第2話「レイドバトル、口うるさい羽衣を着た女性」

 緑のメガネを掛けた羽衣を着ているほぼ初対面の女性に「しょぼいのよ」と言われた。

 長い髪を耳から掻き分ける。そして首を振り、顎を上に上げて仁王立ちで立っていた。

 僕は口をぽかんと開けて、は!と目を見開いた。

「なんのことだよ。いきなり言われたら……、てお前、手にスマホってことはさっきのレイト、あんただったのかよ」

「ふん、ようやく人が来たって思ったらとんだ雑魚だったわよ。私のレイトチケット返して、ねえ返してよ」

なんだろう。初対面であった時とイメージが違う。僕の最初にニコリと笑みを浮かべた人とは別人だ。

「というか、レイトチケットぐらい自分で課金しろよな。ボタンを一つ押すだけで出来るだろうが」

「は?貴様は何を言ってるの?無課金主義の神様に口答えするつもりなの?ねえ処すよ。貴様?」

 いきなり貴様呼ばわり。人間の初対面のルールを知らないのだろうか。はたまた世間知らずの神様の格好を真似た痛いお嬢様だろうか。

「はいはい、わかりましたよ。お嬢様。けったいな服を着ているわりに無課金とはいい趣味してるぜ」

「お嬢様じゃないし、趣味じゃないわよ。数多ある願うを叶える女神、神宮寺要人じんぐうじかなめよ。よーく、貴様のバカな頭に叩きこんどきなさい」

「はいはい、わかりましたよ。神宮寺。で下の鳥居でレイトあるのだけどお前も行くのか?」

「ふん、決まってるじゃないの。もちろん行くわ。ところで貴様の名前を聞いてないわね。名前はなんていうのかしら?」

 神宮寺はスマホ触りながら言う。タップした感じからスマホゲームの回復をしているのだろう。次のレイドの準備をしていた。

「僕の名前か?九条南くじょうみなみ、って言うかアプリ名に南って書いてあるだろう?見てないのか?」

「見てないわ!そんなSNS上のもの信用するわけないじゃない。私は本人、会った人じゃないと信用しないの。それじゃ行くわよ。南、ついてらっしゃい!ボスをぶっ倒しに行くわよ」



 階段を降りて下の神社の鳥居、レイドスポットに着くと、すでにレイドバトルは始まっていた。

人数『0人』

「やっぱりしょぼいわね。なんでこんなに観光客居るのに、ゲームやってる信者たちは居ないのかしら?」

 神宮寺要人はボソリとおかしな事を言うがスルーすることにした。気にすると眠れなくなりそうだし。それよりもレイドバトルの方に専念したい。

「おい、神宮寺!星三のモンスターだし、絶対に勝つぞ」

「あんた、私の方が年上で偉いのよ。少しは敬語使ったらどうなの?バチの一つ当ててやるわよ。……まああんたこそ足を引っ張るんじゃないわよ」

人数『二人』

 程なくしてレイドバトルは始まった。


 ぎりぎりながらもなんとかレイドバトルには勝利出来た。星三のレイドなのでそこまでのアイデムはなかったのだが、勝利した高揚感は気分がいい。なんせ僕自身レイド勝利数に数少ない勝ち星を付けたのだから。

「なかなかやるじゃない。九条って言うんだっけ。あんたのとどめの剣さばき良かったわよ。褒めてつかわすわ」

「まあな。星三ならばこれぐらいできるさ。それより神宮寺の支援魔法も良かったぜ!」

 二人で褒めあいながらも、僕と神宮寺は顔を真っ赤にしながら頭をかいた。

 僕はスマホを見ると、レイドバトルはやってない事を確認する。

「それじゃ僕はもう行くよ。今日は楽しかったよ」

「あ……、そ、そうね。褒めてつかわすわ。感謝してあげる」

 神宮寺は腕組みをしながらプイッと顔を背けた。チラッと見る瞳がウルウルとしているのに気づく。

「あんたが良ければ、またやっても良いんだからね」

「ああ、また来るよ。今度は星五を倒そうぜ」

「うん!待ってる!!絶対に来なさいよ!!」

 僕は手を振って見送ってくれる神宮寺を見つつ、程よい疲れを感じつつ自宅へ帰っていった。

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