第20話 ヒロインと悪役令嬢【下】
ハンターとして、魔物を討伐することも、ダンジョンを踏襲する事もなく過ごす日々。
孤児院の子供たちや、セルフィスさんが何度も話しかけてきてくれましたが、曖昧な返事しかできません。
私はデウス国王に贖罪をさせる為に、今の今まで生きてきたんです。
それが他者の手で奪われ、ローズ様とも不仲に……。
塞ぎ込む日が続くと、ある日、突然、意外な人がやってきました。
ローズ様のお兄さん、グレイス・レジェ・シュベァイル様です。
『アリア・クラウン・エクスデス嬢。頼みがある。バカ妹――ローズを止めてくれ』
グレイス様は膝を頭を付け、土下座な近い形で頼まれました。
ローズ様が私の攻撃を受けても無事な事に安堵したと同時に、どういう状況か理解できませんでした。
どうやらローズ様は、私に嫌われた事で、自暴自棄になり、帝国に一人と一体の悪魔で進撃しているそうです。
なんて規格外な人なんでしょう。
でも、私にローズ様を止めれるとは思えず、グレイス様の頼みを断りました。
それから三日、孤児院に来てはグレイス様は私を説得して来ました。
毎日、孤児院に来ては土下座をしてくるグレイス様を見兼ねたセルフィスさんも説得に加わり、私は帝国にいるローズ様を止めに行く事にしました。
ナナザイが大魔神王として活動している為、ローズ様の場所はほぼ確定しました。
居た場所は帝都の首都「ドシナンテ」にある王宮に居たのです。
首都を護る守護騎士が立ち塞がってたようですが、ナナザイとローズ様が相手です。
騎士たちは盾にすらならず蹂躙されてました。
『――シュベァイル様!』
『っ。エクスデス、さん?』
私を見たローズ様は逃げました。それともう脱兎のごとく。
逃げられたことになんだかムカムカした私は、ローズ様を追いかけました。
逃げるローズ様と追い掛ける私。
途中、色々と言い争いをしました。内容は恥ずかしいので割愛しますが、少しだけローズ様の事が知れて良かったです。
「天神地祇」で大幅に強化されている私が全速力出してるのに、追いつけないってどうこうです。
ですが、ついに追い詰めました。場所は王宮最深部、帝王が居座る場所。
『よォ、ご主人サマ。命令してくれたら、ソイツは俺が相手をしてやってもいいゼ』
『……エクスデスさんは私が相手をするから、ナナザイは帝王の方をして』
『ハイハイ。りょーかいですヨ』
ナナザイはそう言うと玉座の方へ向い、ローズ様は大剣を抜き私に向けてきました。
『結局、こうなるんだ……。悪役令嬢はヒロインと戦う運命にあるんだ……。こうなったら破れかぶれ、全力で戦ってやるっ』
ローズ様は圧倒的でした。
七神獣の力を得て「最高」クラスまで高められている力がまるで通じません。正に「最強」と言っても良いでしょう。
光属性による思考光速化。闇属性による相手の五感剥奪。雷属性による行動雷速化。地属性によるフィールド掌握。風属性による空間掌握。水属性による身体のバイタル安定。火属性による攻撃力上昇。
ここまでして。ここまでしても、ローズ様には全く敵いませんでした。
でも、簡単には負けたくない思いもあり、私は必死でローズ様に食いつき、そして負けました。
魔力切れで「天神地祇」も消え去り、後はローズ様の攻撃を受けるのみとなりましたが、突如としてローズ様は剣を床へ落とします。
『ごめんなさい。ごめんなさい。エクスデスさんを、アリアを傷つけるつもりは無かったの。私は、私は、アリア、貴方に嫌われたくなかっただけなの』
この時、初めてローズ様がエクスデスさんではなく、アリアと名前で呼んでくれました。
それが何故か無性に嬉しくて、私は泣き崩れるローズ様に私は近寄り抱きつきました。
『「ローズ様」。私のほうもごめんなさい。あの時、ローズ様ほ大嫌いなんて言ってしまって……。私はそのことをずっと後悔してました』
『……アリア?』
『とりあえず王国へ帰りましょう、ローズ様。ローズ様のお兄様もとても心配してましたよ』
『ぅっ。お兄様、怒ってた?』
『いえ。とても心配してました。私がいる孤児院に来て、ローズ様を止めるように三日間も説得するぐらいでしたよ』
『謝らないと、いけないなぁ。よしっ、ナナザイ、帰るよ』
こうして私はローズ様を、なんとか王国へと連れ戻すことが出来たのです。
私は新聞を鞄の中に仕舞い込み、ローズ様がいる屋敷へと向います。
デッシュティル王国に政変と、ヴァシリアム第一王子が行方不明の件は、ローズ様に言うことにしました。
もしローザ様が、デッシュティル王国に向いアルギレと対峙するにしても、ヴァシリアム第一王子を探索するにしても、私はローズ様について行くと決めました。
「みぃぃつぅぅぅけぇぇぇたぁぁぁぁ」
それは一瞬でした。
地の底から響くような怨念じみた声が聞こえたと同時に、私は幾つも木々を背中にぶつけながら吹き飛ばされました。
完全に油断、違います。油断していたとは言え、こんな風に先制攻撃を取られるなんて。
かなりの衝撃のダメージを回復するため、自己治癒能力のある「天神地祇」になる。
いつもと比べて治癒速度が遅い。
一体誰が――。
ダメージを我慢して立ち上がると、赤と黒のドレスを来た赤い髪の少女がいました。
少しですが、どこかローズ様に似てる気がします。
「――誰?」
「ルージュリアン・テスタロト・シュベァイル。愛しい愛しいお姉さまの妹です」
ローズ様の妹?
