上級魔人はブラック職場で頑張る
私の名前は、ミラディ・ライトネス。
『色欲』魔王配下、上級魔人です。
かつて人間でしたが、ロザリンドお姉さまと従者契約を結ぶことで、魔人へと転化しました。
ガミーニウ中立自治国最大の都市「デルドナ」らある娼館の一つに私はいます。
目の前ににいる男は、グラハス・バートニ。
私と同じ上級魔人であり、犬猿な仲の相手。
部屋の中は、精液と、汗と、尿が混じり不快な臭いしかしない……。
猫、犬、猿などの何人もの獣人が首輪を嵌められ、全裸の状態で男達の相手をしている。
此処でこうしているということは、売られて来た以外にはない。
でも、彼女らの不幸はグラハスに買われたコト。
他ならまだしも、アイツは使い捨ての物としか見てない。
「グラハス! 良い加減に、買った子達の待遇を改善しなさいっ。お姉さまからも言われてるでしょう」
「ミラディ。これらは俺の所有物だ。どう扱おうと、俺の勝手だ。こういうのを求める客もいるんだよ。需要と供給ってヤツだ。――それとも、お前もこういうプレイをしたければ、相手になってやるぜ。昔のようにな」
「死ネ」
空間から薙刀を取り出し、柄を握りしめるとグラハスに向けて勢い良く振り下ろした。
その攻撃は、グラハスが取り出した剣により防がれた。
――私は狼の獣人で、昔、親から売られて、グラハスにより買われた経緯がある。
こいつのサディスト振りは、その時に味わっている。そしていつか殺してやる、と心に決めていた。
でも、あの頃は、力のない、奴隷獣人。「色欲」魔王配下のコイツには、逆立ちしても勝てない実力差があった。
グラハスの所にたまたま来たお姉さまに買われ、私はグラハスと同じ「色欲」魔王配下と成った経緯がある。
「相変わらずクソ生意気な女だ。昔みたいに俺に従順な態度をとるようにしてやろうか?」
「私はアンタに心から従った事なんて一度も無い。私が心から従うのは、お姉さまだけよ」
「その割には、気持ちよさそうに哭いてたけどな」
切れた。それはもうブチギレた。
向こうのほうが魔人歴は長く、その分、魔力保有量や実力もある。でも、引けない闘いというものがあるんだっ。
上級魔人同士の闘いは、過激を極めた。
歓楽街の一角が全壊。死者は出なかったけど、怪我人が何人も出た。
……ここまでする気は無かったけど、抑えが効かなかった。
最終的には騒ぎを聞きつけたお姉さまにより、私達は圧えられ、闘いは終わりを告げた。
数日後。
私は罰として禁欲を架され、事務仕事を任されている。
グラハスは、大魔神王さまから言われていた頼み事を言い渡され、意気揚々と街を出ていった。
……お姉さまは、大魔神王さまからの頼み事を素で忘れていて、この事が無かったら命令する気はなかったようですが。
大魔神王さまが怒ってきたらどうするつもりだったんだろう。
もし怒らせたらどうなるか……。
矮小な魔人の私には想像もできない。
「あの、貴女は『色欲』魔王の配下の悪魔、ですよね?」
「そうですけど――」
買い物を終わらせて娼館に帰っていると、同性の私から見ても綺麗な黒髪の女性に声をかけられた。
たぶん、悪魔、だと思う。
上手に気配を消してるけど、なんとなくだけど、同種の気配を感じる。
ここまで気配を消せる悪魔に会うのは、初めてだ。
「ああ、良かった。私、ロザリンドの古い知り合いなんです。案内して貰っても良いですか?」
「大丈夫ですよ」
お姉さまの名前を知っている事に驚いた。顔には出さなかったけど……。
『色欲』魔王配下の中でも、お姉さまの名前を知っている者は本当に極僅か。
それを知っているということは、知り合いということは嘘ではないと思う。
私と女性は他愛のない話をしながらお姉さまのいる娼館へと向かった。
昼間である今は娼館に来る客もあまり居ないため、清掃を行う悪魔たちが目立つ。
入り口の所で清掃を行なっている子に、買ってきた荷物を渡して、女性をお姉さまが居る部屋に案内する。
基本、お姉さまは一番奥の豪華な部屋にいる。
「ミラディは、今「禁欲」中なんですね」
「はい。ちょっと暴れちゃって、そのお仕置きで……」
「悪魔である貴女が、「禁欲」とは辛いですよね」
悪魔とは欲が力の源。それを禁欲すると言うのは本当に辛いこと
今回は、貞操帯と胸も拘束されているため、自慰もここ数日できてないのは、「色欲」配下の悪魔として本当にきつい。
今の所はなんとか自制は出来ている。
女性は私の肌に軽く触れて来た。
「――っん。あ、あの」
「大丈夫。安心して? 例え貞操帯を嵌められていても、感じることが出来るから」
この人のテクニックは、お姉さま並でした。
肌に触れられるだけで私は直ぐにイッちゃいそうなほどだった。
もう少しで絶頂を迎えようとした時、奥の扉が開き、物が飛んできた。
それを防ぐように、女性は私を盾にする。
顔面に投げられた鉄製の置物が直撃した。……悪魔で耐久性は上がっているとはいえ、痛いものは痛い。
扉から出てきたのは、扇情的なドレスを着ているお姉さまで、顔はとても不機嫌そう。
「何をしに来たの? 大魔神王――ナナザイ様」
――大魔神王様?
