第17話 名前を得た悪魔と悪役令嬢
――神帝の雷霆槌――
棺桶に入って寝ていると、最上級魔法をぶっ放して起こしてきたバカがいたのサ。
勿論、そのバカと言うのは、俺のご主人さま、
ローズ・ウィスタリー・シュベァイル
高そうなドレスはボロボロ。全裸に近い半裸と言った状態だった。
まぁ、そりゃそうだろうヨ。
俺の住んでいるダンジョンは、人に来てほしくなくて、ハンターやら冒険者が嫌がる事を研究した上に、俺自身がされてもイヤなトラップ等も仕掛けて、俺自身も攻略したくない最悪レベルのダンジョンを造ったのサ。
それをソロで攻略してくるから恐れ入るヨ。
流石にこの時の、ご主人サマはダンジョンのイヤらしいトラップに怒り心頭の為か、問答無用で闘いを仕掛けてきた。
俺も、ソロでここまで来た人物は初めてだった事で、興味が湧き、闘いに興じることにしたのヨ。
結果から言えば完全敗北ッス。
いや、これは勝てないワ。
闘っている内に感じた事だが、ご主人サマは■■■の加護を受けている事が分かった。
■■■は人の精神に寄生して、寄生したモノの一生を俯瞰・観察する存在。
寄生されたからと言って、精神に異常を来るとか、乗っ取られるとか、話しかけられるとか、そんな事は一切ないらしい。
数百年に一度くらいの割合で、この世界に現れるナ。
時には善人、時には悪人、時には魔物だったりもしたナ。
ただ■■■に寄生されたモノ達は、共通して何かしらのレアな能力を持っているんだヨ。
どうやら俯瞰・観察している駄賃として与えているようだネ。
で、俺のご主人サマは、文字通り『最強』なんだヨ。
本人も分かってるのか分かってないのか、たまーに「ふふん、この身体は最強スペックなんだからね」とか言ってるって事は、分かってるのかネ。
ご主人サマと闘っていると、少し残念に感じたネ。
もし性格が違って地上で会うことがあれば、悪魔らしくそそのかして悪の道に引き込んだのにヨ。
この世界に生まれ、七大罪を背負い、自分で言うのもアレだけどナ、かなり強い俺でも、ご主人サマ相手だと、勝てるビジョンが見えなかったのヨ。
ありとあらゆる手法を使い勝とうとしたけど、あと一歩で勝てないだヨ。
60時間以上に渡り全力で闘い続け、結果、俺は地面に伏せた。
……「怠惰」で引き籠もり生活を続けてたからナ。身体が鈍ってたんだヨ。あと、ダンジョンで苦労した少女相手に本気出せる訳ねーだロ。
決して、負けた言い訳じゃねーヨ。言い訳じゃねーからナ!
地面に伏せている間に、契約用の魔法陣を描かれ、強制的にご主人サマの使い魔になる事になった訳ヨ。
使い魔になるのがイヤって訳じゃねーヨ。
悠久の長い時間を生きてきた身だ。少しの間、人間の少女の小間使いになるのも悪くないと思ったヨ。
その事を「色欲」魔王ことロザリンドに報告に行くと、なんだか不機嫌な対応をされた。
そんなに人間の手下になる事がダメだったのかネ。そういうプライドのあるヤツじゃないと思ってたんだけどナ。
『アリア・クラウン・エクスデス。その子の好感度を上げるのが、私の当面の目標なの。協力してよね、ナナザイ』
ダンジョンから帰還して、ご主人サマが兄チャンに説教をくらいった3日後。
ご主人サマが、あのイカレ女に会わせると言って学園内を散策することなった。
目的の人物は裏庭にいたんだが、どーやら貴族に絡まれているよーだった。
貴族に絡まれているのは別に良いんだが、俺が驚いたのは、あの若さで七神獣と正式契約――つまり七体の神獣を身に宿していることだ。
ありえねーだロ。
長年生きた俺ですら、七神獣を身に宿すヤツなんて見たことも聞いたこともなかったヨ。
しかも七神獣に意識を奪われることなく、きちんと自我を保っているんダ。
まだ人でありながら、七大罪を背負う俺と互角の力を手に入れてるってことだヨ?
本当にイカレタ女だヨ。ご主人サマとは別ベクトルで危険すぎる。
そんなイカレ女に貴族だから、性的奉仕させようとするバカがいた。
名前は確か、アルギレ・グシャバル・シーン・ガキャミラと言ったかナ。
物語に出てくる貴族の悪いところを集約したバカって感じの男だヨ?
