レイドバトルの女神ちゃま

誠二吾郎(まこじごろう)

第1話「海の見える山の神社で願った」

 長い階段を駆け上がり、息を荒げながら走る。階段の周りは商店街のような商いが行われていた。

 商いをしている人や観光客でごった返す中、僕は走っていた足を止めた。

「ふー。階段ってキツい。だけどお宝があるんだし頑張って登らないと……」

 僕は腕につけているスマホをちらりと見る。確認後、自分の足にムチを入れて再び走り出した。


 僕の目的はスマホアプリのモンスターだ。とある時間帯、場所に出現する伝説のモンスター。なぜ、こんな遠い場所にスポットがあるのか不思議だけど、運営様が神社だからと安易な考えでスポットを作ったのだろう。

 ただ、上の神社まで千三百八十七段もあるんだ。スマホアプリならせめて下の商店街がスポットで良かったんじゃないかと心の中で思う。


 階段を駆け上がるが、階段の中間地点の少しだけスペースがある場所で僕は息を荒げ、立ち止まった。

 足に手を置き、呼吸を整える。ゆっくりと周囲を見渡すように歩く。

 見える景色は、僕らが暮らす家々がたくさん密集していて、もう少し奥を見渡すと海が見えた。

 ハアハアと息を整えながら、観光客は僕を通り過ぎる。そんな時だった。なんだか神々しいと思える背中にピンクの羽衣をつけた女性が一人僕の後ろを通り過ぎるとニコリと僕を見て微笑んだ。まさに女神のような女性で、モデルさんのような存在だった。ただ誰も驚いた様子もなく、見慣れている感じだった、というか誰も気にするそぶりもしていなかった。そしてそのまま人混みに紛れるように消えていった。


「コスプレさんだったのだろうか……」

 なんだったんだろうかと疑問に思いながらも、僕はボソリと言いながら、スマホの時間を確認する。

「やっべ、急がないと、もうレイトバトル始まっちゃう!!」

 顔をパチンとひと叩きし、先ほど会った女性のことなどすでに頭になく、再び階段を駆け出した。


 階段を駆け上がり、ようやく鳥居が見えてきた。ちらほらと居る観光客が目に入りながらも、僕はスマホのアプリを立ち上げた。

「はあ、はあ、あと十分か……。間に合ってよかった」

 階段ダッシュのおかげで息切れ気味だ。もうすでに足がガクガクで、日ごろの運動不足を自分自身に恨むと同時にホッとしたのか、間に合ったことでぺたんと地面に座り込む。

 ただ見渡してみても、スマホで写真を取っている人は居ても、ゲームアプリを行なっている人は見られない。少しばかし嫌な予感がする。もしや一人なのかもしれない。ボスのレベルは星五、最高レベルだ。自分一人だけでは勝ち目などない。レイドバトルは星が一から五まで存在していて、レベルが高くなると同時に貰えるアイテムのレア度が上がる。報酬ってやつなのかな。せっかくここまで来たのだ。ぜひ手に入れたい。

 目の前には神社、ここは神頼みでもしてみるか。

 鳥居をくぐると、本堂まで歩く。ポケットに入っている小銭を確認。五円玉一枚入っていた。

 きらりと光る五円玉を見つめ、お賽銭箱に入れた。

 二礼二拍手一礼の順に行いながら、僕は願った。目をつぶりながらしっかりと。

「レイドバトルに人が来ますように……。かしこみかしこみお頼み申す!!!!!。ふう、それじゃ行きますか、絶対にゲットしてやるぜ」

 スマホを開き、アプリを起動。期待を胸に画面を見る。

参加人数『0人』

「ああああああああああ、やっぱりぃいいいい」

 頭を抱え、その場に座り込む。やはり居なかった。いや、まだ諦めるにはまだ早い。

 スマホの画面を操作する。剣のボタンをタッチし、グループに入った。

参加人数『一人』

「…………、まあしょうがねーわな。ここは待つしか……」

 急に『プルン』とスマホの振動音がする。僕はスマホを確認すると目を大きく開けた。

参加人数『二人』

「うわぁあああ!!一人増えた!!誰??」

 僕はキョロキョロと周りを見渡すが、スマホアプリをやっている人は見当たらない。ただ二人だと勝てるだろうか、いやここは男ならやるしかない。

 そうしているうちに時間が経ち、レイトバトルが始まった。



 レイドバトルは僕の気合とは裏腹に苦戦を強いられていた。

 入ってきた見知らぬ人はゴリゴリと削る。ただ星五のレイドバトル、全然攻撃が入らない。ボスの体力は半分まで削ったところで終了。星五のボスに二人でここまでやったんだ。大健闘だろう。アイテムは取れなかったがいい経験になったと思う。

 するとずかずかと一人のメガネを女性が近づいてくる。その女性には見覚えがあり、階段で会った女神のような女性だった。その人はほっぺを膨らましながら開口一番に大声で叫んできた。

「あんたしょぼいのよ」

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