第47話開戦

 兄への謀反を決めたミカエル。彼はカナンの神殿を拠点とし、全軍を指揮する将軍として戦略を練っていた。


 まずはシディムに侵攻し、冥界から兄を引き摺り出す。

 シディムを陥落させたら次は冥界、弟を救い上げ主の元へ伴に帰る。


 仲間達にはシディムを陥落させ、兄を討ち、自分が総統となって全ての天使と属国を支配するとしか伝えていない。


 ミカエルの心には未だに【主】の命令が生きている。

 ミカエルの敵はルシフェルの傲慢さと、弟以外の冥界の住人だ。


(サリエルはあんな所に居てはいけない。冥界は兄を傲慢な男に変えてしまった)


 冥界と懇意であった神々の話しでは、ミトラはミトラ神を冥界に縛り付けるためにある冠だ。


(弟にはミトラを冥界に放棄して来てもらう。冥界など消滅してしまえばいい。私は兄を捕らえ、弟を手に入れ、【主の空間】に永遠の時を与えて兄弟3人で仲良く暮らす)


 既に【主の空間】では、サリエルに熾天使の位が与えられ、【主の民の王】の御前に立つ事が赦されている。


「ウリエル殿!まともな戦は何百年ぶりですね」


 総勢2万の天使の軍団がシディムを目指し駆け抜ける。

 黒光りする美しい鎧に天秤の旗を掲げ、馬に跨がり、戦車を引き連れている。


 ウリエルを中心にした、サキエル、ラミエル率いる軍勢は、ミカエル配下の天使の中でも選りすぐりの精鋭達だ。


 大軍はヨルダン川に沿って下流に下る。このまま暫く進めば川を挟んでオロバス軍と出会すはずだ。


「どうど~う!」


 先頭を走っていたウリエルが馬を止める。そろそろこの大軍勢にオロバスも気付くだろう。


「ラミエル、オロバス軍の様子はどうだ?」


 ラミエルは望遠鏡を覗きオロバス軍の様子を観察する。

 オロバスが軍を駐留させている物流の要である大橋。その橋を急いで渡るオロバスの兵士が居る。


「敵も我々に気付いた様子です」


「不意打ちは好まない。ラミエル、悪いが急ぎオロバスの元へ飛び、ミカエル様がシディムに侵攻する事を伝えてくれ」


「はっ!」


 ウリエルはラミエルに指示を出すと全軍を暫く留まらせた。

 神々の戦にもルールがある。ルシフェルは度々破る事もあったが、ミカエル軍は悪魔で正攻法で行く。


 ウリエルに指示を出されたラミエルは稲妻のごとき速さでオロバスの元へ向かう。


 ラミエルが橋の上に着いた頃には既に門は閉じられ、オロバス軍も武装し警戒していた。


「オロバス殿!聞いているか!!我等がミカエル様がこれよりシディムへ侵攻される。ルシフェルを討ち、我等の長となるための戦いだ!!」


 ラミエルが橋の上で大声を張り上げると、弓矢を持ったオロバスの兵士達が門の上に姿を現した。


「すでに【総統】と名乗るとはいい気なものよ。ミカエル様が一度でもルシフェル様に勝った事があるか?飲み比べでも双六すごろくでも何でもよい。我々は一度として総帥が総統に勝ったところを見た事がないぞ」


「馬鹿な真似は止めろ!一体誰に誑かされたか知らないが、今引き上げればルシフェル様はお許しくださる」


「誑かされた訳では無い。ミカエル総統がご自身で決められたのだ」


「総統はルシフェル様ただお一人だ!!」


 そう叫ぶとオロバスの兵士はラミエルに向かって矢を射った。

 ラミエルは素早く後ろに下がり矢を避ける。


「そうだ、そうだ。その調子で退却するがいい」


 兵士達はラミエルの様子を見てゲラゲラと笑う。


「使者に弓を射るとは何事だ!」


 怒ったラミエルは門より高く飛び兵士達目掛けて雷を落とす。


「ぎゃッ!!」


 ラミエルの雷で感電した兵士は失神し、口から煙を吐いた。


「何をする!」


 オロバスの兵士達は仲間の仇とばかりに弓を一斉にラミエル目掛けて打ち込む。


 ラミエルは沢山の弓に避けられず、己の羽を盾代わりに致命傷を免れた。


 それを少し離れた場所で、望遠鏡にて見ていたウリエル。


「よし!全軍戦闘用意!!オロバスを討ち、一気にシディムを陥落させるぞ!!」


「おーーーーっ!!」


 これにて神々、地上を巻き込んだルシフェル対ミカエルの大戦争が開幕したのである。

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