夢の噺
木魂 歌哉
夢の噺
こんな夢を見た。
私は
この世界で私は自分の部屋を探しているようであった。その場を右往左往していたのだが、そのうち近くにそれがないことが発覚すると、果てのない(ように見える)廊下に一歩踏み出した。ぎしっ、と廊下の床が
ぎしっ…ぎしっ…。心ではかなり急いでいた。一刻も早くこの場所から逃げ出したかった。
そこからかなり歩いたはずなのに、景色は全く変わらなかった。続くのは廊下、横に在り続けるのは壁であった。ふと後ろを振り返りたい衝動に駆られたが、止めた。こういう突発的な衝動に従うのはリスクが大きすぎるのである。
否、この際ハッキリ
突然、目の前に障子が現れた。
前だな。
私は障子に手をかけた。そして息を吸って、一気に開けた。果たして、大きく乾いた音を立てた障子の先に在ったものは
ーーー
普段の私であれば、別に灯りをつけていないだけだろう、と高をくくって済ますのであろうが、奇妙なことにその時の私は冷静に今の状況を分析していた。そしてその所為で、この空間の違和感に気づいてしまったのである。
普通、こちら側が灯りのついている状態で暗がりの向こう側を覗いたとき、灯りの漏れによってこちら側からでも向こうの様子は少しは解るはずである。ところがその時は違った。全く向こう側の様子が見えないのだ。まるでこちら側とあちら側で世界が別れているかの
この奇妙な状況は私の心をかき乱した。叫んでしまいそうであった。然し、喉が
その時である。突如として空気を裂くような鋭い威嚇音が闇の中から聞こえてきた。動物の声であった。この声は…
「猫、か?」
私がそう呟いたとき、闇の中にアーモンド型の黄色い眼が2つ、闇の中に現れた。それはまさしく、猫のそれであった。闇にこれだけ同化しているということは黒猫であろうか、と私はその時思っていた。
(このとき私は思い出すべきであった。黒猫が眼の前を横切るとき。それはこれから、なにか不吉なことが起きることを意味する、ということを…)
その時、私はこの状況に安堵していたのである。得体のしれない闇の中でもこの猫は普通でいる。ならきっと、この奇妙な状況も錯覚であろう、と。安直であった。私は闇の中にそろりと一歩踏み出した。
その刹那、猫の足元に水色の”波紋”が現れた。ぎょっとして立ち止まると、下の地面が波打った。
「これは…」
私は思わず呟いた。これは一体なんだ? 地面がまるで水面のように…
奇妙なことは更に続く。アーモンド型の眼の横から、赤い色の何かがやってきた。
「金魚?」
大きな金魚であった。私の身体を
私は訳が解らなくなった。一体これは何事だ。何が巻き起こっている。ここは一体何だ。何故、私はこんなところにいるのだ。
ずぞっ、という音を聞いて私は我に返った。今の音はなンだ。答えは
ーーー闇が
気づいた
私は気づいて直ぐに抜け出そうとしたが、無駄であった。これは、毛か? 闇から生え、私の足に絡まっているようだ。
否、と云うよりこれは、この闇は…
そう思ったとき前から何かの唸り声がした。
ーーー前には、アーモンド型の黄色い眼が二つ。
…そうか、この毛は、こいつの。
その時、がぱぁっ、と音がして、眼が消えた。代わりに、白い大小様々な何かの羅列と、真っ赤な何か(先程から”何か”が出てきすぎて訳が解らない)が現れた。
”何か”とは云いつつも、私はそれが何なのかなんとなく解っていた(きっと誰しもが解っているだろう)。
私はもう諦めてしまって、眼を閉じた。その
あとに残ったのは、終わりのない闇だけである。
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