第52話満月の夜
昼間とは打って変わって静まりかえった【ヨルダン橋】。
ミカエルは退却して来た兵士達を労っていた。
「奴等の物流を止める事に成功したのだ。落ち込む事はない、大成功だ」
「しかし、かなりの兵士が犠牲になりました」
「私の読みが浅かったのだ。お前達は良く働いてくれたさ」
ミカエルは、悲しそうな顔をしている兵士達を励ます。
(やはり、昨日今日編成した軍隊で兄を陥落させる事は難しい)
神々の兵士達の中には、ルシフェルの恐ろしさを前に意気消沈し、国に帰ってしまった者も居る。
(仕方ない、まともに軍事訓練を受けた事も無いのだろう)
それでもミカエルの元にはまだルシフェルを超える大軍が従えている。
ミカエルは夜中に1人、ヨルダン川の
(勝敗は神々の軍勢をどうまとめるかにかかっている)
川の水を掬うと、水面に映る満月が笑う。
ミカエルは右手薬指にはめた【ヌトの指輪】を見つめて、弟の言葉を思い出す。
(お前との約束を守れそうに無いよ。弱い兄を許してくれ。弟よ、力を借りるぞ)
一方、ヨルダン橋とシディムの谷の中間地点では、ルシフェルの軍勢が祝杯をあげていた。
冥界の高級酒を全ての兵士に振る舞い、遊女や楽団を呼び寄せ勝ち戦を祝う。
「今日は皆、良く頑張ってくれた。多少の犠牲者は出たが、我軍勢の恐ろしさを十分植え付ける事が出来た。今夜は好きなだけ酒を飲み、気に入った女が居れば一夜を伴に過ごしたらいい。明日の戦も絶対に勝てる。お前達の忠誠心と勇気を信じているよ」
ルシフェルは自ら笛を奏で、遊女を舞わせ兵士達を喜ばせた。
ルシフェルと彼に従う天使達は、もう主の教えに従う者は居ない。
好きなだけ飲食し、快楽に耽り、必要以上に富を築く。
ルシフェルの神々しさと栄光の元に、いつまでもこの幸せが続くのだと殆どの天使達が信じていた。
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