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翌朝——
サリーとトウドウは、キャロラインに起こされた。
「やあ、おはよう。キャロライン」
「おはようはいいけど。サリー。あなた、トウドウにまで手をだしたんじゃないでしょうね?」
キャロラインは細いウエストに両手をあてて、サリーをにらんでいる。
よく見ると、サリーはトウドウと一つベッドで寝ていた。疲れはててたので、いつのまにか、トウドウのベッドに、もぐりこんでいたようだ。仲よく抱きあって寝てたので、これは勘違いされても、しかたない。
「よしたまえ。トウドウは制御ピアスをしてるだろう? 僕の代わりにエンデュミオンのアタックを受けてくれたんだ」
「あら、まあ。そうだったの? じゃあ、エンデュミオンには会えた?」
「ああ。少年十字軍の夢を見せられた。しかし、問題は予言者でね。どうも私たち二人の見解は、まちがってたらしい。それにしても、トウドウ。君、平気か? どっか、ぐあいが悪いのか?」
サリーがベッドからおりて、着替えだしても、トウドウはフトンをにぎりしめたまま、ぼんやりしている。
「サリー。あなた、やっぱり、ほんとは……」
キャロラインが疑いの目を向けてくる。
サリーは苦笑して、トウドウの肩をたたいた。
トウドウは急にスイッチが入ったように、とびあがる。
「あ、はい! 大丈夫ですよ。セル……ジュ、じゃないんですよね。ジャリマ先生。ああ、もう! やっぱり、強力だなあ。エンデュミオンの攻撃は」
サリーは気づいた。
昨夜の夢をについて、自分とトウドウの決定的な違いに。
「というと、君は、あれをフランシスの視点で見たのか」
「だって、フランシスがエンデュミオンだったじゃないですか。彼の人格を押しつけられるわけですから、当然、憑依された僕は、フランシスです」
「しかし、私はセルジュ視点だった」
「ああ、それでかな。今日はなんだか、あなたがセルジュに見える」
ぽっと、ほおをそめるので、サリーは、またキャロラインに、にらまれた。
トウドウは、あわてる。
「あ、やだな。ほんとに大丈夫です。でも、用心して、今日は一日、ピアスをはずしません。あとで、ブラックボックスに行かないと」
ブラックボックスは、制御ピアスの弱点をおぎなうために不可欠なものだ。
制御ピアスは外部からの超能力の干渉を完全にシャットダウンできる。本人の超能力も外に、もれなくなる。
そのかわり、制御ピアスをつけた当人は、ESP電荷を放出できなくなる。そのまま、ほっとくと、金属や家電をさわったときに放電して、とても危険だ。
それを解消するのが、通称、ブラックボックス。
鉛は超能力を通さない。だから、鉛の板で、一室のカベ、天井、床、すべてをおおう。
それが、ブラックボックス。
そのなかでは、安心して、制御ピアスをはずすことができる。
Aランク者は蓄積するESP電荷の量も多い。ここで、一日一度は放電しなければならない。
「それがいいね。トウドウ。じっさい、エンデュミオンは強力だ。君に感応しただけの私ですら、骨まで溶けるように困ぱいした。ホテルの地下にブラックボックスがあったね。食事のあとで行くといい」
「はい。そうさせてもらいます。あの、今朝のモーニングは寿司にしませんか?」
「朝からスシ? あれはパーティメニューじゃないのか?」
「寿司は元来、保存食ですよ。今朝は、なんだか、自我に自信が持てないので、なるべく日本人らしくしてたいんです。ほんとは、白ご飯に、ミソスープ、タクアン、シシャモかメザシくらい、ほしいんですけど。どうせ、ネオUSAじゃ、そこまではムリでしょうから」
そう言われれば、むりやり、アタックの標的にさせた張本人としては、むげに断れない。
ルームサービスにスシをたのんだ。
トウドウは、ショウユがカライの、ワサビがアマイの、文句を言いつつ、スシをたいらげた。
満足げに出ていくトウドウを、サリーはキャロラインと見送った。
「気になるな。なぜ、トウドウは主役で、私は脇役なんだ? 私はトウドウの意識に感応したんだから、夢のなかでは同じフランシスでなければならないはずなのに」
サリーは昨夜の夢を、かいつまんで、キャロラインに説明した。最後のあたりは、とくに重点的に。
「変ねえ。それじゃ、予言者はエンデュミオンの英知じゃなかったの? それどころか、予言者自身が呪いをかけた魔神だなんて」
「あのとき、エンデュミオンの姿が変わった。あれが彼の真実の姿なのかもしれない。だとすると、昨夜のフランシスのような、いつもの夢の少年たちは、彼の仮りの姿ということになる」
話しているところへ、スイートルームのエントランスホールで、ドアのあく音がした。
サリーはジムが来たのだろうと考えた。今朝の入室は許可してあるから、フロントでカギを借りてきたのだろうと。
だが、リビングに顔をだしたのは、トウドウだ。
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