第50話三界大戦争1

 冥界とシディムを結ぶ関所。冥界側は、ルシフェルが誑かしたエレシュキガル女王の領地である。


「ベリアル、地上に援軍は降ろしたか?」


「全て仰せのままに。オロバスの元へもそろそろ合流できるかと」


 ルシフェルは険しい顔でシディムへの入口を見つめる。


「ベリアル!」


「はい!」


「この戦いは厳しいものになるだろう。私やミカエルにとってもだ」


「はい!」


「今まで付き従ってくれてありがとう。私達で理想の世界を創るぞ!」


「はい!」


「さあ共に参ろう!」


「はい!!」


 ルシフェルとベリアルは夜の静寂に包まれた冥界から今まさに戦いの最中にある日輪の昇る地上へと降りて行った。


 一方、【ヨルダン橋】を手中に収めたミカエルは、己も冥界の鎧に身を包み神殿の前に残った軍勢を整列させていた。


「今や地上の神々のほぼ全てが我等の味方である。我々は大地に愛され、冥皇の寵愛も受けている。これは即ち【主】が我等を選んだと言う事であり、争いを生み出した元凶の、悪たるルシフェルを討たねばならぬと言う事である」


 次にミカエルは、作戦の一部を天使達に伝える。


「今頃、ルシフェルの援軍達がシディムに集まり、我等を討つべく戦略を練っているだろう。ルシフェルは我等を蹴散らしたら、次は必ず己にたてついた国々を滅ぼしにかかる。そんな事は絶対にさせてはいけない」


 ミカエルの後ろ楯になっている地上の神々、その数は日に日に増え続けている。


「既に、私に授けられた神々の軍勢をシディムを覆うように駐留させている。もはやルシフェルの軍勢など敵とは言えぬ程に小さきものだ。真の敵は己の中にある恐怖に臆する心のみ。皆一丸となって戦ってほしい」


「おーーーーーー!!」


 喊声が大気を震わせる。

 ミカエルはゆっくりと階段を下り、馬に繋がれた戦車に乗り込む。


「これより全軍を出陣させる!」


 ミカエルは、自ら馬に鞭を打ち全軍を率いて【シディムの谷】へ旅立った。


 その頃、ウリエルの命令通りにシディムへ進軍するラミエルとサキエル。後2時間もすればルシフェルの拠点が見えて来るはずだ。


「このまま、ルシフェルの援軍に出会でくわさずシディムへ侵攻できるか......」


いや、ラミエル!やはりお出座でましのようだ!」


 望遠鏡を持っていたサキエルがルシフェルの援軍がこちらに向かっているのを伝える。


「大将は誰だ?」


「モロクだな、厄介だぞ」


 シディムから援軍に駆け付けたモロク以下1万5千柱の大軍が竜の旗を掲げてこちらへ進軍している。


「戦闘用意!!」


「いや!待てラミエル!!後ろからまた援軍が来た!!」


 モロク軍の後ろから更に1000柱程の援軍が戦車を率いてこちらに向かって来る。


「怯むな!大将は誰だ!?」


 望遠鏡を覗くサキエルの顔が青ざめる。


「なっ、何で奴が......」


「どうしたサキエル!大将は誰だ!!」


 サキエルが覗く望遠鏡には、金色の鎧を着た強く美しい天使。かつての大総統ルシフェルの姿が映しだされた。


「ルシフェル!大将はルシフェル!!」


「なっ、何だと!?」


 ラミエルはサキエルの望遠鏡を奪い取って確認する。


「誰か!誰か急いでミカエル総統に連絡しろ!!」

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