第9話 (元)悪役令嬢とおこってなくヒロイン
私の言葉に首を傾げるナナザイ。
あれ、本当に記憶にないの?
少し考えても思い当たる事が無いのか、ナナザイはボスに向かって言う。
「大魔神王サマは、どんな命令を下したんだヨ」
「この近くに、神獣七体と契約をした神子がいる孤児院がある。その神子へ嫌がらせをしろというご命令だ」
「あ、間違いない。それって俺の命令だわ」
納得したのか、ナナザイは首を縦に振る
「――どういうことか教えてくれる」
「あのイカレ女に、嫌がらせを考えたのヨ。でも、あいつって多少の事じゃ応えないしょ。俺とアレがまともにぶつかりあえば、この大陸程度は軽く半壊するからネ。それにご主人サマからの命令で、直接行動を取ることはできないのサ」
そう。ナナザイと契約をする際に、最低限の命令を下してある。
1.アリアと私に対して直接的な攻撃的行動の禁止
1.アリアが困っている時は、主義主張関係なく協力する。
1.私の問いかけに関しては虚偽で応えない。
ぐらい、だったハズだ。
「そこで配下の魔王に命令する事にしたのよ。契約では直接的であった間接的にはって言われて無いからネ。今は3体しかいない魔王の内、近くにいたのが「色欲」だったから、イカレ女に対して嫌がらせはそいつに全任せしたってわけヨ」
……ちょっと待って。
色々と言いたいけど、今って魔王が三体もいるの?
「ゲーム」で出てきた魔王は、「色欲」の一体のみ。他は適正が居ないため、空位になってたハズ。
今は他に2体いるの?
魔王はある意味でナナザイより七面倒な相手だったりする。
ナナザイは七つの大罪を満遍なく十全使用できるが、それぞれの魔王は一点特化で十二全使用できることで、その分野においてのみナナザイを上回る。
「色欲」魔王は「ゲーム」でも、毎ターン、ヒロイン以外の味方を全員魅了して来てかなり苦戦した。魅了無効化のアイテムは、ユニーク級かレジェンド級でないと無効にできない、しかもシステム上、一人だけで戦うことができない為に、かなり苦戦したことを覚えている。
だから、そんな苦手意識もあって、私は「色欲」魔王と戦うイベントは何が何でも絶対に回避したことで、まだ「色欲」魔王との面識はなかった。
「さっきから聞いていれば、まさかお前が、大魔神王さまとでも言う気か……ッ」
「そうだヨ。ああ、気配がないって言いたんだろ。とても忌々しいが、大罪は美徳で相殺できるんだヨ」
ナナザイは舌打ちをすると、気配が一転した。
今までは普通の悪魔ほどの気配しかなかったが、今は大魔神王と言われても遜色しない圧倒的な気配を放っている。
支えている気絶している女の子も身体を震わせていた。
私は契約しているから耐性があるけど、女の子はそうでもない。このオーラを受け続けると、どんな風に悪化するか分からない。
「別にヨ。大魔神王って言われても、配下の魔王には極力干渉しないようにしてサ、自由を尊重、好きなやればいいんじゃネ。俺が頼み事をしても、それを実行するかどうかは自由にすればいいからナ。でもなぁ、不可抗力の偶然とはいえ、俺から命令があったとはいえヨ、俺のご主人サマに手を出して許してやれるほど、俺は悪魔として上出来じゃねーのヨ」
ボスの身体に黒い魔力が侵食していく、それはまるで存在が魔力により喰われてるようだ。
「ヒィ。ヒィ、ッ、お、お許し、お許し、ください!!」
「抵抗するなヨ。これに喰われても、お前程度でも一万年もあれば復活できる……ああ、無理かぁ。抵抗せずに大人しく喰われてたら復活できるチャンスはあったのにヨ」
「――え」
ボスが呆けた声を出した瞬間のこと。
天井から音もなく、突如として光が降ってきた。
白い光はボスの身体全身を包み込み、悲鳴を上げる暇さえなく、文字通り、光に飲み込まれて消滅した。
こんな力技を持っている人は、私はただ一人しか知らない。
アリア・クラウン・エクスデス。
最高クラスの武力と魔力を持つ「ゲーム」における最高のヒロイン。
光が収まると、そこには『天神地祇』モード中のアリアがいた。
うん。気配で分かる。
アリア――凄く、もの凄く怒ってる。
私の姿を見たアリアは、『天神地祇』を解除して近寄ってきた
「え、えっと、アリア。ごめんなさい!!」
「なにを謝ってるんですか?」
「この子と、肌を触れ合うことになったこと! 「色欲」魔王の配下がいて、この子は操られてね。だから、仕方ない事だったの! 決して浮気とかじゃないよ」
「それについては後でじっくりと伺います」
「え……怒ってるのって、この事じゃないの?」
「違います。私が怒ってるのは、なんで、なんで私を頼ってくれないんですか!!」
アリアは涙を流して訴えかけてきた
「そんなに私は頼りないですか? 七体の神獣と契約して、『天神地祇』も身につけましたっ。今はローズ様の、武力も魔力も封じました。現状、ローズ様よりもずっとずっと強いです。それでも、まだローズ様からしたら私は頼りない存在なんですか!!」
「そんなこと、は、ないけど?」
「嘘ですっ。今回も、私には全く相談もしてくれなくて、あの悪魔に頼るぐらいじゃないですかっ」
「……ナナザイは無茶を言っても大丈夫だけど、アリアには」
「ローズ様が頼ってくれるなら、なにも苦にはなりませんっ。無茶なことでもなんでもやります!」
涙を流しながら、ハッキリとした強い瞳でアリアは訴えかけてきた。
ああ、そうか。
この手錠と首輪には、私を逃さないようにする以外にも、そういう意味も込められてたのか。
私は、こうなるまでアリアを頼ってなかったっけ。――頼ってなかったなぁ。
だって私にとってアリアは、「ゲーム」のヒロインで、この世界の主人公だ。
頼るという考えはなかった。
学園で好感度を上げる事に集中してたので、アリアに頼られることはあっても、頼ることは無かった。
私は支えていた少女をゆっくりと地面に倒して、アリアを抱きしめる
「ごめんね。言い訳はしない。私はアリアに頼ることを今までしなかった。本当にごめんなさい。でも、それはアリアが頼りないからじゃないよ。それだけは、分かって欲しい」
「ロー……ズ様。は、い」
「ハハ、もう泣かないで。泣いたらアリアの綺麗な顔が台無しだよ。――とりあえず孤児院に帰ろうか」
ナナザイは「なにこのコント。つまんねーナ」みたいな顔をしている。
そもそも今回の事件の原因は、あんたが「色欲」魔王に変な命令をしたからだからね。
ジト目で睨んでいると、面倒くさそうに空間を歪ませ消えていった。
――気が利いてアリアの孤児院にちょっかい出すのを撤回してくれたら良いけど。
しばらくアリアにも注意を促さないといけないなぁ。
ナナザイは「色欲」魔王とか言ってないって言ってたけど、もしかしたら他の二体の魔王も、なにかしてくる可能性がある。
魔王にとってアリアは天敵とも言える存在だからだ
……でも、私とアリアの二人なら、なんとでもなる気がする
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