第16話 名もなき悪魔と悪役令嬢


 俺は名も無き悪魔。そしてこの世界、初の悪魔、七大罪を背負い者なり。

 いや、大げさには言ってねーヨ。

 俺がこの世界初の悪魔ってのは間違いじゃねーし。

 元々はただの人間が、禁忌を犯したことで、七大罪を背負い、人間とは異なる物へと転化した、つまんねー話サ。

 

 同類を作り出すには、人間を欲で落とし、転化させるしか方法はないからナ。

 俺も若い頃は、仲間が欲しくて、てきとーに人間たちを欲に堕として、悪魔へと転化させてものサ。

 ただ、結局は、誰も彼もが俺を置いて、人間に討たれ、或いは自害し、或いは寿命で居なくなった。

 1万年ほど活動した辺りで、もうやる気が失せて、適当なダンジョンを作り、その奥で引き籠もる事にしたのサ。

 退屈は問題じゃなかった。『怠惰』があるお陰で、快適な引き籠もり生活を送ることが出来たからナ。

 

 引き籠って1000年ほど経つと、地上で悪魔の気配がするようになった。

 俺は何もしてないのに、不思議に思った俺は地上へと出た。

 そこでは七大罪に対応する「魔王紋」が存在しており、特に罪深い人間に痣となって紋が現れ、その存在を魔王へと転化させてしまうというものだった。


 それに対抗するためにと、七美徳が生まれて、大罪と美徳を持つ者たちが殺し合った。

 もしかしたら拮抗している七美徳を手に入れれば、今みたいな不老不死から抜け出せるかもしれないと、淡い希望を抱いた俺は、『強欲』を使い、七美徳を全て手に入れた。

 まっ、結局は意味を持たなかったけどナ。

 七美徳は確かに七大罪を相殺する事が出来たが、俺の不老不死までは打ち消せなかった。

 失望した俺は、またダンジョンへと引き籠った。

 

 その間に、世界は何回か興亡を繰り返したみたいだヨ。

 たまーに地上に行くと、かなり発展した時もあれば、俺が悪魔になった時よりも文明が落ちていた時もあった。

 

 そしてかなり時が経った。時間? 知らねーヨ。不老不死に時間なんて訊くナ。

 この辺りで自分がどんな者か分からなくなり、老若男女に変幻自在に代われるようになっちまった。

 俺は私は儂は我は僕は……。自分を保てなくなって来たため、地上に出て適当に破壊活動をしまくった。

 そうしていると、なんとか俺は俺である事を保てる気がしたのサ。

 

 破壊活動をしていると七美徳は発現しなくなったが、次は七神獣って七面倒臭いのが現れた。

 七神獣と契約して宿す者は神子と呼ばれ、「魔王紋」を持つ人間――転化した悪魔を討ち滅ぼす存在になってた。

 自分を保つためにする破壊活動は、勿論、神子たちが邪魔をしてきて戦闘になる。

 ほどほどに楽しめたサ。

 長い時間の中で、何百何千何万と闘いを繰り広げて――飽きた。飽きてしまったのヨ。

 初めは不利だったが、互角となって、有利となり、圧勝するようになったからサ。

 攻略パターンの分かった相手と戦ってもつまんねーヨ。

 

「ナナザイ様。貴方がそんな顔をするなんて、とても珍しいわ」


「俺のコトを分かったように言うんじゃねーヨ。「色欲」魔王」


「ふふ。身体を重ねた回数は、誰よりも多いのよ。貴方の事はある程度は分かるわ」


「……」


 舌で胸を舐め、手で下半身の一番敏感な部分を弄ってくる。

 くそっ、流石は「色欲」魔王じゃねーかヨ。

 俺の敏感な部分を、熟知している。


「今は、何もかも、忘れて、快楽に溺れましょう」


「「色欲」魔王……」


「だぁめ。そっちじゃなくて、私の名前で呼んで? 貴方には、貴方だけには、名前で呼んで欲しいの」


「――ロザリンド」


 ロザリンドは、笑みを浮かべると、胸元にある「色欲」の魔王紋が妖しく輝き出す出した。

 ……ビリッ、と、身体に少し電気が走る感覚に襲われた。

 コイツは苦手なんだヨ。

 「色欲」は俺も持っているため、ロザリンドの「色欲」の魔王紋と、共鳴して今までにない感じ方をしてしまうのサ。

 俺の秘所に伸びた手と、ロザリンドは自分で秘所を弄る、淫音が部屋に木霊する。

 この音自体に、「色欲」の魔力がのっかっている為、聞いただけで催淫効果があったりするんだヨ。

 

