第42話死者の書6
サリエルは自分の側近達とアニのみを玉座の間に残し、アニに詳しく話を聞く事にした。
「アニ、貴方はこれから嘘偽り無く真実のみを話さなくてはならないよ」
サリエルはそう言うと、書記官であるトートに契約書を持って来させた。
トートは暫くサリエルと契約書の内容を相談し、終わったらホルスに渡してアニの元へ運ばせた。
ホルスがサリエルに代わって契約の内容を宣言する。
「冥界の神々の
ホルスが内容を宣言すると、ルシフェルはさりげなく玉座の間から出て行こうとする。
それに気付いたハーデスとオシリスは出口を塞いだ。
「貴方はサリエル皇子の信頼が欲しいのでしょ?」
ホルスは順番に従者達を廻りサインを促す。ミトラ神との契約を破ったら何が起きるか分からない。
「さあ、ルシフェル皇子も」
ルシフェルはアニをチラ見すると渋々契約書にサインをした。
契約書が出て来てからのルシフェルの行動を見ていたアニ、一瞬ルシフェルと目が合った事で確信する。
(ルシフェル皇子が関与していたのか?私は利用されていただけか?)
アニがルシフェルの思惑に気付き始めたと同時にネプトゥも色々と考えを巡らせていた。
(おそらくルシフェルはアニの恋心を利用して死者の書を手に入れた。死者の書を何処に隠したかは知らないが、敢えて自分を疑わせ不利な状態にする事でサリエル皇子の気を引こうとしている。アニはルシフェルを何が何でも庇おうとするだろう。命を掛けてでも......)
ネプトゥは今度はルシフェルの様子を伺う。さっきとはうって変わって冷静に事の成り行きを見ている。
(ハーデスから絶対的な信頼を寄せられ宮殿に仕えている者が、冥界を陥れようとしている敵に加担してはいけない。ましてやそんな者に命をかけるなどあってはいけない!アニ、ルシフェルの狙いはハーデス王の名誉を陥れる事よ)
最初から、死者の書の破損にルシフェルが関与しているだろうと推測していたハーデスとオシリスは、アニが真の犯人だとは思っていない。ルシフェルがアニの恋心を利用してハーデス王の名誉を傷付けようとしているのも分かっている。
契約書の登場。これは、ルシフェルと従者達を牽制するためのパフォーマンス。
既にハーデスは、自分が信頼を寄せ宮殿に仕わせた侍女がルシフェルにうつつを抜かし、嘘を言う可能性がある事をサリエルに報告し謝罪している。
ネプトゥが思っている程、今のサリエルは無慈悲では無い。サリエルは下界に降りてから角が取れ大分優しくなった。
アニには契約書にサインをさせないつもりだった。
ルシフェルにサインを貰ったホルスはアニを通り過ぎてサリエルに契約書を渡す。
悲しい事に、色々と考えを巡らしていたネプトゥは、アニがサインをしていない事に気が付かなかった。
サリエルは契約書の内容をもう一度確認するとアニに問う。
「このパフォーマンスの意味は分かりますね?貴方は本当に死者の書の破損に関与したのですか?」
アニは無言を貫く。
(そうよアニ、始終無言を貫いて)
ネプトゥは手を組んで祈る。
「では、貴方に死者の書を破損させるように仕組んだ者は居ませんか?」
「それは......」
(やめて!お願い何も喋らないで)
アニがルシフェルの方を見ると、ルシフェルはニヤついて腕を組んでいる。
アニはもうルシフェルを庇うつもりはない。【ルシフェルの側近に月の運航に関する章の話を聞いた】と正直に答えるつもりだ。
「私は、月の運航に......」
「私が死者の書を破損させました!!」
アニの言葉を遮ってネプトゥが大声を張り上げる。
ミトラの契約書にサインをしたネプトゥ。勿論、ネプトゥの言葉は嘘である。
「ネプトゥ!何を言っているのだ!!」
オシリスが大声を出すのと同時にサリエルが持っていた契約書から赤い文字が浮かび出し、螺旋を描きながらネプトゥの方へ飛んでくる。
「止めてくれ!娘から離れろ!!」
オシリスの静止も虚しく、文字は巨大化しネプトゥの体を覆い隠してしまった。
見ていた従者達は呆気にとられ、ただその様子を眺めるしかない。
「皇子!サリエル皇子!!契約を今すぐ解除してください!」
オシリスがサリエルに訴えるが、サリエルは玉座から立ち上がり顔を強張らせ動こうとしない。
今まで、ミトラ神との契約を破った者など居ないのだ。破られた契約の解除など誰も知らない。
「ネプトゥ!ネプトゥ!!」
オシリスが悲しそうな声を上げる。文字に覆い隠されたネプトゥの体がだんだん小さくなっていく。
「オシリス......すまない......」
サリエルは小声で謝罪の言葉を口にする事しか出来なかった。
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