第14話 賢兄と悪役令嬢
王宮内は蜂の巣を突いたような大騒動となっていた。
バカ王子が、王位を捨てることが知れ渡ったのだから当然か。
私は宰相室で私物を鞄にテキパキと詰め込み部屋を出た。
あまり宰相室に長く居たら、私に面倒事を押しかけてくる奴らが挙って来る事は察知できる。なのに、部屋にいつまでも居るほど私はお人好しではない。
ただでさえ私は、バカ妹のローズとアホ妹のルージュリアンだけで手がいっぱいだ。その上、バカ王子の後始末まで押し付けられてたまるか。
親父が死んだ事で、暫定的にバカ王子から宰相を任命されていただけだ。
任命したバカ王子が、勝手に王座を捨てると言うのなら、私に対する任命権も消失したのだ。
後は好きに権力闘争するといい。
私はもう知らん。
……ただ、この国はもうお終いだな。
テスラー公爵家とガキャミラ公爵家が、『一年戦争』を引き起こす原因となった国王と四大公爵家当主襲撃事件の手引をしたことはほぼ間違いない。
証拠自体はないが。
これからは、その2つの公爵家の権力闘争が幕を開ける。
ディエイス公爵家は中立を貫くだろう。
我家、シュベァイル家は、没落だな。
私はもう家を出て、世捨て人として適当な場所で過ごす。
ローズは、アリアと一緒にいる以上は公爵家に帰っては来るまい。
ルージュリアンは、公爵家なんて興味はない。あるのは、ローズに関する事柄だけだ。
直系が全て公爵家を継ぐのを拒否する以上は没落しかない。
どこからか人材を持って来て存続させるかも知れないが、それは新国王の采配だ。私の知ったことではない。
王宮の裏口まで行き、人気のない隠れスペースに入り込み、懐に入れてある煙草ケースから一本煙草を取り出して、火の魔術で煙草の先に火を付けて一服する。
結局、この国は良くも悪くもローズに引っ掻き回されっぱなしだったな。
……シュベァイル家が没落に近い状態となる以上、ローズが居れば、家に縛られることなくようやく可愛がれるのにな。
今までローズを厳しくしていのは、あくまで公爵家令嬢として育てる、亡き母との約束のためだ。
その約束を守れたかは怪しい所だ。アレの快刀乱麻振りには、私程度では御す事は難しい。
ソロでこっそりと難度20度のダンジョンを踏襲した。
学園の隠しダンジョンを見つけて最深部にいた大魔神王を復活させて下僕にする。
その頃は、まだある意味でマシだったと言える。
一番危なかったのは、『一年戦争』が起きているときだ。
どうやらお気に入りのアリア嬢とトラブルを起こして、仲違いしていた事で、ローズはこの世の終わりのような顔をして日々を過ごしていた。
『お兄様。アリアに嫌われました。もう終わりです。破滅です。没落です。死刑です。追放です。――せっかく今まで、頑張って、頑張ってきたのに――』
アリア嬢は国王の隠し子といえる立場ではあるが、公爵家令嬢をどうにかする権力はない。それは私が知らないだけかもしれないが。
ただローズがあんなに泣いたのは、私が知る限りでも後にも先にも、あの一回だけだった。
私に抱きつき、涙が枯れるかと思うほどローズは泣いた。
涙が枯れるほど泣き続けたローズは、しばらくして幽鬼のような表情で抱きついた私から離れたこう言った
『結局、「悪役」をしなくても、そうなる運命だと言うのなら、――私は本来の「私(あくやく)」をしてやる』
ローズはそう言うと私の前から姿を消した。
数日後、ある報告が来た。
【ディスペリア帝国。10万の精鋭軍が一夜にして消滅。魔力反応からして、魔王級以上が持つ『魂喰』が発動した可能性が高い】
その報告を来た時点で、それをしたのがローズだと分かった。
それから来る報告は、帝国の首都へとゆっくりとだが向かっていっていた。
私が出向いたところで、今までと違いローズは止まらない。
一種の確信があった私は、ローズを止めることが出来る人物――、アリア・クラウン・エクスデスを探すことにした。
