第49話【ヨルダン川の戦い】ウリエル対オロバス2

 ヨルダン川の水で造った壁は茶色く濁り、外からは2柱の様子を見る事は出来ない。


 門を突破したラミエルとサキエルは物資を燃やし、大軍をシディムめがけて進軍させる。


「どうかウリエル様ご無事で......」


 このまま何事も無く突き進めば、3~4時間位でシディムに到着できるはずだ。


「いつもミカエルから借りている【焔の剣】は無いのだな」


「それは、本来の持ち主に返した」


 ウリエルとオロバスはお互いに剣を抜くと相手目掛けて突進する。


「そんな細い体と剣で勝てるものか?ウリエル、力だけなら俺の勝ちだ」


 強靭な筋肉を持つオロバスは、大きな太刀を次々とウリエルに振り下ろす。


「力だけで勝るなら今頃お前も熾天使の位に居たはずだ。戦略なくして勝利はない!」


 ウリエルはオロバスの剣を紙一重でかわしながら隙をうかがう。


 オロバスの力はとてつもなく強い。振り下ろした剣の風圧で水の壁が歪む。


(自分の力を信じるんだ!絶対に勝てる!)


 オロバスの剣より二回りも細い冥界の剣は軽くて扱い安い。


 ウリエルはオロバスが疲れて、動きが鈍ったところを捉えるつもりだった。


「そのまま避け続けても無駄よ。俺より先にお前がバテるさ」


 オロバスは見た目程馬鹿では無い、ウリエルの考えをちゃんと読んでいる。


「それならこのまま体力勝負といこうじゃないか」


「ふんっ、そんなのつまらんね......」


 オロバスは後ろに飛び退くと両手に持っていた剣をウリエル目掛けて投げつける。


(何をするつもりだ?)


 ウリエルは飛んで来た剣を避けると、警戒して身構える。


「おい、ウリエル!お前も剣を捨てるんだ。聖霊は聖霊らしく奇跡の力で闘おうじゃないか。自慢の炎を見せておくれよ」


「これは大切な剣なので捨てる事は出来ない。だが、剣を持たぬ相手に剣で交える事は出来ぬな」


 ウリエルは剣のグリップを水の壁に突き刺すと、両手に炎を出現させオロバスに突進する。


「ならばこちらは雨雲で対抗しよう!」


 オロバスも纏っていた黒い雲を両手に集め、ウリエルに突進する。


 熾天使と智天使の全力の戦い。その凄まじさは言葉で言い表せぬ程に熾烈な闘いだった。


 ウリエルが炎を鞭の様に伸ばし、オロバスを捕らえようとするが、オロバスはその鞭を強い酸性の雲で覆って消してしまう。


 しかし、ウリエルは炎を次々と出現させ少しも動揺する事無くオロバスに向かって行く。


 水の壁の中では、沢山の炎の鞭とそれを消そうとする強酸雲で充たされ、動ける空間が狭まっていく。


 外から見ると、2柱の激しい動きで水の壁が幾度となく歪み、中で行われている戦闘の激しさを物語る。


 ここまで炎や強酸雲で充たされては、もう負傷を覚悟で取っ組み合いの喧嘩をするしかない両者。


「相撲など何千年ぶりか」


 お互いの炎や雲で既に沢山の水ぶくれやただれが出来てしまった2柱。


 細身のウリエルは若干圧され気味だが、戦略で勝利を掴み取るつもりだ。


「負ける気はしない!行くぞオロバス!!」


 ウリエルとオロバスは互いの腰を両手でしっかりと掴み組み合う。

 体重の重いオロバスはウリエルの力では中々動きそうにない。


 しかしオロバスもウリエルの着た不思議な鎧が滑って掴みにくく、投げ飛ばす事が出来ない。


 オロバスが出現させた強酸雲は、お互いにくっついて酸性雨を降らせ始めた。


 オロバスの鎧は少しずつ溶け、最後はオロバスの筋肉も溶かして行く。


 こうなると流石のオロバスも風前の灯。じわりじわりとウリエルに押され後退してしまう。


「んっぐううっ......」


 それでもオロバスは力を振り絞り、恐ろしい形相で堪える。


 不思議な鎧で守られたウリエルと言えど、隙間から入った酸性雨は防ぎようがない。余り長く、この空間に留まる事は出来ない。


「オロバス覚悟!!」


 ウリエルは大声を張り上げると、先程自分がグリップを刺した剣めがけて力一杯オロバスを投げ飛ばす。


 ドッ!という鈍い音と共に水の壁が赤く染まる。


「中々楽しい相撲だったぞ」


 オロバスはニヤリと笑ってウリエルに言った。


 外では、ラミエルによって燃やされた建物と物資が勝鬨かちどきの様なこえを上げている。


 ウリエル対オロバスの闘いは、死闘の末ウリエルが勝利した。

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