第4話お兄さんは天使
程よく日に焼けた健康的な肌、鍛えぬかれた肢体に、明るく美しい茶髪、それに似合った地球色の瞳を持つ兄弟の名は、神々だけではなく、今や人間達の間でも知れ渡っている。弟のサリエルが、トビトの子として生を受け数年が経過した頃の話しである。
カナン地方に遠征に出たルシフェルとミカエルの目的は、この地に主の地上での拠点を築く事だった。ヨルダン川で配下の天使達が沐浴してるのを眺めながらルシフェルはミカエルにある提案をした。
「今や我々にたてつく神々精霊は居ない。しかし、冥界に逃げ込み、我々の生みの親であるミトラ神に泣きつく憐れな悪神共の何と多いことか。久しく冥界の事を忘れていたが、冠の継承者が鍵を取り換えてしまったようでこちらからは足を踏み入れられぬ。主の支配を絶対的なものにするには何人たりとも逃がしてはならない」
「敬愛なる兄よ、貴方はやはり主の子だ。貴方は、死神から主を解放し、主を真の全知全能の神と導く光となられましょう。」
「それには、何としても冥界との接触を図らねばならない。私の側近にバアルと言う者が居る。その者の兄が冥界の宮殿で働いているのだ。あまり兄弟仲は良くないようだが、如何様にも利用できよう」
ルシフェルはミカエルの手を取り続けた。
「愛しい弟よ。どうかこの兄にお前の眷属の半分を託してくれ」
ミカエルは兄の願いを聞き入れ、選りすぐりの天使達をルシフェルに譲った。
「必ず、必ずや無事に帰って来てください」
カナンに集結した天使達の実に3分の2を従えたルシフェルの軍勢はバアルの兄であるモートの神殿近くに拠点を張り、結界で覆ってモートの神殿を監視しはじめた。やがて空が白けて来た頃、モートが数人の眷属を連れて冥界から帰って来た。
ルシフェルはモートの帰宅を確認すると、バアルを呼び寄せた。
「そなたは兄と仲が悪いと言っていたが、それはそなたが私に従っているからだろう?」
「畏れ多くも、兄は貴方様の巨大な力と英知を知らないのです」
「ならば今ここで知らしめるか?」
バアルは額に汗を滲ませながらルシフェルの顔を見上げた。
「兄モートは冥界ではハーデスと言う男に仕えております。ハーデスはミトラ神の側近、冥界は今、幼い皇子を抱え今まで以上に警戒し警護も強靭なものになっていると聞いております」
「ふふっ。やはり連絡を断っているなど嘘であったな。神々の兄弟愛は血よりも濃い。そのハーデス以下、ミトラの側近たる神々の力はいか程か?」
「ミトラ神の36柱の側近全ての力は存じ上げません。しかし、ミトラに次ぐハーデスは硫黄の槍と雷を操り惑星さえも破壊し、それに次ぐオシリスはこの世の全ての人の記憶を改ざん消去する力を有しています。単純な力と言ったものでは、貴方様には少し及ばぬかと思いますが、何せ冥界の神々は数が多く、個々が特殊な力を持ち知性も高い。最近では科学も発展し、我等の想像を越えた武器も数多く有しています」
「つまり、その力を手に操る事が出来れば我等は全知全能と言うわけだな」
ルシフェルはバアルを立ち上がらせると肩に手を回し天使達に言葉を投げ掛けた。
「皆の者、よく聞くがいい。このバアルは冥界の鍵を手に入れ、我等に絶対的な力をもたらす希望の星である。私はこれからバアルに暫しの休息を与え鋭気を養わせ、来るべく戦では、66の軍隊を率いる大将に任命しよう」
その言葉を聞いた天使達は歓声をあげバアルを誉め称えた。
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