第30話 結局、(元)悪役令嬢はヒロインに――


 身体が怠くて重い。

 『■■■権限』の後遺症だと思う。

 思ってた以上に、人間の身で使用するのはかなりの負荷があった。まさか一ヶ月も眠ることになるなんて。

 まぁ妹のルージュを助けるためだからね。負担がかかって眠るぐらいはどうってことない。

 

 飛空艇の甲板の後方部に行く。

 デッシュティル王国がある大陸が少しずつ遠くなっていく。

 

 私は考えた末に、デッシュティル王国は元より大陸から離れることにした。

 良くも悪くも私は周りに影響を与えているみたいだからね。

 「ゲーム」のシナリオに無かったヴァシリアムの「憤怒」魔王化に。妹のルージュが「嫉妬」「強欲」の二重罪過魔王に。

 それにアリアもホンの少しだけヤンデレ化している気がしないでもないし。

 変わってないのはお兄様ぐらいしかいない。

 ……私は、アリアの好感度を上げるために、好き勝手してきた。多分、私が知らない人にも少なからず影響を与えた事だろう。


 これ以上、周りに変な影響を与えないためにも、私は「ゲーム」の舞台から完全に消え去ることにした。

 ちょうど『■■■権限』も使えた事だし、前世でアニメや漫画で見た登場人物が消え去るシーンを真似て、力を使ったことで消え去る、という演出をしてみた。

 自慢じゃないけど、だいぶ良い感じで出来たと思うんだけどね!

 ――でも、不思議なことにナナザイの報告によると、全員、私が生きてるって確信してたようだけど。

 おかしい。多少、過剰演出したけど、バレる意味がわからない。

 

 飛空艇が向かっていく先は、「尭魏」

 この世界で初めて知り、「ゲーム」では一切ローズが関わることがなかった大国だ。

 半年に数えるへどだけど、飛空艇や船による交易が行われている。

 前世でいうところの昔の中国みたいな感じを想像してるけど、まぁ行ってからどんな感じ見て回ればいいや。

 

「よォ、ご主人サマ」


 空間に黒い揺らぎが起きて、そこから全身黒ずくめの女性姿のナナザイが出てきた。

 私が眠っている間は男だったみたいだけど、目が覚めてからはまた女に戻ったみたい。

 なにか勘違いしてないかな? 私は至ってノーマルの性癖なんだけど?


「ほら、これがご主人サマが寝てた時の出来事だヨ」

 

 10枚ほどの紙に、私が寝ていた時の事が書かれていた。

 ルージュが教会に入ったこと、心を病んでアルギレに変わりデュナル第二王子が国王に成り、ヴァシリアムが「憤怒」に留まらず「傲慢」の魔王紋まで覚醒、お兄様は「嫉妬」魔王の部下になったこと。

 アリアの事はなにも書かれていない。

 挑発したら半殺しにされたから、近づくのを止めたから分からないということだ。

 ――アリアの事だから、きっと大丈夫だと思う。

 私が居ない以上、アリアは根は良い子なので、そう遠くない未来に英雄や勇者として祭り上げられる可能性もある。

 その場に私はいないだろうけど、何年後かにはまた戻ってきて、お祝いをしよう。

 

 ルージュは元気そうなのは良かった。

 もしかしたら死を偽装したことで、後追い自殺をするんじゃないかと心配してたぐらいだからね。

 魔王紋から聖人紋に反転させたことで、聖女として周りに慕われているとのこと。

 ……私がきちんと向き合ってたら、良い子になってたと考えると、本当、私はダメダメな姉だと痛感する。

 向こうの大陸に行って落ち着いたら手紙でも出すとしよう。

 

 ヴァシリアムは、うん、なに「傲慢」まで魔王紋を覚醒させてるの? バカなの? バカか。

 なぜか分からないけど、強さを追い求めてたから、ルージュと違って反転させなかったけど……。

 まぁ、きっと昏い感情に飲まれることなく、禦してくれると信じてる。

 決して面倒だからじゃない。なんだかんだでヴァシリアムは私にはないしっかりとした「強さ」があるから、大丈夫だと信頼してる。

 

 お兄様は「色欲」魔王の部下として働いているようだね。

 公爵家が没落したのは、私の所為みたいなものなので、お兄様には謝っても謝りきれない。

 ナナザイの報告を見る限りは、日々の暮らしに満足してるみたいだけど……。

 そうだ。今度、ナナザイに言って「色欲」魔王にお兄様の恋人を見つけてもらおう。

 迷惑ばかりかけてきた妹として、恋人ぐらいは見つけてあげないと。お兄様ももう20代半ばだからね、

 

