第五章

 八月に入った。出来立てのアスファルトから舞い上がる熱気を直にくらっている時が、土木作業員になった自分を後悔する最大の瞬間である。

夏、灰色の作業着の中は蒸れて、へその少し上の辺りを中心に水溜りができる。少しでも涼しさを感じたくて空の入道雲を見上げたが、その奥の太陽に顔面を刺激され、すぐに顔を下ろしてまた作業に取り掛かった。

こんなとりとめもない瞬間が積み重なって、

今の自分がいると思うと、情けない。


「街角横丁」。

 おそらく日本全国どこを探しても、ここより安くで酒が飲める場所はない。日頃、野良猫のしゃぶった魚の骨みたいな安月給で生活している俺はもう、ここ以外では飲めない。それに、ここは良い場所だ。見ず知らずのおっさんも、酒を注ぐママたちも、俺に優しい。仕事現場から、汗と泥が滲んだ作業着姿のままここに来るような汚れた俺を、みんなすんなり受け入れてくれる。酒だって、疲れている日は美味いと感じることもある。とにかく、ここは良い場所だ。本当にいい場所だ。

 でも、それももう終わり。ここで飲むことも、もう終わりにしなければならない。

 八月のある夜。俺は約束を破ったから。


一か月ほど前からこの辺りに顔をちらつかせている少年に、とうとう声をかけてしまった。約束だったのに、声をかけてしまった。酒が入っていた、なんて事が言い訳にならないとは分かっている。情けない。この期に及んでまた約束を破ってしまった。それに少年と話している時俺は、酒が入っていたにもかかわらず確実に緊張して焦っていた。

やっぱり情けない。

もう俺はここで飲む資格がない。


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