第15話 「嫉妬」魔王(妹)と悪役令嬢


 私の名前は、ルージュリアン・テスタロト・シュベァイル。

 完璧で偉大なお姉さま、ローズ・ウィスタリー・シュベァイルの妹です。

 

 シュベァイル家が保有している屋敷の一つから、メイド達を掻い潜り脱走に成功。

 たぶん兄様の事ですから、追手を差し向けてくるでしょうが、絶対に捕まる気はありません。

 今いる場所から屋敷を俯瞰する事が出来ます。

 庭には兵士やらメイドが慌ただしく走っているのが確認できる。


 ……そういえば、お姉さまの情報を聞き出すために、ちょっと強引な手法で聞き出した姉妹はどうなったでしょう。

 その姉妹はとても仲良くしてました。本当、誰が見てもとても仲が良い姉妹。

 私とお姉さまはそうでないのに、とても羨ましくて、とても妬ましくて……。

 ちょうどお姉さまの事を話していたので、優しく聞いたんですが、中々素直に話してもらえませんでした。

 どうやら兄様が、私にお姉さまの事はできる限り伝えないように命令されているようでした。

 ですから、姉妹が自分から素直に話してくれるよう、いつかお姉さまに使う予定だった「色欲」魔王謹製の媚薬を、二人に飲んでもらい、一人だけ解毒剤を渡す形にしたら、初めは互い庇い合ってましたが、媚薬の効果が高まるにつれて、姉妹は徐々に自分を優先させるようになっていき、最後は互いの悪口を言い始め、相手に解毒剤を渡さないようになっていきました。

 そして二人共、我先にとお姉さまの事について素直に吐いてくれた事で、必要な情報は手に入ったので、姉妹には最大限の快楽を与えてイカしてあげました。

 解毒剤? そんなものはありません。二人に見せたのは、ただの水です。姉妹仲を壊すためのスパイスです。

 

 そもそも兄様が、お姉さまと引き離すかのように私を本邸から追い出すのが悪いんです。

 兄様は私の部屋を見ると、なぜか「このアホ妹がっ」と忌々しそうに言って、本邸から別邸へと移ることになりました。

 私の部屋は、普通の部屋でした。壁と天井にはお姉さまの写真を至る所に貼り付け、お姉さまの1分の1サイズの人形、お姉さまの下着やドレス、使われたスプーンやフォーク、髪の毛などなど、収集していた物を飾っている、普通の部屋だったのに。

 

 昔の私はとても愚かでした。

 完璧で偉大なお姉さまに、勉強や魔法・魔術で何度も何度も何度も無謀にも挑んでました。

 私が一週間かけて習得した魔術を、お姉さまは一日足らずで習得することなんて珍しくもなく、あの当時は当たり前でした。

 何をしてもお姉さまに及ばない私は、苛立ちのあまりお姉さまの美しい赤い髪を「鮮血のように赤々としたイヤな色」と罵ってしまい、その時のショックを受けたお姉さまの顔は忘れられません。

 当時、私は本当にお姉さまに対して、物凄いコンプレックスと嫉妬を懐きながら生活をしてました。

 

 そんなある日のことです。

 お姉さまが、学園の高等部の入学式の日から数日立って家に呼び戻されました。

 お姉さまはとても優秀ですが、私たちのような凡愚には予想できない突拍子のない行動をとる事があるので、また何かをやらかして帰ってきたのだと思いました。

 そして、お姉さまは学園の寮に入れっぱなしだと何をするか分らないという事で、週2日は自宅に帰宅して、一週間どんな事をしたか報告するように兄さまから厳命を受けたようです。

