第24話 (元)悪役令嬢と決戦
ヴァシリアム第一王子の声が聞こえと思った瞬間。周りの景色が突如と変化した。
ハンターギルドのエントランスではなく、見覚えのある絢爛豪華な場所になる。
ここは王宮の玉座の間?
国王が座る椅子がある最上段に居るのは、私の婚約者、ヴァシリアム・ジル・ディースト・デッシュティルだ。
なんだか、とても懐かしくて、私の頬を涙が伝う。
「久しぶりだな、ローズ。――ハハッ、お前が俺を見て涙を流すなんてな」
ヴァシリアム第一王子は飛び上がると、『神宝剣ルドラ』を抜き、ルージュに向けて振り下ろす。
ルージュは、黒い衣――『禍津・天神地祇』になり、振り下ろされた剣を漆黒の神剣で受け止める。
宝剣と神剣がぶつかりあった衝撃は凄まじい。
私は咄嗟にアリアを庇ったけど、玉座の間からかなり吹き飛ばされて、入り口の所の扉にぶつかってしまった。
ヴァシリアム第一王子は、私とアリアをチラリと見ると、再び視線をルージュへと戻した。
「よう、ルージュリアン。俺の婚約者と義妹が世話になったみいだな。たっぷり礼をさせてもらうから覚悟しろ」
「――本当、忌々しく、憎たらしい、兄妹、ですね。第一、貴方はアルギレに王座を追われた身でしょう」
「追われてねえよ。ローズと一緒にいるために、アレにくれてやったんだ」
「ハッ。どちらにしろ、シュベァイル家が政略結婚で婚約させたのは、貴方が第一王子だからです。その地位が無くなった以上、婚約解消されてますよ。なのに我が物顔で、お姉さまの婚約者を名乗るなんて烏滸がましいッ」
え。アルギレが王座に着いたってことは、デッシュティル王国の国王がアルギレって事? この国、終わりじゃん。
アルギレは「ゲーム」における攻略対象者の一人だ。
本来であればアリアと関わる事で、どうしようもなく駄目なヤツから、まともなヤツへと変わるんだけど、この世界では愚者のままだ。
……これに関しては私が悪い。
だってアイツの言動って不快で、アリアに対してもロクなことをしないから、ついついアリアの好感度を上げるために邪魔をしてた。
そのため改善される性格は、改善されることはなく愚者は愚者のままで終わった。
「確かに第一王子の座を退いた俺は、もうローズの婚約者じゃないかもしれないが――。俺はそれでもローズの事が好きだ。そして親友とも思ってる。それを酷い目に合わせているお前を赦してやれるほど、俺は器が大きくないんだよ!!」
ヴァシリアム第一王子……ああもう第一王子の座を退いたんだから、ヴァシリアムと呼ぼう。その彼の胸元に痣が爛々と輝き始めた
「――それに、よくも俺の義妹をあんな目に合わせてくれたなッ。お前だけは絶対に赦さん!!」
そう叫ぶとヴァシリアムの剣との鍔迫り合いに勝ち、押し負けたルージュは吹き飛ばされ壁に激突した。
ルージュは壁にぶつかりはしたがダメージを受けている様子はなかった。
『禍津・天神地祇』を発動させているルージュには、壁に激突した程度ではダメージは与える事はできない。
それよりも私が驚いたのは、ヴァシリアムの胸元の赤く輝く痣――魔王紋。
形状からして『憤怒』だと思う。あの時に言った私が知らない二体の魔王ってヴァシリアムとルージュの事だったんだ。
ああ、これは間違いないなぁ。
私の所為だ。ルージュが『嫉妬』と『強欲』、ヴァシリアムが『憤怒』の魔王紋を得たのは、きっと私がゲームとは逸脱した行動を取ったからに違いない。
「ゲーム」通りに進めていれば、ルージュとヴァシリアムが魔王紋を発現させて魔王になることもなかった。
アルギレもクズ人間から真人間になってたと思うし、アリアも「ゲーム」通りに進んで幸せに成っていたはず。最低でも全裸の四つん這いで街中を歩かされると言うことは無かったバズだよね。
「ローズ、何を呆けている! アリア嬢を連れてこっちに来いっ。魔王同士の闘いの余波に巻き込まれるぞ」
眉間にシワを寄せ厳しい表情をしているのは私のお兄様、グレイス・レジェ・シュベァイル。
「ゲーム」における攻略対象者の一人でもある。
「ゲーム」では、ワガママし放題のローズの横暴に対処する内に、アリアと親密になっていくと言うストーリー。
お兄様は「ゲーム」でもこの世界でも、王佐の才があると言われるほど天才で、特に「ゲーム」では的確に相手の弱点を付き、味方で鼓舞するキャラだった。
私は来ている服を一枚脱ぎ、アリアに羽織るとお兄様の元へと行く。
「全く。お前は何時も私に迷惑をかけてくれるな。もう少し平穏に過ごすということを心がけろ、ローズ」
「……ごめんなさい、お兄様」
「今回は、やけに素直だな」
「私が。私が――原因ですから」
「確かにそうだ。だが、原因が自分だと自覚があるのならば、それを解決するために頭を働かせ行動しろ。原因だと自分を責め、受け身になることが最大の愚だ」
本当、お兄様はいつも厳しく、正しい事を言って来る。
解決するための――行動。
私はどうするべきなんだろう。お兄様に訊けば、きっと教えてくれると思う。
けど、今回の事は私が「答え」を出さないといけない。
考えていると、一際大きな破壊音が玉座の間に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます