第27話バル神殿の陥落

 新聞記者達が諦めて帰って行ったのは結局日が変わる少し前だった。


(もう完全に遅刻だ。今からバル神殿に行っても明朝だよ)


 それでも行かぬよりはマシとガブリエルは化粧をして、何時もの服にストールを纏い急いで馬に飛び乗った。


 その頃、バル神殿では前夜祭も終盤を迎え主役以外はほろ酔い状態で各々豪華な食事や劇などを楽しんでいた。


「どうしたバアル?酒が進んでないようだが」


「いえね......余りにも粋な出し物に見入ってしまいまして」


「そうだろう、貴方のために大金をはたき、冥界で一番の劇団を呼んだのだ」


 モートは自慢気に応えた。


 外ではルシフェルの配下2師団、マモン率いる8000柱、ガープ率いる6000柱もの兵士が弓矢を手に待機している。


 一方、バル神殿の警備は建物の四隅に一柱ずつと門番が2人だけ。

 圧倒的な力量で一気にモート一族郎党の戦意を喪失させる手筈である。


「弟よ、素晴らしい演劇をありがとう」


 劇のクライマックスでバアルが立ち上がり拍手を8回行った。予め決められていた合図。


 外に待機していた兵士は結界を解きバル神殿に一気に攻め込む。


 圧倒的な力の差。唖然として動けないモート、酔って使い物にならない死神達。歓声は一瞬にして悲鳴に変わり、モート一族は妻子達を逃がす暇もなく途方に暮れるしか無かった。


「バアル、謀ったのか......」


 間も無く門番の首を右手に携え、金色の鎧に身を包んだルシフェルが壇上に上がって来た。


 モートは肘をつき項垂れ、悔し涙を流す他なかった。


 ガブリエルがバル神殿に着いたのは夜明けの少し前だった。

 休み無しでぶっ通しで馬を走らせた甲斐があって夜明け前にパルミアに入る事が出来た。


「ドウ、ド~ウッ!」


 ガブリエルはバル神殿の門前に馬を停めて神殿内へ足を踏入れた。


「あれっ?もうお開きか?」


 神殿内は沢山の足跡で汚れ、料理が散乱し、大変な事になっている。


「汚いな~。もうっ、誰か居ませんか!!」


 ガブリエルは足の踏み場も無い程散らかった神殿内で誰かを探し叫んだ。


 うっ......ううう......。


 暫く探していると誰かが啜り泣く声が聞こえた。


「誰か居るのですか!?私はモート様に仕える死神のガブリエルです!」


「......本当に、本当に死神なのですか?」


 泣き声とは違う声が柱の脇に飾られた大きな石像の中から聞こえる。


「そうです。死神です。一体、何があったのですか?」


「私はモート様の父であるダゴン王の側室ベラです。神殿に居るのはおそらく私と息子のイラの二人だけです」


 ガブリエルが石像にランプを向けると身なりの良い婦人と4歳位の小さな子供が姿を現した。


「我等一族は、ルシフェルの奇襲に合い一族郎党全て捕らえられてしまいました」


 婦人はしくしくと泣きながら今までにあった事をガブリエルに話し始めた。


「なっ!ルシフェルが!奴等は何処に行ったんだ!?」


「モート様達から鍵を奪い、沢山の兵士達と我等一族を連れて冥界へ行きました」


「ええっ!!」

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