第22話カオス帝1
日没と同時に降り始めた雨は、勢いを増し二人の決闘の後をすっかりと洗い流してしまった。
季節外れの長雨は一向に止まず、ナイル川に近い神殿の門前には沢山の土嚢が積まれた。
「今日も雨か?よく降るな」
「散歩も出来ませんしね。ここでの暮らしは窮屈です。早くカウパティス皇子に目覚めて頂かないと」
さて、サリエルとタルタロスの二人は主の神殿のウリエルの部屋を勝手に改装し泊まり込んでいた。
手負いの兄をこのまま慣れない冥界に連れて行くのは忍びないとのサリエルの判断である。
兵士達はサリエルの不思議な力と、総帥と互角に渡り合う戦闘力に恐怖し、ただ指を咥えて見ているほかなかった。
「なあ、ウリエル。ここには楽器やテーブルゲームの類いは無いのか?つまらん。お前、歌って踊ってみろ!」
「......」
「ウリエルよ、皇子の命令であるぞ」
「......何故、私がお前等の命令に従わねばならんのだ」
「なら、今すぐお前の愛しの総帥を冥府に誘おうか?」
ウリエルはサリエルの方をちらりと見ると、少し間を置いて応えた。
「ハープなら神殿内の倉庫にしまってある。自分で取りに行くんだな」
サリエルとタルタロスは、松明を持ってウリエルの部屋から出ると、玉座のある広間を抜け倉庫に続く地下の階段を下りて行く。もう一週間近く滞在しているので神殿内は全て把握してしまった。
「ウリエルの奴、矢を向けられたくせに未だに総帥を愛してるんだな」
「カウパティス皇子にもミトラ神の力が宿ってますからね」
「兄は無意識にその力を使っているのかね?」
二人が雑談しながら倉庫の中を探すと、程無く埃にまみれ、弦が伸びきったハープが出てきた。
「酷いなこれは......」
「調律出来ますかね?」
サリエルは弦を巻きながらタルタロスに皇子不在の冥界の様子を聞いてみた。
「私が居ない間ハーデスが政の一切を担っていただろう?何か変わった事は無かったか?」
「宮殿の職員の減給があっただけですね」
「減給?私が居ない分、宮廷費は浮いただろうに」
「戴冠式の準備をしているんですよ」
「カウティスにまだ会ってもいないのに......」
サリエルは内心、冥皇の冠が恐かった。側近からとても重たく、被る者に苦痛を与える物だと聞いている。
「あれは......やはり被らんといかんかね?」
「冥皇のエネルギーを冥界へ送る装置だとか、太古の昔ミトラ神自身が己の破壊力を抑えるために創り出したとか色々言われてますね」
「確か、冠を放棄したミトラ神も居たな」
「ああ、カオス帝の事ですね。皇子の母君であるペドラ帝の2代前のミトラ神です」
「まだ地上が海のみであった時代だろ?その時の神々は人の姿などしておらず、多種多様で面白かったそうだな」
「カオス帝が冠を放棄したので、沢山の精霊が消滅し大変な事になったそうですよ」
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