第62回『イニシエーション・ラブ』
【作品紹介】
ベストセラーを記録した乾くるみの小説を実写化した、異色のラブストーリー。
恋愛下手の大学生と歯科助手の出会いを描く「Side-A」、遠距離恋愛を経て彼らの関係が終わるさまを追う「Side-B」の2部構成でつづられる。
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いや、やられましたな。
ただこの場合の「やられました」は、ラストシーンで完全に「騙された」という意味ではない。何せ原作既読なんで、一応のオチは分かっている。
だから、あと興味があるのは、「どう映像化するのか」というところだけである。もちろん、これから見る人の興を削がないように、ネタバラシはここではしない。ただ、こうは表現しておこう。
●うっ、そう来たか……!
見事であった。
原作のオチが生きるのは、あれが文字情報だけの「小説」だからだ。
言葉のもつ解釈の多様さ、一番手近にあり目立つ情報に目を奪われる人間心理の隙を突いたようなトリックなので、それを映像化してしまったら最初から「オチがさらされている」状態と化してしまう。
私は、そこの勝算があって映像化するのかとびっくりした。どう考えても、私個人の想像力ではそこをどうするのか思いつけなかった。でも、実際を見て納得。
原作の「弁慶の泣き所」である、ある見かけ上の違いを、うまく克服していた。
これは、脚本さんナイスアレンジ!
もちろん、これは私個人の感想であり、賛否あるだろう。
でも、私は好きだな。
シックスセンスという映画もそうだが、最後に「うわ、騙された~」と心底思うような体験って、日常でそう多くはない。自分の個人的な日常を考えてみても、そうしょっちゅうではない。
まぁ、あえてあるとしたら、「後ろ姿を見て超美人だなと思っていたら、振り返ったのを見て……だった」「CMで宣伝していた、店頭でうまいこと言ってセールしていた商品を買って、家で使ってみたらそれほどよくもなかった」ってくらいなものではないか。
平和で平凡な日常なら、騙されるなんてそんなくらいだ。
たまに、大掛かりな詐欺に遭うなどの苦い経験をする場合もあるだろうが、そうポンポンはない。(辛い方面ではないほうがいいが) だから、日常平和な人々はこういう娯楽の中で「騙された」感を味わおうとする。
でも、私たちの自我が主観として眺めている人生って……
●朝から晩まで、24時間騙され続けている。
ある視点から切り取ると、本当にそういうことである。
私たちの目や耳、あるいは思考や感じ方といったものに、無数の個体間でどれひとつとして同じものはなく、同じものを見ても聞いても誰一人としてまったく同じ取り方をしないのだということを考えてみた時、幻想上の分離した個としては、常に世界から 「騙され続けている」。
しかし、別視点でも逆のことが言える。
そもそも、この世界へは何をしに来たか?
●騙されに来たのである。
●この世界で、我々が「正しくものを見れない」ということはいいことなのだ。
「奇跡のコース」というスピリチュアルでは、私は正しくものを(世界を)見れていません、ということを最初に徹底的に学ぶ。確かにその通りなのだが、それを学んだあとが重要なのだ。
正しくものを見れていないと分かったあとで——
正しく見れないでしか生きられないということを受け入れる。
矯正しようとするのではなく、そういうものだと割り切る。
割り切るというより、むしろ逆手に取って楽しむ。
だってこの世界へは、それを楽しみに、遊びに来たのだから。
不幸なことでなければ、騙されるということは、ひとつの生きるスパイスでもある。決して悪いものではない。
これからも、人が生きる以上環境に、見た目に、主観に騙され続けることだろう。でも、その知り得て感じ得た「勘違い情報」を元手にして、どれだけ幸せな人生が築けるのか、のゲームが楽しいのだ。
この映画は、オススメである。
見終わった時、ニヤニヤ笑いが思わず出ることだろう。特に原作を知っている人は「そうか、そう来たか……」 って。
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