触るな危険という人物に、性的奉仕をさせようとするしか、バカの極地。イカレ女も指先に魔力を貯めているしナ。
あのイカレ女の実力ならば、指先一本の魔力で人を消し飛ばすことが出るだろーヨ。勿論、俺も出来るヨ。
そんな間に割って入ったのは、俺のご主人サマ。
普通は魔法か、割って入るのが普通だロ。それをご主人サマは、問答無用でドロップキックをアルギレにかましたのサ。
鈍い音がしてアルギレは吹き飛ばされ意識を失い、取り巻き数名に慌てて担がれ去っていった。
ご主人サマは、イカレ女に近づくと、イカレ女は感謝の言葉を一応は述べたが、後は拒絶だった。
『ど、どうして……?』
『当たり前だろ、ご主人サマ。俺は悪魔だゼ。悪魔と契約していると魔の気配ってのが出るんだヨ。で、あのイカレ女は七神獣と契約している神子だロ。そりゃ、警戒して、拒絶するわナ。俺もご主人サマと一緒じゃなったら、喧嘩をふっかけてるだろーヨ』
『ヒロインのアリアをイカレ女って呼ばないでっ。――ま、待って、それじゃあ、今のアリアの私に対する好感度は』
『誰が見てもマイナスだナ』
『あ、ああ、私は、ヒロインの好感度を上げたいだけなのに、マイナスからのスタートってどういうこと――!!』
頭を抱えて叫ぶご主人サマ。
その姿が滑稽で、微笑っていると、『神帝の雷霆槌』で叩き付けてきた。
いやいや、これは理不尽だロ。
俺と契約したのはご主人サマ自身だからナ。その結果は、受け入れないとナ。
それからというもの、ご主人サマはイカレ女の好感度を上げるため、あの手この手を使い、今に至る。
その結果が、監禁されるというのだから、本当にご主人サマには道化の才能があるゼ。
昔を懐かしんでいると、ロザリンド配下の悪魔が一体、慌てて入ってきた。
そして俺の前に、新聞を大きく広げて言った。
「大魔神王さま、大変ですっ。デッシュティル王国に政変が起こりました! ヴァシリアム第一王子は行方不明。新王はアルギレ・グシャバル・シーン・ガキャミラという方らしいです」
え、マジ?
あのアルギレが新国王とか、もうあの国は終わったナ。国の興亡は珍しくもなんともないけど、ご主人サマはどう思うかネ。
王子サマは――「憤怒」を覚醒させて、ガミーニウ中立自治国へ向かってきてるナ。
つまり目的はご主人サマか。
ん、「憤怒」だけじゃなく「嫉妬」もこっちに来てるナ。
ハハハハ。まさか、ほぼ同時期に二体の魔王が覚醒するとは――、ご主人サマの影響力は流石だヨ。
「大魔神王、さま?」
「……隠してたわね。私以外にも、「魔王」が存在することを」
「流石は「魔王」だけあって、他の「魔王」の覚醒を感じたかヨ。ま、問題ないだロ。基本、魔王同士は不干渉が不文律だゼ。ただヨ、他国に今直ぐに行くことをオススメするヨ。来るのは「憤怒」と「嫉妬」。そして間違いなく闘いになるゼ。相手は、七神獣を持つ歴代最高のイカレ女、アリア・クラウン・エクスデスだ」
ガミーニウ中立自治国に化物が集中しているナ。
七神獣を持つ歴代最高のイカレ女、アリア・クラウン・エクスデス。
七大罪で最も人心を操る事に長ける「色欲」魔王、ロザリンド・ハイバース。
七大罪で最強の攻撃力を誇る「憤怒」魔王、ヴァシリアム・ジル・ディースト・デッシュティル元第一王子
七大罪で厄介極まりない「嫉妬」魔王、ルージュリアン・テスタロト・シュベァイル
七大罪を持つ原初にして最初の悪魔、大魔神王こと俺、ナナザイ
そして、この全員と何かしらの関わり合いがある、俺の『最強』のご主人サマ、
ローズ・ウィスタリー・シュベァイル。
アルギレが新国王となったデッシュティル王国も滅びそうだがヨ。
俺を含めた「魔王」四体。七神獣の神子。『最強』の公爵令嬢。
ガミーニウ中立自治国の方が先に壊滅するかもしれねーナ。
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