壊れた人形のように首を回すと、雰囲気が一転して嘲笑っている表情の女性が居た。
慌てて膝を付き、頭を下げる。
いやいや、待って。失礼なことしてないよね。してないはずだよね。
私は震えながら、その状態を維持するのが精一杯だった。
「私の眷属を弄ぶのは止めてくれる?」
「弄んでねーヨ。人聞きの悪いことは言わないで欲しいナ。ナ?」
「は、はい。良くさせていただきました」
「ほらナ?」
「……」
おかしいなぁ。
なんだか室内の温度が下がってる気がするよ。
誰か、助けて。
「もう一度聞くわ。何しに来たの? 今、とても貴方と話をする気にはなりないのだけど?」
「お前の眷属が死んだだロ? 責任の一端は俺にあるからナ。その詫びにきたんだヨ。俺はこう見ても、義理不義理は果たす性分だからヨ」
「グラハスの事――」
「俺のご主人サマに手を出したから、少しお仕置きさせるつもりだったのにヨ。イカレ女が介入してきやがったのサ。神子だからナ、対悪魔は相性最悪サ」
グラハスが――死んだ?
大魔神王さまのご主人様に手を出して、神子が介入したって。アイツ、何をしてるの。
訊く限り自業自得な気がする。
でも、神子に殺されたということは、もう復活はない。完全なる死。
普通に殺されたのなら、魔王が生きている限りいつかは復活できるんだけどね。
「で、ナナザイ様はグラハスの件で、どう詫びを入れてくれる気なのかしら」
「……何か望みがあれば聞いてやるサ。今は、ご主人サマのお陰で人間の魂もそれなりにあるから、それでも良いゾ」
「では、久しぶりに相手をしてくれるかしら?」
「――――ちっ。分かったヨ。ご主人サマもイカレ女に監禁拘束されている今は暇だからナ」
大魔神王さまは肩を竦め、何時もお姉さまがいる部屋に入っていく。
私は膝を上げてこの場から去ろうとすると、お姉さまに肩を掴まれた。
「お姉さま……何か?」
「ミラディ。貴女も参加しなさい」
「いえいえ。無理です。相手は、大魔神王さまですよ!」
「これが最後の罰ということにしてあげる。だから、参加しなさい。これは魔王としての勅命よ」
「ハイ」
逆らえないですね、コレは。
私はお姉さまの言葉に頷く。
「あと、グラハスの事業は貴女が引き継ぎなさい。グラハスのやっている事に文句があったのでしょう」
「それも、勅命、ですか?」
「ええ。勿論」
大魔神王様が来てから、数十日が経った。
グラハスが仕切っていた事業は、ほぼ適当で、把握するのが困難を極めたけど、今はなんとか出来ている。
私の前にあるのは、書類の山、山、山!