 苦手なコイツの所に来たのは、イカレ女がロザリンドの手下を殺したからだ。

 一応、俺が頼み事で命令を下してたのが死んだ訳だから、それの報告に来た訳なのヨ。

 ロザリンド自身は、俺から頼み事を受けたこと、部下に命令した事を忘れた。

 なのに、部下を無くした責任をとってほしいと言ってきたので、仕方なく抱かれる事にした訳ヨ。

 正直に言ってロザリンドの淫技テクニックは、俺すらも上回る訳で、油断するとイカされてしまうのサ。

 ……本当、コイツは苦手だヨ。


「ねぇ、ナナザイ様。男にはならないのかしら?」


「――男に成ったら、搾り取られるから、ならねーヨ」


「あら、おかしな事を言うのね? 女だからって、油断するなんて――。「色欲」を持つ者として悲しいわ」


 ロザリンドは女の一番弱いところへ刺激を与えてきた。

 普通ならば問題ないヨ。でも、俺達は互いの「色欲」で、感度が何倍にも高められている。

 思わず身体を弓反りにして行ってしまったヨ。


「……お前、っ」


「ふふ。どうかしら? これで寂しさを和らげる事が出来たかしら」


「――俺が寂しい? そんな訳ないだロ」


「愛しさのご主人さまが、ずっと神子の少女を相手にしてるから、寂しいのでしょう。で、なければ、貴方様が私の要求に素直に応じてくれるはずがないですもの。ふふ、まるで飼い主が他のに夢中になってるからイジケ、」


 それ以上は、言わせねーヨ。

 手でロザリンドの頸を締める。並の相手なら、頸が飛ぶ圧力だけどナ。さすが「魔王」だけはある。

 苦しそうに顔を歪めるロザリンドを前に、手に複数の手が置かれ、背中から女に抱きつかれる。

 コイツらは、ロザリンドが眷属――つまり堕として悪魔と成った元人間たちだ。


「大魔神王さま。お怒りをお沈めください」


「私達の命でしたら、献上致します。どうか、どうか、お姉さまをお許しください」


「……」


 別にロザリンドの命乞いをされた訳じゃないヨ。

 元から殺す気はないゼ。……ここまで長持ちしている「魔王」は最近だと珍しいからナ。

 俺が摘んだりはしねーヨ。

 頸を握りしめていた手を緩めると、ロザリンドは倒れ込み、咳をした。


「――ほんと、ご主人さまの事になると、それほど感情を動かされるのね」


「お姉さまっ。これ以上、大魔神王さまに――」


 配下の悪魔たちに諌められた所で、ロザリンドが態度を改めるとは思えねーけどナ。

 それにして、俺が寂しがってる……ノカ。

 最近は、ご主人サマの所には行けてない。あのイカレ女が部屋の封印術を強化した事で、気軽に行けなくなったからナ。

 まぁ、念の為に俺が持っていた通信石を置いてあるから、万が一の時は向こうから連絡をしてくるだろ。

 

 そう言えばご主人サマの使い魔みたいな形になってもう少ししたら4年目か。

 初めてあった時の事を思い出すナ。

 そして、もう名前から忘れてしまった俺に、こう言ったナ。


『え。名前無いの? 全身黒ずくめだから――クロっていうのはどう? え、いや? うーん、それじゃあ、七つの大罪を背負っている悪魔だから、理解りやすいように、ナナザイ。七つの罪と書いてナナザイ。どう? あ、その顔は良いって顔してる。これから、色々とあると思うけど、一緒に頑張っていこう。宜しくね、ナナザイ』


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