第27話 『観測者』と『管理者』




 少しだけ昔話をしよう。

 

 世界が宇宙すらなく真っ暗で何も無かった頃。

 偶然、その虚無の空間に、虹色に輝く卵が発生した。

 卵はしばらくすると、罅が生じ、ゆっくりと時間をかけて、一体のドラゴンが誕生する。

 ドラゴンは、自分がどういう理由で、生まれたのか、なんとなくだが理解していた。

 自分が生まれた卵の殻を食べ、エネルギーに変換した後は、まずは次元を分かち、そこを宇宙を想像させ、銀河を、星々を、生物を誕生させた。

 

 ドラゴンは数多の次元を作り出し、多次元宇宙を管理することにした。

 ただ、あまりに造りすぎた事で、自分一体では管理ができなくなり、その次元にある程度の「管理者権限」を持たせた存在――俗に言う「神」を創り出し、世界の管理を任せることにした。

 また自分一体の思考では限界を感じたドラゴンは、分裂思考を作り出し、同時に幾つもの事を思考できるようになった。

 

 悠久の時が過ぎた頃。

 ドラゴンの分裂思考の一つに、喜怒哀楽とある好奇心が生まれた。

 多種多様な世界に住まう人々を見ている内に、自分もその世界で生きてみたいという欲が生まれたのだった。

 ただ『管理者』であるドラゴンの分裂思考の一つである時点で、それは高望みだと感じていた。

 そんな日々が続いたある日のこと。


『汝に『観測者』としての任務を与える』


 分裂思考の想いを知ったかどうかは分からないが、ドラゴンはそう言った。

 自分の意識化にある分裂思考に、アストラル体を与え、自分がドラゴンの一部だという記憶が無くすシステムを構築して、転生させる事にした。

 それが転生した一生は、ある部屋に「本」と言う形で保存される形となった。

 私は何百、何千という転生を行った。

 今、私の机の前にあるのは、転生した際に私の一生が書き綴られた本である。

 

 「藤堂美咲」は、「ローズ・ウィスタリー・シュベァイル」になる前の私の名前。

 職業は国家公務員。

 違うと言えば、表に出ない残業残業残業で過労死したということぐらい。

 その時にプレイしていた「ゲーム」が、ローズと生きていた世界という訳だけど――。


「良く「ゲーム」とあそこまで酷似した世界があったね」


「我が一万年単位で干渉した」


「は?」


「「ゲーム」と酷似した世界が普通に存在する可能性は極々微小。猫がピアノの上を歩いてベートベェンの曲を弾く確率よりも低い」


「まぁ、そうだよね。ゲームは創作の世界なんだし、幾ら多次元宇宙に存在ある三千大世界でも、似た世界はないだろうけど……なんで?」


「汝が望んだことだ。『乙女ゲーム』の世界に転生してみたいと願った。故に我はその願いを叶えるために、似た世界を探し「ゲーム」の舞台になるように干渉を行った」


「……なんで、そこまで?」


「我は汝であり、汝は我でもある。汝の願いは、我の願いでもある。つまりは我のためだ。汝が気にする必要はない」


 無表情で『管理者』は言った。

 私は机の上に置かれていた『ローズ・ウィスタリー・シュベァイル』の本を手に取りページを捲りながら見る。

 今の私と「ローズ」という少女は別人だ。

 分かりやすく言うと、アニメや本に登場する人物程度の認識しか持てない。


「汝が涙を流すのは珍しいな」


「涙?」


 私は頬を触れると確かに涙が流れている。

 ……ん。私にとってそれほど「ローズ・ウィスタリー・シュベァイル」という人生は大切だったのだろうか?

 自問自答を試みるが、答えは出ない。

 何百何千という人生を送ってきた私が?


「汝には選択肢がある」


「選択肢?」


「今一度「ローズ・ウィスタリー・シュベァイル」に戻るか。或いは新しい物語を歩むか。その選択肢だ」


 私は驚いた。

 ここに戻って来たという事は、私は死んだということ、のハズ。


「まだ死んではいない。状態から言えば仮死状態。瀕死。あと少しで死は確定する。過去戻りは『観測者』たる汝が向かえば、新しい平行世界が生み出されることになるので不許可。ただし、死にかけの者が奇跡的に蘇るならば、ある程度は問題無し」


 まだタイトルも表紙もない一冊の本が現れる。

 私がこの本を取れば、いつものと同じように記憶が真っ白の状態で転生して、一(生)から零(死)に物語を紡いでいく事だと思う。


「私は――戻る。きちんと終われてないからね」


「汝ならそういうと思っていた」


「……ついでに、だけど、『管理者権限』を少しだけ使わしてください。「ローズ」だと、『最強』の彼女だと対応は難しいと思うから」


「汝『観測者』も我「管理者」も表裏一体。とはいえ、『管理者権限』を無制限に使われると、世界にどんな影響が出るか不測。故に、一時的の許可に留める」


「ありがとう。『管理者』」


 礼を言うと『ローズ・ウィスタリー・シュベァイル』と書かれて本が僅かに発光する。

 私の存在が、徐々に本の中に飲まれていく感じだ。

 もう少しだけ「ローズ・ウィスタリー・シュベァイル」として人生を歩もう。

 全員を救えるか分からないけど、できるだけ頑張ってみよう。

 

 

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