第68回『HERO』

【作品紹介】


 木村拓哉主演によるヒットドラマの劇場版第2弾。

 個性的な検事・久利生公平が、某国大使館の関与が疑われる女性不審死の真相解明に挑んでいく。



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 実は私、このドラマの過去作品をまったく見たことがない状態で、映画館に行った。その昔、まだ妹も含め家族が皆同居していた頃、妹が居間のテレビでよくこれを見ていた記憶はある。そういう時私はどうしていたかというと——

「なんじゃ、キムタク主演か。コイツ、何演じても『キムタク』にしか見えないんだよな~」とかブツブツ文句を言いながら、居間では別のことをしていたか自室にこもるなどしていた。

 で、結局見る機会もなかったというのに……

 今更、過去作品の予備知識もないのに、お金を払って劇場版の第二弾をいきなり見に行くとは!

 我ながら、ヘンだと思った。



 結果から言うと、面白かった。

 松たか子とキムタクのからみや、他のレギュラーメンツの個性を知らなくて楽しめたんだから、全部見ている人ならもっとニヤニヤできたんだろうと思うと、やっぱり良くできた作品なのだろう。

 細かいこと言えば、大使館やヤクザがらみの事件を、この程度のことで解決できてしまうのか? という疑問は残ろが、そこは脚本の面白さと、役者陣の演技力と人徳でカバーしている。

 一般水準的に「ハズレではない」作品だと言える。

 気軽に見る一本としては、オススメできる。



 何と言っても、この作品のキモは主人公である検事・久利生公平だろう。

 彼の魅力の一端が垣間見れるセリフが劇中にあったので、ひとつ紹介する。

 ある女性の交通事故による死を追いかけるうちに、「大使館」という壁に行き当たる。治外法権や外交問題など、一直線に追うにはリスクが大きすぎる、という状態の中で、彼はこう言う。



●我々が動かないと、なぜ彼女が死ななければならなかったのか、永遠に分からなくなるんですよ?

 本当に、それでもいいんですか?



 ここに、人として「どこに注目するか」の違いがある。

 並の人物なら、危険と真実探求をはかりにかけて、「危険回避」のほうを選ぶ。別に、どこぞの女がなぜ死んだか、分からなくてもいい。それより大事なのは、自分の御身である。

 しかし久利生は、サラッと「真実が永遠に分からなくなるほうが、我慢ならなくないですか?」と言えている。危険回避よりも探求のほうにはかりが傾いている。

 こう書くと、褒め言葉のように思うだろうが、実はただの「バカ」である。

 これは、ドラマだからいいよ。現実にやってみたらいい、現職で検事やっている人がいたら。まず、間違いなく不幸になりますよ。

 まともなのは、久利生ではなく危険回避を選ぶ圧倒的多数のほうである。

 久利生公平は、状況分析能力と危険回避本能に欠けるただの馬鹿である。

 それがなぜかたまたまうまくことが運び、ヒーロー(英雄)となっただけである。



 視点を変えると、ヒーロー(英雄)となる条件とは——



●バカであること



 これなんじゃないかと思う。

 たいがいのまともな人が、「こんなことしちゃこうなる」と分かるので控える所を、一度「自分の興味の対象」に囚われたら他のどんな情報さえもその人物を止めることができない。なぜなら、もう「聞く耳を持たないから」である。

 でも、そういう人物に限って、偉業を成し遂げたりしてしまうのである。

 もうね、バカになれない人は無理ね。英雄になるには。

 バカである以外にも、いくつかサブの条件も付けてみよう。



【ヒーローになる条件】


 ①バカであること。状況判断能力に欠け、恐れを自覚しにくいこと。

 ②頑固であること。こだわりが強いこと。

 ③空気をあまり読まないこと。



 ②に関しては、危機管理能力のある普通の人が「やめとけよ」と止めても耳を貸さない頑固さがあってこそ、前人未到の快挙への挑戦権を手にできるからである。まともな人、人の意見に耳を貸す人は挑戦すらできない。

 ③は、当たり前だろう。そんなもの読んでいては、誰もやったことがないことを成し遂げられない。一般的には、空気を読まない奴は嫌われるが、あるラインを突き抜けるとその人物は特別扱いとなり、空気を読まなくても「慕われる」ので、そのことが何らハンデにならない。

 芸能・芸術系の本物にはこのタイプが多い。



 もちろん、緻密に計算もして空気も読んで、なおかつ大胆という「ヒーロー」もいるだろう。

 でも、その両方を兼ね備えたタイプは数が希少だ。

 「バカ」タイプヒーローのほうが圧倒的に多い。

(注釈するのも面倒だが、今言ってるバカというのは、学校の成績とかいうくだらないものを基準にしていないことくらい、分かって読んでるよね? 念のため。)

 それと、緻密計算ヒーローとバカヒーローを競わせたら、よりすごいことをする潜在的可能性にあふれているのは、もちろんバカヒーローのほう。

 天才肌ヒーローは良くも悪くも控えめな成功に収まる。

 信じられない奇跡を起こすのは、圧倒的にバカタイプのヒーロー。



 ……ということで、安全だが当たり前の、判をついたような毎日にうんざりなら、バカになることをおすすめします。(笑)

 生きる上でのリスクは生じますが、それでも人生にハリと潤いが出ます。

 古今東西、ヒーローはみなそのリスクを越え、人生の大勝負に勝ってきた猛者たちだ。筆者も、その戦列に加わっている。

 別にダメでもいい。「逃げずに、賭けた」というその事実が、たとえ結果がどうであっても一生涯私の慰めとなり、宝となる。

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