あとがき

 私は目をました。腹部に違和感。何かが乗っているようだ。顔を持ち上げて見る。

 

 アーモンド型の黄色い眼が二つ…


 私は悲鳴を上げて飛び上がってしまった。それも飛び上がった私に吹き飛ばされ、小さく悲鳴を上げた。それが何なのか目認もくにんした私はため息をついて云った。


 「なんだ、お前かぁ、クロ。脅かすなよ…」

 

 ”クロ”は怒ったようにフン、と鼻息をついた。

 クロは私の飼っている雌猫だ。名前の通り、真っ黒な毛を持つ。典型的な黒猫である。

 あの夢に出てきた猫は、クロだったのだろうか。いや、と云うよりあれは猫だったのか?

 なぁ、お前私の夢に出たかい、とクロに話しかけると、彼女は、にゃ、と一鳴き、「はい」とも「いいえ」とも取れぬ返事をした。私はそうか、とだけ返事し、目を逸らした。なんだか、彼女の黒い毛並みから闇がせり出してくる気がして、少し怖かったのである。


 階段を降り、リビングへ向かう、とそこには金魚鉢が。

 金魚が、ひっくり返って死んでいた。

 私は驚いて金魚鉢を持ったが、金魚はもう死んでしまっているのであるからどうしようもない。

 金魚鉢を持ったまま 茫然ぼうぜんとしていると、”何か”が(ここに来て未だに私は”何か”という言葉に取りかれているようだ…)その鉢を叩き落とした。何かと見ればクロであった。

 鉢は割れてしまい、床に水が撒き散らされた。しかばねとなった金魚も床に転がる。それをクロは口に咥えて走り去っていった。私はクロを叱ろうとしたが、脳裏に”あの口”が浮かんで寒気が走った。


 クロの口に咥えられた金魚の死骸がどういう運命をたどるのか。考えるまでもあるまい。私自身、体験したのだから…

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夢の噺 木魂 歌哉 @kodama-utaya

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