第38話 話の流れ的に分かるでしょうが

 なんかさすがにここまでやきもち妬かれたら勘違いも許されるんじゃないかって気が……。


 うーん、プロのDTには全然判断がつかん! 圧倒的に経験値が足りなさすぎてまったく判断に自信が持てない……。

 こっちがあーーってなるわ。


 あぁ、やな汗出まくり。

 ハンカチハンカチ……って、しまった!?

 曜ちゃんにハンカチ渡すの忘れてたじゃん、舞い上がりすぎて。


「ねぇっ、拓実君。実際その辺のところ、どうなのよ? 拓実君はジンピカちゃんのことが好きなの?」


「ひゅーひゅーひゅー」


「口笛吹けてないよ」


「…………」


 さっきと立場が完全に逆転している……。


「ねぇ、拓実君……わたしじゃなくてジンピカちゃんと仲良くしたいの? わたしと仲良くなるのは……嫌かな……」


 くっ……な、なんだこの拷問は……。この上目遣いはやめれ。かわいすぎて心臓止まりそうになるから。


 そりゃ曜ちゃんと仲良くなるのは楽しいけどさ……だけど……。


「僕は……ららちゃんと、仲良くしたい……よ」


 キャ、言っちゃったっ! って乙女かよ!

 はーーっ、でも恥ずいなこんなこと言うのっ。耳が熱いっ。顔が熱いっ。


 って羽深さんも真っ赤になってるし。

 だからそんなんなるなら最初から言わせるなとっ。どうしたらいいの、これ? もはや収め方が分からないんですが!?


「責任……」


 責任? なんの責任だ?


「責任……取ってよね」


「……え?」


 責任取らされるのか。一体なんの責任を取らされるんだ?


「わたしと仲良しになるためにもっと努力すること。わたしは結構頑張ってるんだけど、拓実君はいまいち努力が足りない気がする……」


 え……僕もそれなりに朝早起きしたりしてるんだけどなぁ。


「デート……」


「ん?」


 まだ曜ちゃんとのデートのこと言われるのか? てかまだ僕らのデートを付け回してた件について釈明を受けてないんだけどな。


「デートに……誘ったら……い、いいんじゃ、ない……かなぁ……」


「……誰を……?」


「むぅっ!? 話の流れ的に分かるでしょうがっ!?」


「え、また曜ちゃんと? うーん……この前は曜ちゃんから誘ってもらったから……今度は僕から誘うってことか……さすがにそれはちょっと僕にはハードル高いなぁ……」


 なんで羽深さんがいきなりそんなこと勧めてくるんだよ。話の流れ的になんかおかしくね、それは?


「んはぁっ!? この話の流れでどうしてそうなった!? キーーーッ! なんでジンピカ誘う流れになっとるんじゃっ!? そこは世界一かわいくて愛おしさのあまり頭撫で回したいとか内心では思っちゃってる存在が目の前にいるでしょーがっ!?」


 っ!? エ、エスパーかっ!? この前電車で頭撫でたいとか思ってたの、実はダダ漏れだったりしたのかっ!? 全部バレてたのっ?

 ヒェーーーッ。恥ずかしすぎるっ!


 穴は……穴はどこかにないのか?

 もしくは誰か重機持ってこーいっ!

 穴がっ! 穴が必要だっ! 今すぐ穴よこせっ! 穴があったら入りたいっ!!


 って……あれ……。

 つまり羽深さんをデートに誘えと言われてる? マジで?

 いやなんかそれってもしかしたら別の意味で使われる慣用句的な何かだったりしない? お花を摘んでまいりますみたいな慣用句的な使い方が……?

 そのままの意味として受け止めていいのか? 何かの罠とかじゃないの? 大丈夫なやつ?

 つーか羽深さんのキャラが完全に崩壊してる気がするんだが、これって気のせいなのか? ていうかむしろこっちがぶっ壊れそうな気もしなくはないけど。


 分からんっ! 色々分からなすぎるっ! 正解がまるで見えないんだけどっ!?


 羽深さんは何故だかかかってこいやー的なポーズで何か待ち構えている。

 うーん……。


「早よ! 万難排して待ち構えてますよー。バッチコーイですよー。ほれ、早よ!」


 うぅむ? いいのか? 本当に誘っちゃって大丈夫なのか? うっかり誘った後で、は? 何キモいこと言ってんの、この童貞。とかなんないよね? 大丈夫だよね?


「え、えーっと……その……日曜日……ライブの前までだけど……よかったら、その……一緒にどこかに……出かける?」


「長いっ。もっと短くまとめると?」


「うっ。どうしても言わなきゃダメ?」


「ジンピカちゃんには? なんて言ったのかなぁ?」


「え? 僕から誘ったわけじゃないし……曜ちゃんも遊びに行こうって言っただけだし……」


「んじゃあ尚更だね。はい、どうぞ」


「うぅ……どうしてそうなるんだか……」


「はいっ?」


「い、いえ……今度の日曜日、デ、デートしようか……ららちゃん」


「っ!? は、ひゃぃ……」


 羽深さんはさっきの勢いはどこへ行ったのかと言うくらい消え入りそうな声で返事をすると——っていうかちゃんと言えてすらなかったけど——両手を体の前で絡ませながらモジモジしている。

 顔も真っ赤だ。

 そうしたいのはこっちの方なんですが!?


 だからいつも思うけどそうなるんだったら自分から捨て身みたいなフリをするのよせばいいのに。まったく難儀な人だよなぁ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る