第43話ミカエルの挙兵1

 宮殿では、明日執り行われる戴冠式の最終確認が行われている。


 育ての親のオシリスや乳兄妹も居ない、戦時中の国の王や馴染みの従者も出席しない寂しい戴冠式。


 サリエルは戴冠式で自分が着る衣装を前に、いつか見た夢の事を思い出す。


(あの時鏡に映った私も悲しそうな顔をしていたな)


 オシリスはあれから地上に帰り、喪中と言う事で戴冠式への欠席を表明した。


 あの一件以来、サリエルの周りからは人が消え、まともに言葉を交わせるのはハーデスくらいなものだった。


 アニは精神に支障をきたし喋れなくなり、結局切り取られた【月の運航に関する章】は見付からず、この事は闇に葬られる事になった。


 一方のルシフェルは上機嫌でベリアルに酒を勧める。

 邪魔なオシリス一族を追い出す事に成功した。


「全てルシフェル様の思い通り。流石は我等が総統です」


「サリエル皇子の様子はどうだった?」


「落ち込んでいる様です」


「兄である私が、優しく慰めてやらんとな。ところで、お前が口説き落とした女はどうした?」


「始末しました」


 ベリアルはルシフェルの命令で、アニ以外の神器保管係を1人操っていた。


「その女に切り取らせた死者の書の一部はどうした?」


「地上の天使達に送り、燃やさせました」


「そうか、売れば金になっただろうが仕方ないな」


 ルシフェルは昨晩から酒を煽り、既にかなり酔っている様子だ。


「お前、あの女を口説き落とすのにどの位かかった?」


「2日くらいですが」


「2日!?長い長い。私なら20分で自分から服を脱がさせるね」


「......」


 ルシフェルはベリアルとの歓談を楽しみながら痛み止めの袋を開ける。


「総統、前から言おうと思っていたのですが。その薬、一度調べてみた方が良いのでは?」


「もうこの薬に頼らねば痛みで自我が保てん。何が入っていようと構わんよ。少しでも長く弟と居たいのだ」


「いつぞや話してくださった、理想の世界はどうなったのです?」


「それは、冥皇が実現してくださるさ」


 ルシフェルは薬を口に含むと葡萄酒で一気に流し込んだ。


「酒が無くなりましたね。新しいのをお持ちしましょう」


「おっと......」


 ベリアルがルシフェルの部屋から出ようとすると、モロクが先に扉を開けたのでベリアルはよろけてボトルを落としそうになった。


「気を付けろモロク。ノックもせずに何を慌てている」


「総統!先程入った情報ですが、ミカエル様が、我等が地上の拠点としている【シディムの谷】へ侵攻しているとの事です!!」


「何!ミカエル総帥が!冗談だろ!!」


 ベリアルは信じられないといった表情でルシフェルに向き直る。


「総統!シディムは地上の各属国から資源物資が集まる我軍の拠点です!!信じられない!本当にミカエルが我等を裏切ったのか!?」


 モロクはルシフェルに近づき続けて報告する。


「ミカエル総帥は地上の神々を味方につけた様です。今は拠点のシディムより、約50km離れたヨルダン川下流で川を挟んで同胞オロバス軍と交戦中です」


「......敵の数は?」


「約2万柱、ウリエル、サキエル、ラミエル率いる3個師団」


「そんな!今シディムは手薄になっているんだぞ!!」


「黙れベリアル」


 ルシフェルはモロクとの会話に割り込むベリアルを黙らせる。


「オロバス軍は何柱居る?」


「約2000柱です」


「では属国に駐留している我軍を全てシディムへ呼び寄せろ!シディムは何としても死守しなくてはならない!!」


 続けてルシフェルはベリアルに指示を出す。


「冥界に居る天使達を全て武装させ下界へ降ろす準備をしろ!反旗を翻した属国は全て滅ぼせ!!」


「総統は?」


「私も戴冠式が終わり次第そなた等に合流する」

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