第25話 『憤怒』魔王vs.『嫉妬』『強欲』二重罪過魔王



 ルージュリアンは、本当に厄介な者に転化したなッ。

 『嫉妬』の魔王紋だけでも面倒なのに、『強欲』の魔王紋にアリアの『天神地祇』と来た。

 グレイスは魔王紋の能力について簡単にだが教えてくれた。

 

 『傲慢』は、傲慢に見下し対象よりも強く、魅力的になる。

 『憤怒』は、憤怒は圧倒的な怒りによる攻撃力の大幅アップ

 『嫉妬』は、昏い感情が高まるほど能力が上がり、比例して対象者の能力値を下げる。

 『怠惰』は、無関心に無感動は自分だけではなく周りも同様の効果を受ける

 『強欲』は、他者が持つ能力や物の所有権の強奪。

 『暴食』は、なんでも食べる。人間も魔物も悪魔も神も魔力も空間もあらゆる物を食べる。

 『色欲』は、性欲や肉欲からなる心理操作が可能


 アリアがあそこまで弱っているのは、『嫉妬』に『強欲』の魔王紋の効果が大きいだろう。

 『天神地祇』は本来対魔王紋に対するほぼ無効に近い耐性があるハズだが、『嫉妬』と『強欲』による二重罪過による圧倒的な負の感情により、あり得ないことを有り得ることにした。

 アリアもだが、ローズも何時もと比べてだいぶ精神的に摩耗しているのが見て取れた。

 きっと『嫉妬』による効果だと推測出来た。

 

 神宝剣と黒神剣の刃が何度もぶつかり合う。

 ローズとアリアの事があり、『憤怒』の魔王紋が反応して、力が湧いてくる。

 パワーでは間違いなくルージュリアンを上回ってる。

 だが、徐々に反応が読まれ出してきた気がしてきた。いや、確実に読まれているな。

 これが噂の『光速思考』か。本当に厄介だなッ

 このままでは間違いなく、攻撃が紙一重で確実に避けられ、確実に避けられるようになるのは時間の問題だろう。


 幾度か刃がぶつかり合うと、弾かれ返された。

 ……ッ。手の感覚が、徐々に無くなってきている。

 『光速思考』の次は『五感剥奪』かよッ!

 くそ。触覚で気がついたが、聴力と視力と嗅覚も、徐々に無くなっている。


「どうかしましたか、ヴァシリアム元第一王子。顔色が悪いですよ? 貴方の妹の雌猫と同じような態度で来るなら、命だけは取らずに惨めな敗北だけで勘弁してあげますが?」


「ルージュリアン――寝言は寝ていうもんだっ!!」


 剣を振るが今度は難なく回避される。

 『憤怒』は七大罪の内に、確かに最強の攻撃力を誇る。が、当たらなければ、その最強の攻撃力は意味をなさない。

 ルージュリアンは『雷速』と化した攻撃を何度も繰り出して来た。

 貴族の淑女らしくなく剣だけではなく、拳や足技も出して来るが、ワザは素人のそれだが、雷の速さで繰り出されるだけで大ダメージを受ける。

 くそ――がぁ。

 剣を杖に、膝を地面に付けた。

 嘲笑うルージュリアンの顔が本当に忌々しい。

 

 これは――勝てないな。

 本当は俺が、コイツをぶちのめしたかったけど、こうなったグレイスが提案したプランBに持っていくしか無いか。

 俺はルージュリアンに対して挑発するような笑みを浮かべる。

 そして王冠が有する『王権』の能力を使用した。


「『頭が高いぞ。平伏せ、ルージュリアン』


「なっ、――ッ!」


 ルージュリアンは驚きの声をあげて地面に伏せた。

 『王権』の権能の一つ『絶対遵守』だ。


「この、この魔力はぁぁぁぁ。お姉さまノォォォォ」


「ああ。お前がローズに腕輪をしたままにしてくれているお陰で、アイツの腕輪を通して王冠に送られてる訳で、『権能』が使い放題なんだよ」


「巫山戯るなァァァ。お姉さまの物は、髪の毛一本、体液一滴、魔力も、全て全てェェ、ワタシノモノダぁぁぁああああ」


 ローズの方を見ると、手首に装着されていた腕輪が解除され、地面へと腕輪が落ちた。

 これでローズは開放された、か――。

 なんだ。魔力と、力が、抜ける。一瞬で、無くなった。

 ルージュリアンは、『絶対遵守』の命令に抵抗しながらゆっくりと立ち上がり俺を睨む。

 その胸元には、今まで以上に輝く『嫉妬』『強欲』、そしてさっきまで俺の胸元にあった『憤怒』が浮かび上がっていた。

 慌てて胸元を見ると、魔王紋は初めから無かったかのように喪失している。


「ああ、本当に忌々しい兄妹です。お姉さまは私のものなのに。私だけのものなのに――」


 ルージュリアンは3条の光を放ち、俺の身体を貫通した。

 魔王紋が奪われ無くなった以上、対物理・対魔力は魔王からしたら、一般人とされほど変わりはない。

 ぁあ、ローズを魔力封じから開放するというのが目的だったんだがなぁ。

 まさか『強欲』で『憤怒』を奪ってくるとは、思いもよらなかった。するなら『王冠』の方かと思ってたんだがなぁ。

 ルージュリアンが放つビームが、四肢を貫いていき、俺は立っていることができなくなり背中から倒れた。


「? まだお姉さまの魔力がする。――腕輪から直接じゃなくて、どこか中継して送られてるのですね。大本を破壊しないと、お姉さまの物は私だけのもの」


 まだ王宮地下にある巨大魔石を破壊させる訳にはいかない。

 『王権』の権能を使い王都中の人々を王都外に強制転移させて、最硬強度の結界を貼ってある。

 それを可能としてのは、地下にある巨大魔石に蓄えられたローズの圧倒的な魔力があるからに他ならない。


「ヴァシリアム元第一王子。雌猫と同じような感じで雄犬になるって誓うなら、命ばかりは助けてあげますが?」


 俺は笑い、手に持っていた神宝剣をルージュリアンに向けて投げた。

 投擲したもののルージュリアンから数センチほどの距離で空中で静止した。


「――ガァ、っあ、これが、俺の答えだ、ぁ」


「そうですか。なら、肉片、魂魄すら残さず、消えて――死ネ」


――絶技・遮二無二――


 七属性の魔力を最高まで高めて放つ、至高にして究極の一撃。

 全てを飲み込み消し去る魔力が、俺を飲み込むように向かってくる。

 もう立ち上がる力も残ってない。

 ――ごめんな。ローズ。結局、俺はお前をきちんと助ける事ができなかったな。

 魔王となって、ようやくお前と並べるぐらいの強さを得た気がしたんだが。


「バカ王子――ではなくて、ヴァシリアム。私と比べて、貴方はずっと強いですよ。ありがとう」

 

 

 

 

 

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