たら放っておけない正義感の持ち主でもあり、その
で、猛男の親友が砂川(愛称は『スナ』)という、ほとんどの女子に好かれてしまう超イケメンであった。二人が仲良く歩いていても、女子に好かれるのはスナで、猛男は「余計な障害物」と認識されるのがいつものパターン。
人助けをせっかくしても、女性や子どもには「キャー」と叫ばれ、誤解されて逆に犯罪者として通報されかけることも。そういう、非常に損な役回りをしていた。
しかし、そんなある日。
猛男とスナが下校中、近くの女子高の制服を着た子が、不良に絡まれていた。
いつものように放っておけなかった猛男は、強面と腕力を生かして撃退。
また、怖がられちゃいけないと思った猛男は、そそくさとその場を去る。
しかし、その女子高生(大和凛子)は、猛男たちを追いかけてきて、お礼を言う。それがきっかけで仲良くなり、猛男・スナ・凛子の三人で行動することが増える。
いかんせん、これまで猛男はモテなさすぎた。(人間扱いさえされないことがあった)その長い長い経験が、「自分が女性に好かれるわけがない」という強固な思い込みを抱かせていた。しかし、今回のケースでは驚くことに、凛子は猛男のことを好きになったのである。
しかし、いつものパターンで「凛子はスナが好きなはず」と最初から決めつけた猛男は、必死に凛子とスナをくっつけようと画策する。もちろん『善意』で。
あまりにも露骨にそれをするものだから。凛子は凛子で「猛男が自分がスナを好きだと誤解している」ことに気付かず、「私って嫌われているのかしら、猛男君やさしいから、遠回しに私じゃダメって言ってるのかしら?」なんて悩む。
とにかく、この映画の最大の特徴は『もどかしい』という点に尽きる。
な~んでそうなるかな? な~んでそんなにうまく誤解できるの?
なんで、そこで「好きだ」って一言、ちゃんと言えないの!
視聴者は、そんなやきもきした気分にさせられる。
でも、そんな不器用な二人のすれ違い劇が、見ていて不快ではない。
やきもきはするが、それでこの作品に対する評価が下がることはない。
なぜ、「すれ違い」や「思い通りにならない人間関係」を見ながら、嫌悪感が湧かないのだろう。
その昔、『男はつらいよ』という名作映画があった。
亡くなった北朝鮮の金日成が、好きな映画を聞かれ日本のこの作品名を挙げたそうな。(これって、一応光栄なんだろうか……)
寅さん、という古い世代の日本人なら誰もが知るような名キャラクターが登場するのだが、毎回寅さんが「マドンナ」と呼ばれる女性に最後はフラれるのが定番になっていた。
旅先で仲良くなって、毎回いいところまではいくんだが……
そんな、結局はフラれる話だと分かっていても、好かれる映画なのだ。国民的人気を得、50作近くまで作られた人気シリーズなのだ。見栄もプライドもかなぐり捨てて、そこ行っちゃえよ! って思う場面でも、寅さんは独自の「美学」のゆえに身を引いてしまったり、相手を思いやった結果「実はオレはお前が好きではない」みたいに強がって伝えてしまったり。
そんな、歯がゆいドラマなのに、なぜ人は見たいんだろう。
それどころか、一種の感動や清々しさまで覚えるんだろう?
●要は、好きなんだよね。
そこに、「人間とは」っていう部分がしっかり出ているからだよね。
そこに、実は生きる意味がある。
現代人はこの複雑怪奇な自虐システム(社会)に縛られている分、反動で「なんでも思い通りになること」への渇望がハンパなく強くなってしまった。
食糧が足りている状態なら飢えてがっつくことはないが、飢餓状態なら食べ物への執着や欲望は強まる。それと同じこと。人間関係上のすれ違いやもどかしさは、実はもうちょっと落ち着いた社会環境ならば「良いスパイス」なのだ。
しかし、あまりにも思い通りにならないことが 「辛いことだ」 「悪いことだ」というのが感じられやすい社会になったので、皆ただ嫌ってしまう。今回の映画みたく「他人事」ならまだ楽しめるが、自分のこととなると「最悪」だろう。
でも、実はその「ややこしさやちぐはぐさ」を思いっきり満喫するのが、この世界を始めた者の本当の望みである。それは、「完全世界(パーフェクト・ワールド)」にはないものだから。
すれ違い過ぎて、ケンカしすぎて世界が滅ぶ、というのはさすがに行き過ぎ。
でも、人がその安定した生活を保障され、その上で様々な人間模様を生み出していき、ドラマを紡いでいくことは、大事なこと。失恋や、誤解から生じる憎しみやすれ違いなどもあるだろうが、それも含めて、「人として在る」ということなのだ。
誤解から生じた災いの渦中にいる人には、そう思ってもらいにくいことは承知している。でも、受け入れる力のある者には、分かってほしい。
不器用さも、思い通りにいかない事実も含めて、人は美しい。
一生懸命なほど思い通りにいかない人間の在り方こそ、愛おしい。
そういう紆余曲折を得ない「愛の獲得」など、味気ない。
最短で、合理的に愛を勝ち取っても、そこに何もない。
そこに気付けてこそ、人としての深みが出てくる。
悩むこと、自分の不器用さに泣くことこそ、実は愛への最短距離なのである。
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