「ありがとう。ナナザイ。約束通りこれを持って契約解除とするからね」


 私は心臓に施していた契約紋を解いた。

 胸元とか掌とか、契約紋はどこでも良いけど、悪魔と契約している事を知られるとマズかったので、見られることがない心臓に施してた。

 契約解除した事で、今まで感じていたナナザイからの繋がりは全く感じられない。


「これで、ナナザイは自由だけど、あまり人に迷惑とかかけないようにしてね」


「俺は紳士的に生きることを目標にしてる悪魔だゼ。ローズ、アンタが平穏を望むようにナ」


「そう。今だけは、その言葉を信じてあげる」


「ハハ。ところで、ローズ、手を出してくれヨ」


「良いけど――ッあ」


 掌に劇痛が走る。

 この痛みは覚えがあった。ナナザイと契約する時に、契約紋が刻まれる時の痛み。

 ナナザイは睨むと、愉快そうに嘲笑っている。


「せっかく自由だからナ。契約するのも俺次第だよナ。ローズと別れて退屈するよりは、契約して一緒に居たほうが、楽しそうだからヨ。それじゃあ、これからも宜しくナ、ローズ」


 物好きな悪魔。まぁ知ってたけど。

 ナナザイは文句を言われる前に、現れたときと同じような感じで空間に黒い波紋を波打たせ消えた。

 掌を見ると、思った通り契約紋か刻まれていた。

 ただし、主従関係の刻印でしなく、上下ではない同等の立場としての契約刻印だった。

 ――私みたいな自己中心的な(元)悪役令嬢と、同等の立場での契約を結ぶなんて、本当、物好きな悪魔。

 ナイショだけど、私は嬉しさで少しだけ涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 鎖が音を立てて鳴る。

 私の手首には見覚えのある手錠がされている。いくら魔力を込めても、魔力が発動する気配がない。

 手錠からは魔力で強化されている鎖が伸びている。

 強引に引っ張っているけど、鎖の音が鳴るだけで千切れる気配がない。

 恐る恐る首の所に触れると感触に心当たりがある首輪が嵌められていた。

 

 魔力封じに武力封じ。

 以前、魔王と成ったルージュに強化された手錠と首輪に良く似た感じだ。


「――ローズ様」


 声がした方を見ると、居たのはアリアだった。

 な、なんだろう、このデジャヴュ。


「あ、あの、アリア? この手錠とか首輪をしたのって、もしかしなくても――」


「はい。私ですよ」


「そ、そっかー」


 まぁそうだよね。

 もし私が拘束されていたら、アリアなら開放してくれる。

 見てるだけというのなら、犯人はアリアということになる。Q.E.D。証明終了。


「なんで、私の居場所が分かったの」


「ローズ様の居場所なら、千里離れていても分かります」


「答えになってない気がするんだけど!?」


「そうでしょうか? なら、私のローズ様に対する愛情で見つけることが出来ました」


 いや、だから答えになってないよね。

 アリアは笑顔のまま、着ている衣服に下着を脱ぎ、私の上に乗っかるように四つん這いになる。


「ルージュリアン様に弄られて嬌声をあげるローズ様が憎かったです。私のローズ様なのに、胸を下半身をイジられる、感じるローズ様が憎くて憎くて――それを見て悦んでいる自分自身が一番赦せなかったですッ。いえ、ローズ様が私の為に我慢して、ルージュリアン様の行為を甘んじて受けていたことは分かってます。でも、でも、でもっ!!」


 アリアは子供のように泣きながら、身体を密着させ、手で下半身を弄り、舌で胸元を舐めてくる。

 以前、初めて拘束されたときのような嫌悪感などはなく、すんなりとアリアの行為を身体が受け入れた。

 我慢することなく、嬌声を上げると、アリアは嬉しそうに刺激を強めてくる。

 まるでルージュによりされこた事を上書きしているかのように


「ローズ様。ローズ様。もう離れません。ずっとずっと一緒にいましょう。もしローズ様が、堕ちるというのなら、私も一緒に堕ちます。それほど愛してます。大好きです。大大大好きです。愛しい、愛しい、私だけのローズ様」


 おかしい。

 『■■■権限』まで使って死を偽装したのにっ。

 「ゲーム」の舞台である大陸そのものから離れたのに――っ。

 

 どうして……どうして、こうなったぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

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