7体の神獣の力を持つ彼女を探すのは、大変手間取った。それでもなんとか半月かけてなんとかアリアを見つける事ができた
帝都の首都に突撃するまで、もう僅かな時間しかなかった私は、アリア嬢に三日三晩、説得を取り返し、なんとか動いてくれた。
後に聞いた話であるが、ローズは帝都の首都にある王宮の中に侵入していたらしい。
そこでアリア嬢とローズは、少し揉めた(王宮は半壊)らしいが、二人はなんとか和解したことで、アリア嬢はローズを連れて帰ってきてくれた
怪我もなく、無事に帰ってきたローズを私は抱きしめた。
『バカ妹め。――どれぐらい心配したと思ってるんだっ』
『……ごめんなさい。お兄様。これからは、お兄様にできるだけ心配かけないようにします』
『ああ、是非ともそうしてくれ』
『一年戦争』はそれから数カ月後に帝国側が降伏したことで集結した。
今来なら、ローズとアリア嬢が王宮を半壊した時点で、終わりになるハズだが、帝国側とそして王国側にもそれぞれ事情があり、結局はそれなりの時間を要した。
全く――困った妹だ。
もう少し公爵令嬢らしく大人しくしてくれたら、コチラも口煩く説教をする必要が無かったのだがな。
少しだけ大人しくなっていた頃のローズを思い返し、懐かしんでいると、ポケットに忍ばせている通信石が音を鳴らす。
……イヤな予感しかしない。
通信石は緊急時に連絡を取れるように、幾つかの人物に渡しているが、さて誰からの通信だ?
『良かった。通話に出られたのですね、グレイス様!!』
「ゼノ? 何があった?」
通信をしてきたのは、以前はローズの教育係、今はルージュリアンの教育係を任せている女性だ。
『ルージュリアン様に、ローズ様が行方不明と言う事が知られました』
「なんだとっ」
『メイド数名から無理やり聞き出したみたいで――。該当のメイドはもうお嫁には行けないでしょう。痛みよりは快楽で吐かせる。もう彼女らはまともな性交渉を行えるかどうか』
「……被害に遭ったメイド達には、十二分な慰謝料を払ってくれ。くそっ、あのアホ妹めっ」
『後、意識があるメイドから聞き出した事ですが、ルージュリアン様の胸元に、『嫉妬』の魔王紋がきちんと浮かんでたとか。本当なら『嫉妬』魔王に成ったということになります』
「痣が出た時点で封印術を施したが……、魔王紋の前には――アホ妹の感情の前には役に立たなかったか。それで、ルージュリアンは?」
『現在行方不明です。――ただし行き先は十中八九』
「ローズの所だろうな。クソッ、神は私に平穏を与える気がないのかっ!!」
ゼノに向こうのことは全権を与えて処理をさせる事にした。
彼女はかなり優秀であり、ローズやルージュリアンも、彼女の前では大人しくしており、私が最も信頼している女性でもある。
それは兎も角としてだ。
とりあえずローズを探さなければいけなくなった。
ルージュリアンを探すなら、ローズを探したほうが手っ取り早い。
学園を卒業した以上は、基本は大人の仲間入りだ。好きにさせておくように考えたが、こうなれば話は変わってくる。
煙草を地面に落とし、足で踏み潰して火を消す。
裏口から急ぎ出て馬車小屋へと向い、一頭の馬を借り受ける。
ハッキリ言ってローズの居場所には心当たりはない。が、さっき王位を捨て去ったヴァシリアムと合流した方が早い気がする。
こういう時の直感は、かなりの確率で当たる。
バカ元王子もローズを探しているのだから、手数は多い方が良い。
ローズとルージュリアン。
今の二人が遭えば、最悪の結果が待っているかも知れない。
それだけは断固として阻止したい。
どんなに、バカでアホな妹たちでも、私にとっては可愛い二人の妹なのだから。
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