そう言えば、ローズ様に妹がいたと言うことは聞いた事があります。
ただ病弱のようで、ローズ様のお兄様が、別の屋敷で療養をさせていると訊いてました。
今の感じでは、とても病弱とは言えない気がします。
「お前が、お前が、私のお姉さまを奪った。許せない、赦せない、恕せないぃぃ」
胸元に赤黒い痣が輝き、服の上からハッキリと視認する事ができます。
あれは――魔王紋。カタチからして「嫉妬」だと思われます。
「お姉さまの処女は、私が奪うはずだったのに。お姉さまは私のモノなのにっ」
ルージュリアン様の言葉に反応するかのように、大気が振動します。
ローズ様。貴女の妹が「嫉妬」魔王と化したのなら、私は討たなければなりません。それが神子としての私の役割です。
左手に神剣を出し、雷速で瞬時に移動。そのまま首元に神剣を振るいました。
でも、首元で剣は止まってしまいます。
なんて硬さ。私の神剣が通らないなんて……。
視認出来るほどの禍々しい魔力がウネリを上げて、私に向かってきましたが、再び雷速で移動、なんとか回避しましたが、放たれた魔力は、幾つもの木々を圧し折りました。
「……テンジンチギ。神獣のチカラを得た、形態――。そんなのを、持ってるから、お姉さまは、お前なんかを――。そのチカラは、私のモノだぁぁぁぁ」
「そん、な――。うそ」
「嫉妬」魔王紋の下に、もう一つの魔王紋が出現しました。
形状からして「強欲」に間違いありません。
ありえない事です。原初の大魔神王は例外として、基本、魔王紋は一人に一つ。一人が二つの魔王紋を発現させるなんて訊いたことがありません。
……さすがローズ様の妹様です。と言いたくなりました。
魔王紋所持者と戦う事は、今日が初めて。しかも戦う相手が、ローズ様の妹様で、「嫉妬」「強欲」の魔王紋持ち。
「ローズ様。貴女の妹を斃します。赦してほしいとは言いません。二種類の魔王紋を発動させた彼女を生かしたまま。ここで放置する事はできません」
「私を斃す? 無理なことは言わないほうがいいですよ!! 泥棒猫ッ」
神剣を構え、足を一歩、踏み出すと、力を抜けました。
私の身体から七つの光――契約した神獣の元が強制的に出たことで、「天神地祇」が強制解除されました。
七色の光は、ローズ様の妹様の「強欲」魔王紋に吸い取られ、「強欲」魔王紋の形状に七色の光が追加された。
同時に、「天神地祇」にも成り、ただ私と違い、純白ではなく漆黒の衣となってます。
「これが、「天神地祇」――? こんなものなんですね」
つまらなそうな表情をして、【千里図】を展開してしました。
そこに映っていたのは、私が育った孤児院。
まさか――。
――天罰式・断罪剣――
孤児院がある方角から、轟音と、酷い地震を思わせる揺れが起こりました。
「ん-。慣れてないためでしょうか。命中精度がまだ甘いなぁ」
「止めてっ」
「止めて? それが人に物を頼む態度なの?」
「――お願いします。止めて、下さい」
私は頭を下げて、ローズ様の妹様に嘆願しました。
でも、何が気に入れないのか、ローズ様の妹様はもう一度「天罰式・断罪剣」を放ちました。
再び轟音と揺れが起こります。
私は慌てて『千里図』を見ました。二撃目も、ワザとかどうか分かりませんが、孤児院から外れてました。
「なん、で」
「土下座して下さい。ついでに、この文章を読みながら、きちんと言ってくれたら止めます」
「――ッ」
紙を見て愕然としました。
こんな事を言わないとダメなんですか……?
でも、私には選択する権利すらありません。
「天神地祇」を奪われ、天罰式で私の大切な場所を人質にされている以上、言う通りにするしか方法はありませんでした。
私は膝を付き、頭を地面につけ、渡された紙に書かれていた台詞を言いました。
「私、アリア・クラウン・エクスデスは、ルージュリアン様の最愛の、お姉さまである、ローズ様を私欲で奪ってしまった、どうしようもない、愚かな、泥棒猫、です。それに贖罪をするため、私は、あらゆる人権と、人としての最低限のことすらも放棄して、これからは、ルージュリアン様に、ペットとなり、泥棒猫から雌猫になるための、ちょ、調教をしてもらう事を、ここに、ち、誓います」
再び轟音と揺れが響いた。
慌てて「千里図」を見るために顔を上げてみると、まだ孤児院には当たってなかったです。
ルージュリアン様は、特に気にすることなく、私を睨みながら言ってきました。
「ねぇ、なんでペット……雌猫のくせに服を着てるの? 人としての最低限のことすらも放棄するんですよね?」
「千里図」から孤児院は消え去り、次に映し出されたのは、孤児院のいる子供たちとセルフィスさんの顔写真が映し出されました。
そんな、まさか、「千里図」と「天罰式」は、個人攻撃も出来るの……?
早くしないと、ルージュリアン様は、本気でする。
私は来ている衣服とも下着、全てを慌てて脱ぎ、森の中で、生まれたままの姿となり、もう一度、土下座をして宣言をしました。
「私、アリア・クラウン・エクスデスは、ルージュリアン様の最愛の、お姉さまである、ローズ様を私欲で奪ってしまった、どうしようもない、愚かな泥棒猫です。それに贖罪をするため、私は、あらゆる人権と、人としての最低限のことすらも放棄して、これからは、ルージュリアン様に、ペットとなり、泥棒猫から雌猫になるための、調教をしてもらう事を、ここに誓います!!」
私は恥を捨てて、森に木霊するほどの大声で宣言をしました。
その姿を見てルージュリアン様は、愉快そうに嘲笑ってます。
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