第22話 (元)悪役令嬢とペットの散歩
私とアリアは精神を摩耗していた。
ルージュが言ってくる事は、私とアリアの気力を確実に削ぎ、部屋に置かれている鉄格子のゲージに入れられているアリアとは、最近ではもう話さえ出来ず、私はなるべくアリアの近くに居たくて、ルージュがいない時はゲージにもたれかかって居る事が多くなった。
妹であるルージュが、どうして「嫉妬」「強欲」の二重罪過魔王になったかは分からない。
けど、きっと私の所為なのだろう。その罪悪感もあり、もう、抵抗する気もほぼ失っていた。
手錠と首輪も、「禍津・天神地祇」で強化されているため、もうアリアの管理からは外されているらしい。
「お姉さま。ついでに雌猫も散歩に行きましょう。こんな部屋にいたままだと、体調が悪くなってしまいますからね」
どの口が言うんだろう、と思いはしたが、外の空気を吸いたい気持ちはあったので、ルージュの言葉に頷いた。
ニコリと笑うルージュは本当に可愛かった。ほんと、昔はこんな事をする子じゃなかったのに……。
そしてルージュは、ゲージに近づくと鍵で扉を開けて、首輪の所に縄を付けるとアリアを引っ張り出した。
アリアは本当に疲労と心労で、以前とは別人のような表情をしている。
嘲笑いながらルージュは、アリアの胸元で何からしていたようで、アリアは痛みで声を上げた。
「さあ、お姉さま。散歩に行きましょうか」
ルージュを中心として魔法陣が展開され、周りの薄暗い景色は、明るい景色に徐々に変わる。
先日、逆召喚された時とは違い、きちんとした人間用の転移型魔法だ。
目の前には、大きめの街があった。
街道の横には「『→』ミーユル」と書かれている。
「はい。お姉さま」
ルージュは私にロープを渡して来た。
「では、行きましょうか」
「待って。待ってッ、ルージュ。アリア、裸のままなんだけど……」
「? そう、ですね? 何か問題がありますか。人間には衣服が必要ですけど、雌猫には必要ありませんよね」
不思議そうな表情で首を傾げるルージュ。
徹底的にルージュはアリアを屈辱な目に合わせるつもりだ。
もう抵抗をする気力もない為か、アリアは自らが四つん這いで進みだした。
同時に鈴の音が聞こえる。
どうやら胸に鈴がついたピアスを付けられているようだった。
私は震えながら、ロープを握りしめて、ルージュとアリアに付いていく。
街の前にいる衛兵は、ルージュと何度か言葉を繰り返し、衛兵はアリアをイヤらしい目で見つめる。
少しして街に入る許可が入ったようだ。
街は昼過ぎのためか、割と人が多い。
通っている人々は、アリアを見て驚いている人、色物を見るもの、好奇な視線を向けるもの。様々な人間が見ていた。
「お姉さま、お腹が空きませんか? ちょうどお昼のようですし、――確か、ハンターギルドでも食事をする事ができたと思うので行きましょう」
「良く、知ってるね」
「この周辺については、色々と調べましたから。ええ、それは、もう、雌猫の行動範囲だったので念入りに調べましたよ」
嘲笑いながらルージュは言い切った。
きっとアリアを追い込むために、調べまくったのだろう。
アリアを捕らえてからは、幾らでも調べる時間はあったのだから――。
……きっとハンターギルドでも、アリアに酷いことをさせる気だと思う。
でも、今の私にはどうすることも出来ない。
ごめんなさい。ごめんなさい。アリア。
不甲斐ない私を赦してとは言わない。死ぬほど憎んでくれていいから、心を保って――。
デッシュティル王国王宮。
万が一の時に、王族が使用する隠し通路を使用して、俺は王宮へと戻っていた。
使用している隠し通路は、かつて俺の父親のデウスが使用していた物だ。
ここを使い城下町にある宿場で、普通に働いていたアリアの母親のアリエッタに抱きに行っていたようだ。
……アリアが知れば、問答無用で破壊しそうな隠し通路。
正直、もう王宮には戻るつもりはなかったんだかなぁ。
これもローズの為と言われたら、断ることもできない。それも頼んできたのが、ローズの兄であるグレイスからの頼みならば尚の事だ。
通路の先は国王の寝室へと繋がっている。
万が一の事を想定して、迷路化している隠し通路を迷わずに進む。
グレイスが手に入れていた迷宮の地図だ。
――どこで手に入れたんだろうな。
進む内に行き止まりへと辿り着いた。
左側にある壁を構築しているレンガを、グレイスから渡された地図に記載されている通りに押した。
すると壁は音を立てずに、ゆっくりと下がる。
壁の向こう側には、衣服が並んでいた。――国王の寝室のどこに繋がっているかと思ったが、クローゼットの中か。
クローゼットの奥から女達の喘ぎ声が聞こえる。
どうやらお楽しみの最中のようだ。
……終わるまで待つか?
だが、グレイスから連絡がいつ来るか分からない状況だからなぁ。
乗り込もうとした時、クローゼットが突如として開かれた
「少し遅かったわね。『憤怒』」
「……お前は、『色欲』か」
胸元の魔王紋が、目の前の女性の色気が溢れる黒髪の女性が『色欲』魔王だと訴えかけてくる。
俺は促されて隠し通路から、国王の寝室へと出た。
大きなベッドの上には、新国王であるアルギレと、半脱ぎのメイドたち数名が乱れに乱れている。
アルギレは正気ではないよう表情をしながら女達を一方的に犯していた。
いや、一見そう見えるが、よく見ると女達のほうがアルギレを貪っているようにも見える。
「はい、コレ。『王権』を発動させるために必要でしょう?」
『色欲』魔王は、王冠――『王権』を発動させるために必要な宝具を渡して来た。
「どこまで知ってる」
「私は、私達は平和が欲しいの。デッシュティル王国国内が腐敗して、魔王同士がガミーニウ中立自治国で戦うなんてなったら最悪だもの。災害は一箇所にまとめて欲しいの」
「――お前の考えなのか」
「違うわよ。考えたのはナナザイ様。大魔神王は七罪魔王には直接干渉できないよう軛(くびき)で縛られているの。だから、「嫉妬」魔王に干渉はできないのよ」
そういうのがあるのか。
ナナザイが酷い目に遭っているであろうローズを助けてもしないのは、そういう決まりがあったからか。
クレイズが言うには、ローズの妹のルージュリアンは、ローズに対するコンプレックスを拗らせた末に「嫉妬」魔王へと転化したらしい。
……本当、当代のシュベァイルは厄介な傑物ばかりを輩出してくれるな!
「それと「嫉妬」魔王の事だけど、「嫉妬」と「強欲」の七大罪を持つ二重罪過魔王に進化したみたいよ」
さすがローズの妹だな!
普通はやらないようなあり得ないことを平気でやってくれるッ。
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