第23話カオス帝2
カオス=ミトラス、彼はミトラ神が己の名を名乗り始めてから3代目の皇帝である。
カオス帝が生まれたのは、まだ地上が海に覆われていた時代。
まだ、ミトラ神が冥皇として定着しておらず、カオス帝自身も神としての自覚が無かった。
それでもカオス帝の周りに集まる精霊達は、彼を自分達の親として敬い畏れていた。
しかし、力あるものに長く侍ていると、己も高き者と錯覚するのが世の定め。
カオス帝の脇侍神であるエレボスとニュクスは、カオス帝の力の象徴である冠が欲しくなった。
エレボス、ニュクス共にカオス帝自身が生み出した脇侍神である。彼等は自分達が次世代のミトラ神が育つまでの繋ぎである事も、冠の役目や恐ろしさも理解していなかった。
彼等は力を合わせればカオス帝よりも上に行けると本気で思ってしまう程愚かだった。二人は、兄妹でありながら子を成し、次々と新しい精霊を生み出した。
ある日、エレボスとニュクスはカオス帝の前に自分達の子供エリスを連れて来た。
「カオス帝、どうかエリスに冠(ミトラ)を譲ってください」
エレボスとニュクスは、自分達の子供であるエリスこそがミトラの継承者にふさわしいと訴えた。
カオス帝が申し出を拒否するなら、何千柱といる自分達の子供と共にカオス帝を討ち滅ぼそうとの考えだった。
「よかろう、ミトラを受け取るといい」
カオス帝はあっさりとミトラを放棄し、エリスの頭に被せた。
エリスに被せられたミトラは、一瞬でエリスの全てを吸い取り、エリスを吸い尽くしたミトラは、今度は海と大地を吸い取り始めた。
冠の事について、余りにも無知な2人は自分達が冠を被る事でミトラの暴走が治まる事を知らない。
子供を亡くし発狂したニュクスは、ミトラを持ち上げ急いでカオス帝に被せようとこころみたが、カオス帝はニュクスの首を跳ねミトラを空高く放り投げた。
このままでは、他の子供達も吸い取られてしまう。焦ったエレボスはミトラを追いかけて飛び上がり大気圏まで追って、ようやくミトラを捕まえた。
エレボスが急降下をし始めたと同時に、カオス帝の高笑いが聞こえた。エレボスの目に地上でカオス帝が巨大なエネルギーと化して虚無を創り出し、全てを呑み込んでいる光景が入ってきた。
もう、自分達の子供は1人も残ってないだろう。エレボスはミトラをカオス帝目掛けて放り投げ、そのまま宇宙の彼方へ飛んで行った。
「こういう事があったから、次の代からは脇侍神に暗示を掛け、ミトラ神の傀儡と化すようにしたんだったな」
サリエルがハープの弦を巻きながらタルタロスに話し掛ける。
「遠い昔の出来事でございます」
「エレボスは何処に行ってしまったのだろう?妻を殺され子を殺されミトラ神を恨んでいるだろうね」
「自業自得です。奢り高ぶった結果です」
「母は兄達にはどれ程の暗示を掛けただろうか?」
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