 お姉さまが兄様から説教を受けている間に、私の元にに全身黒ずくめの道化師のような雰囲気をした殿方がやって来ました。


『「嫉妬」魔王の気配がするから、来てみたけどヨ。半覚醒――いや痣が封印されているナ。あの兄チャンの仕業だナ』


 後々、分かりましたが、彼は伝説上の存在、七つの大罪を持つ古の大魔神王でした。


『俺の名前? ナナザイだ。七つの大罪を持つから七罪だとヨ。ご主人サマのネーミングセンスを疑うネ。アレは黒猫にクロって名前をつけるタイプだヨ』


 ケラケラと嘲笑うナナザイ様ですが、満更でもなさそうな感じでした。

 どうやら私の胸元にある痣は、今ではお伽噺の中にある「魔王紋」らしいです。

 いつの間にか胸元にあり、兄様に見せたら魔法で消してくれましたが、どうやらそれが封印だったらしいです。

 ナナザイ様は、あまり興味が無かったのか、胸元の封印されている魔王紋を見るだけみたら、部屋を出ていこうとしました。

 出ていく直前、ふと思い出したのか、ポケットから宝石を取り出して、私に渡してきました。


『一応、『魔王』より上って立場だからナ。魔王に成って困ったことがあれば、まぁ微力だが助力はしてやるサ』


 そう言って通信用の宝石を渡され、今も私はソレを持ってます。


『それとナ。ご主人サマに張り合おうなんてのは無駄だから辞めておきなヨ。アレは最強だ。勝つのはほぼほぼ不可能ってもんだヨ。ならば、愛したほうが楽だゼ。独占するんだヨ。誰にも触れさせない、自分だけのものにするんだヨ』

 

 ナナザイ様はそう言うと、今度こそ部屋を出ていった。

 言われたことを私は真剣に考え、そして悟った。

 

 完璧で偉大なるお姉さまに張り合うのはアホらしい。

 お姉さまを愛そう。誰よりも、この世界で一番、ずっとずっと私だけのお姉さまを愛し合おう。

 

 お姉さまの行動をこっちりと見守ることにした。

 高かったけど、千里眼の効果がある宝具を購入して、お姉さまの行動を片時も見逃さないようにした。

 お風呂やトイレもどうしたかって? 勿論、見守りました。当たり前じゃないですか。

 ……ただ、その宝具は今はありません。兄様に別邸に移される際に、なぜか奪われました。あまりにも理不尽です。

 

 視ている時に、気になった存在が一人。

 お姉さまが色々と気にかける相手、アリア・クラウン・エクスデス。

 そして私のお姉さまと一緒に行方を眩ませた女

 たぶん、あの泥棒猫が私のお姉さまを奪ったんだ。

 

 私はポケットから宝石を取り出して、ナナザイ様へ連絡する事にしました。

 ナナザイ様とお陰で、お姉さまがどこにいるかはだいたいは把握できますが、まだ範囲が広いです。

 なら、本人に直接場所を聞いたほうが早い。


『アリアぁ。意地悪しないでよ。我慢、できないからぁ』


 うそ。おねえさまのこえだ。

 わたしのしらない。おねえさまのこびたこえ。


『ふふ、ローズ様は以前と比べて堪え性がなくなった事が無いですか?』


『ぅぅ、私がこうなったのはアリアの所為だからね。四六時中、アリアのことばかり考えちゃうんだからさ』


『ありがとうございます、ローズ様にそんな風に慕われて、とても嬉しいです。……そろそろ、後ろの処女を貰ってもいいですか?』


『まだ、ダメ。まだこの前ので痛いんだもん。……ゆっくりしてって言ってるのに、余計に動いて、凄く痛かったんだから』


『その時に、ローズ様の声、とても良かったです。記録してるので、また見ますか?』


『見ないよ! って記録? 録画でもしてたの?』


『はい。ローズ様の処女喪失の大切な場面ですので、きちんと保存しておかないとダメですよね』


『消してっ。なんで録画してるの? 恥ずかしいから絶対に消してぇぇ!』


『イヤです♪』


 声が途切れた。

 気が付くと、先程まで持っていた通信用の宝石を強く握りしめて砕いてしまいました。

 ……。

 私からお姉さまを奪った泥棒猫、アリア・クラウン・エクスデスを許さない

 私を忘れて泥棒猫と愛し合ってるお姉さま、ローズ・ウィスタリー・シュベァイルを許さない。

 

 胸元が痛いほど熱く感じる。

 赤紫色に魔王紋が光輝いている。

 もっともっともっと妬み、嫉み、僻み、悋気を感じさせろと言っている感じがします。

 幾らでも感じさせてあげますよ。


「泥棒猫……アリア、お前は絶対に、死ぬ事すら生ぬるい生き地獄を味合わせてあげる。――そしてお姉さま、四肢を切断してでも私を元からずっとずっと一緒にいられるようにしてあげます。アハ……アハハハハハハ、ハーハハハハハ」


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