第35話サリエルの帰還
冥界の使者がサリエル皇子を迎えに上がったのは、それから更に2ヶ月後の事だった。
不貞腐れた様子で冥皇の玉座に座るサリエル。宮殿入りする前に各国を見て廻ったが内戦やらテロやらで大変な事になっていた。
「ハーデスよ、迎えに来るのが遅すぎやしないか?結局兄上に乗っ取られているではないか」
「ここまで短期間にカウティスに引っ掻き回されるとは思いもよらず。私の不徳の致すところです」
「ここまで混沌とした冥界を今まで見た事はあるか?」
「......」
この混沌とした冥界を生み出した本人は、サリエルが今日冥界入りをしたとは知らず、昼過ぎに貴婦人や従者を何人か侍らせて玉座の間にやって来た。
「ハーデスよ見てくれこの美女達を。城下でも選りすぐりの美貌の淑女達だ。サリエル皇子の遊び相手にどうだね?」
ハーデスはサリエルに気付いてないルシフェルに顎で玉座を見ろと促した。
玉座ではサリエルが冷めた目でルシフェル達を見下している。
「その女達を私に?」
「おお!貴方が!!」
ルシフェルはいきなりの弟との再会にかなり驚いた様子だ。
「ご無礼を。この程度の女達では役不足でしたね」
ルシフェルは胸に手を当て謝罪をすると女達に下がれと指示をだした。
「別にそのままでよい。兄上よ、自分が手をつけた女達を他の御子に献上するとは失礼ではないかね?」
その言葉に女達はお互いをにらみ合い言い争いを始めた。
「やめろ!サリエル皇子の御前である」
ハーデスが声を張り上げると、女達は一瞬で大人しくなり頭を垂れた。
「皇子の前で言い争いをするなど冥皇の権威も地に落ちたものよの」
サリエルはため息をつくと玉座の間から出て行こうとする。
ルシフェルはすれ違い様にサリエルの腕を掴むと、そのまま抱き寄せて力一杯抱き締めた。
「ちょっとカウティス皇子!!」
ハーデスが怒って引き離しにかかるがルシフェルはそのままサリエルを抱き上げてくるくると回った。
「長かった、やっと、やっと会えた」
「離せ!」
「あぁ、愛しの弟よ。なんて可愛いのだ」
ルシフェルがサリエルを離すとすかさずハーデスが二人の間に入り引き離す。
「取り敢えず、戴冠式は三週間後。それまでカウティス皇子も作法の再確認をお願いしますぞ」
サリエルはハーデスと伴に玉座の間を出るとオシリスが待つ中庭の東屋へ向かった。
今後の事について話し合いを行う約束をしていたのだ。
「兄は私の摂政になるつもりかね」
「最初はそのように考えていたようですが大丈夫です。我等で手を打っておきました」
「皇子はカウティスの事など気にせず堂々と振る舞っていてください」
「他の国々の事も心配だ。いざとなったら私も鎧を着て戦うがそれで良いな」
「そうならぬよう我等が盾となります」
「お前達はやたらと私に気を使うね。だが、戴冠式の後は私は真の冥皇。私の力で冥界を建て直さねばならぬ」
「皇子......」
ハーデスとオシリス。この2柱は、先代ミトラ神が脇侍神変わりとして生み出した神である。
サリエルにとって育ての親である彼等は、最も信頼のおけるパートナーであり心の拠り所であった。
(何処で見た光景だな)
3柱の様子を2階の窓から隠れて見ていたルシフェル。脳裏に先代ミトラ神がハーデスとオシリスを侍らせて中庭でお茶を飲む光景が浮かぶ。
(どうにかしてあの2人を皇子から離せないものか......)
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