第56話コンスの東風
【ヌトの指輪】の力を借りて、ルシフェルの軍勢を迎え討つ全ての準備が整った。
ミカエルはコンスを召還すると拠点とは反対側の岸で待機する。
相変わらずの南風、暫くするとルシフェル軍が上流から流したであろう木材とタールがゆっくりと目の前を流れ貯まって行く。
ルシフェル軍が押し寄せる地響きが近付いてくると、ミカエルは持っていた松明を川に投げ込んだ。
「ミカエル様!?」
逸脱した行動を取るミカエルに、ミカエルの手中にあるコンスさえも若干表情を曇らせる。
火は勢い良く燃え上がり、短時間で炎の川を創り出した。
少し離れた場所から見ていたルシフェルは、今から燃やそうとしていた敵の拠点から煙が上がっているのに困惑し、一時軍勢の足を止めた。
(ほう......。ミカエルめ何か罠を仕掛けているな)
ルシフェルは馬から降りてもう一度風向きを確認すると、ベリアルに率いていた軍勢の指揮を委ねた。
(あの奥手な弟が積極的に誘っているのだ。快く誘いに乗ってやろうじゃないか)
「ベリアル!最初の計画通り奴等の拠点に火矢を射ち焼き払え!!」
「はっ!総統は?」
「私はミカエルの元へ行く」
軍勢はルシフェルの指示の下、ベリアルを先頭に進軍を再開する。
「火矢を射て!射って、射って、焼き払い奴等の補給路を断つのだ!!」
ベリアルの号令で一斉に矢が放たれる。
風上から射たれた火矢は勢い良く次々と拠点のテントや荷物を射抜き燃やして行く。
「ベリアル様、敵が1人も出てきませんが」
「構うな、既に我等の動きに気付き逃げた後だろう」
ベリアルはルシフェルの命令通り次々と火矢を射たせる。
乾いた土地柄や風向きにより炎は瞬く間に広がり拠点は火の海となった。
「コンス、東風を吹かせてくれ!」
矢の攻撃が収まると同時にミカエルはコンスに東風を起こす様に命じる。
コンスが起こした東風を合図にルシフェル軍の後ろに回り込んでいたミカエル軍が一斉に結界を解き進軍する。
「ベリアル様!敵軍に取り囲まれています!!」
「何だと!?」
ベリアルが隊勢を変えようと指示を出したと同時に敵軍の攻撃が始まる。
「敵は袋の鼠だ!一柱でも多く討ち取り昨日の雪辱を晴らせ!!」
容赦なく射ち込まれる弓の雨、不意を突かれたルシフェル軍はじわじわと後退して行く。
「止まれ!これ以上後退するな!!」
先程自分達が生み出した火の海が後ろに迫る。ベリアルは兵士達に戦う様に指示を出すが、矢は殆ど使ってしまってなす術が無い。
「上空だ!上空に飛べ!!」
逃げ場を失った兵士達は上空に飛び上がるが、南風と東風がぶつかり合い空高く上昇した煙が行く手を阻む。
「特攻だ!死を覚悟で飛び込め!1柱でもいい。敵軍を巻き、援軍を要請せよ!!」
ベリアルの命令で兵士達は果敢に弓の嵐に立ち向かう。
後ろでは東風に煽われた炎がルシフェル軍を追い立てる。
全ての兵士が死を覚悟で敵軍に突進する。
強靭なルシフェルの兵士の何柱かは、ミカエルの兵士を捉え、数ヶ所で槍や素手による戦闘が行われた。
上位の天使による四大元素を使ったぶつかり合い、巨人や式神、神具を使った大地を震わせるような大合戦。
ここまで来ると、戦のルールなど意味を成さない。
生きるか死ぬかの瀬戸際で全ての兵士達が己の信念のために戦う。
一方、火の壁で守られたヨルダン川の向こう岸。ミカエルとコンスは炎の裏側で静かに佇んでいた。
コンスは炎に照らされた自分を使役する美しい天使の横顔に畏れの念を抱いた。
「ミカエル様、そろそろ私の力が尽きます」
「そうか、ご苦労」
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