第32話ルシフェルの宮殿入り2

 宮殿内にまでルシフェルが入ってきた事等露知らず。サリエルはエジプトのオシリス神殿で軟禁状態となっていた。


 サリエルが持つ冥界の鍵は、ハーデスによって書き換えられ、冥界に戻りたくても戻れず悶々とした日々にストレスが溜まっているようだった。


「おい!冥界から新な報告は無いのか!」


「全て順調に進んでいるとの事です」


「そればかりではないか」


 エジプト入りして既に3ヶ月。サリエルの苛立ちはピークに達し、周りの神々には常に緊張感がはしっていた。


「カウトパティスはカウティスの計画を知っていたのか......」


 サリエルは歯を食いしばって悔しさを滲ませる。ミカエルに心を開いた自分が情けない。


(おのれ......)


 一方ルシフェルを迎え入れた冥界の宮殿では毎日のようにハーデスとルシフェルの言い争いが繰り広げられていた。


「玉座に座するのを許した覚えはないが」


 朝起きるとルシフェルが冥皇の玉座に座り今月の宮廷費予算が記された資料を読んでいる。


「その資料も貴方が見ていい物では無いはずだが」


「煩い男だ。冠を被る皇が何故玉座にしてはいけない?資料は事務室に居た女を少しおだててやって手に入れたのさ」


「その女は誰だ?」


「確か、ペルセポネーとか言ってたか。地味で冴えない尻軽の女よ」


「............」


「既婚らしいが、あんな女を妻に娶った男の顔を見てみたいものよの」


 宮殿入りして約4ヶ月。弁が立ち、世渡りに長けたルシフェルは既に宮殿内に仕える従者達の心を掴みかけていた。


「ハーデスよ、各冥王の実家に援助している予算はこの5割で十分だ。その分を宮殿内の従者達の賃金に回してやりたいのだがどうだ?」


「何故貴方の指示に従わねばならんのだ」


「指示では無い。提案だ。そもそも冥皇の財産を地上にあるお前達の実家に援助するなど可笑しな話しよ。己の給金か各国の予算から捻出したらどうだ?」


「各国は皇帝に毎年決まった額を上納している。結局はその財産も各国の税金だ」


 ルシフェルは手招きしてハーデスを近くに寄せる。


「なあ、皇帝に上納する税金が無くなったらお前達は嬉しいか?」


「そんな微々たる額、あっても無くても同じだ」


 冥界の国々の国力は横並びでは無い。力ある国は高い税を皇帝に上納し、力無き国は低い税を上納する。


 ハーデスの国の様に飛び抜けて強く広い国は高い上納金を取られても、豊かである事に変わりは無いので上納金の事などあまり気にもとめない。


 しかし、そうでない国の王達は、嫌々ながら上納金を納めているのだ。


「次の首脳会議、私も出席するぞ」


 ルシフェルは笑いながら玉座の間を後にした。


 首脳会議当日、ルシフェルは誰よりも早く会議室に入り、上座を側近の天使達と占領して王達の入室を待っていた。


「ふ~ん、あれがペドラ帝の残した負の遺産か」


「まあ噂通りの色男ではあるわな」


「もう既に冥皇気取りよ。傲慢な男じゃ」


「しっ!仮にも一応ミトラスの皇子だ。聞こえるぞ」


 まだルシフェルの顔を見て無かった王達はひそひそと小声で語らい合う。


「冥界の王達よ、兼ねてから伝えていた通り、今回からカウティス皇子が会議に出席する。まだ冥界の政に疎いかと存ずるので、今日は取り敢えず見学として我等の様子を観察される」


 ハーデスは上座をチラチラ見ながら王達にルシフェルの紹介をした。


 会議は序盤こそ何時も通りに進んでいたものの、終盤の各国宮廷予算の話しになると、所々でルシフェルが口出しをしてくる様になった。


「お前達はミトラ神に未だに依存している様だが、自立しようとは思わんかね?」


「我等の個々の力はそこまで強く無い。ミトラ神に上納する事で有事に援助してもらうのさ」


「地上の神を凌駕する力を持っているのを王達はご存知無いのか?上納金を削れば各々の国の軍備を強化できるではないか」


「上納金を削る権限が我々には無い。そんな事をしたら強い力を持った国からの援助も無くなり睨まれる」


 小国の王達はハーデスやオシリスをチラ見しながらルシフェルの話しに耳を傾ける。


「皇帝に勝る王は居ない。私が皇帝に就いたら上納金でそなた等を苦しめる事などしないのにな」


 それからルシフェルは毎回毎回会議に出席し、言葉巧みに王達の心を乱し、時には煽て自尊心を刺激した。


 やがて王達の中にはサリエルが皇帝に着いた後もルシフェルを摂政として政の中心に置く事を望む者まで出てきた。


 特にルシフェルの小国に対しての心遣いは度を過ぎた物であった。少額で道を整備したり、荒地を開拓し建設事業に援助したり等、一見良い事をしているようだが、全て配下の天使達の尽力と支配下に置いた地上の国からの資金援助で賄っていたのだ。


 冥界での名声は上がりに上がり、冥界の王達はルシフェルを称賛し機嫌を取り始めた。


 依然として大国のハーデスとオシリス等は警戒し、決して自分達の国にルシフェルを入国させる事はなかった。


 しかし、会議では多数意見に勝つ事が出来ず大国以外の上納金を大幅に減らし、それに伴い宮殿内の人員削減を余儀無くされた。


 宮殿内では、削減された人員に代わりルシフェル配下の天使達が出入りするようになり、実質宮殿はルシフェルに乗っ取られたも同然となってしまった。


 勿論、冥界の大国、削減された元宮殿の従者、採取されている地上の国の神は面白くは無い。


 天使達の中にも少数だが不満を持つ者も出始めた。

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