これはグラハス関連ではなくて、お姉さまのも含まれている。
お姉さまが大魔神王さまと内緒話をしてから、デッシュティル王国に行っている間、その間の書類整理を任された。
いつもはお姉さまに対して、あまり持ってこない人たちが、これ幸いにと大量の書類を持ってきた。
お陰様では、私はずっとこの部屋に缶詰状態。
10日近くいて10時間も睡眠を取れてないんだけどッ。
泣きたい。でも、泣いた所で書類は減らない。ぐすっ。
こんな事なら、お姉さまに付いていけば良かった。
でも、連れていったのは純正悪魔のみ。
純正悪魔は、お姉さまの血肉によって生み出されたホムンクルスのような存在。
「色欲」に特化した悪魔で、戦闘能力はあまりない。
今回は新国王を籠絡させて、心を壊すほど色欲に溺れさせるみたいに言っていた。
……護衛役に志願すれば良かった。
しなかった事で、お姉さまが自分と同等の権限を私に与えたことで、書類の山に囲まれる自体に陥った。
「よォ」
「な、ナナザイ様!」
私は慌てて椅子から立ち上がり、ナナザイ様の前で跪いた。
いやいや、なんでこの方が来られるんですかっ。
正直、書類が山積みの現状ではお相手をする時間が惜しいと言うか、惜しいです。
帰ってくれないかなぁ。帰ってくれませんよね。分かってます。
「いやァ、俺がロザリンドにお願いしたことで、ちょっと困ってるって聞いたからナ。助っ人ほ連れて来たんだヨ」
「助っ人、ですか」
「ああ。ほら、兄チャン。手伝ってやってくれヨ」
ナナザイ様に促されて入って来たのは、なんか顔で「あ、とても苦労されてるな」と分かる人でした。
憮然とした態度で席に座ると、物凄い速さで書類を処理し始めた。
処理が終わった書類を一枚手に取って見ましたが、……問題なし、です。
それから幾つか書類を見ましたが、処理の方法は、感心するぐらい的確。
――ナナザイ様は、どこでこんな凄い人材を見つけてきたんでしょうかね。
「凄い人ですね」
「ご主人様のお兄サマだからナ。スペックは高いのヨ」
ナナザイ様のご主人様のお兄様、ですか。
よし。できるだけ関わらないようにしよう。そうしよう。
だって見える地雷じゃないですかー。
「よし。これで、手が空いたナ」
「?」
「暇になったよナ。ちょうど、ご主人サマが眠りについてる間、暇だから従者がいれば良いなーって思ってたわけヨ」
「あ、それじゃあ、良い子がいるんで連れてきますね」
肩を掴まれる。
ナナザイ様の顔を見ると凄く良い笑顔をしていらっしゃいます。
面と向かい断れる勇気は、私は持ち合わせてません。
でも、せめてもの抵抗を。
「あ、因みにロザリンドの許可は貰ってるからナ。で、何かあるかナ」
「いえ、何もありませんです。はい」
ああ、これなら書類仕事のほうが幾分もマシですよ。
この後、ナナザイ様に連れられて、各地を連れ回され、再び帰った頃には、お姉さまも王国から帰還しており、そこでお姉さまは、ナナザイ様が連れてきた、ナナザイ様のご主人様のお兄様――グレイス様に恋慕してました。
私がナナザイ様に連れ回されている間に一体何がッ。
娼館の従業員たちに訊いても、いつのまにかこう成ってたというだけ。
「ミラディ!!」
「は、はい」
「今すぐ、稀少本を掻き集めてきなさいッ。それであの男をギャフンって言わせてやるんだから」
「あの、お姉さま? 私、ナナザイ様に連れ回されて、帰ってきたばかり――」
「……」
「あ、はい、ご命令ですね。分かりました。稀少本を掻き集めてきます。予算は?」
「ないわ。兎に角、稀少本なら予算なしで購入してきなさい。今から明日の朝までに」
「朝までって、もう夕日が沈みかけて――」
「……」
「はい。本屋や雑貨屋の店主に無理言って販売をしてもらいます」
「良い子ね、ミラディ。きちんと果たしたら、とびっきりのご褒美を与えてあげる」
「頑張ります」
ぅぅ、お姉さまにこう言われると逆らえない。
私は黙々とお姉さまの言われた通りに、街へ向かい稀少本を探すことにした。
お姉さまからの「とびっきりのご褒美」を楽しみにしながら、と、言うか、もうナナザイ様に連れ回され疲弊しているから、それぐらいしか楽しみがないんですけどね!!
悪役令嬢が悪役をしなかった結果。ヒロインに監禁され、愛されるようになりました。 華洛 @karaku_f
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