第7話 (元)悪役令嬢と行方不明者

 ああ、なんて楽しんだろう。

 こんな風に自然に遊んだのは、幼い頃に婚約者である第一(バカ)王子と一緒に公爵家が所有している山を走り回った時ぐらいかな。

 私に対して「ブス」だと行ってきたバカ王子を餌にして魔獣を釣って倒して食べたり、剣の腕を自慢してくるバカ王子に剣で勝負してプライドを粉砕してしまったので(そもそも最強スペックの私相手に勝てるわけがない)、バカ王子強化のためダンジョンに一緒に潜ったりした。

 その後、お兄様から拳骨をもらって正座説教のフルコースを問答無用で受ける羽目になった。

 私のお陰でバカ王子も少しはまともになったと思うのに。


「あ、グレイとシューナが帰ってきたよ!」


「……あれ、アネイスがいない」


「本当だ」


 子供たちが言う方角には、軽装の防具を来た鼠色の髪の生意気そうな少年と、魔術師風のローブを来た青色の髪の三編みをした少女が居た。

 どこか浮かない表情をしている。


「アネイスは帰って来てるか」


「ううん、帰ってきてないぞ」


「どうしたの?」


「探索途中で居なくなったんだ。もしかしたら先に帰ってきてるかと思ったんだが……」


「グレイ。もう一度、探しにいこ」


「そう、だな。もう一度探しに行くか」


 グレイとシューナは相談して、もう一度探しに行く事を決めたようだ。

 アネイスって弓士の女の子だよね。

 どんな女の子かは分からない。けど、弓士が理由もなく、それも何も告げずにいなくなるとは考えにくい。

 何かに巻き込まれたと考えるのが妥当かな。

 思い当たるのは、アリアが言っていた山賊。

 アリアでも探知できない宝具を持っているとか。


「ローズ様。グレイとシューナに手を貸してあげて」


「そうだ。あのローズ様なら、なんとかしてくれるよ」


 なんか子供たちの評価が無駄に高いんだけどっ。アリア、私の事をどんなふうに伝えてるの?

 私もアリアが手伝っている孤児院の子が行方不明なんだから、手伝うのはなんの問題もない。

 でも、今の私は国家転覆クラスの重罪人がする手錠と首輪を付けられている。

 魔力も武力も封じられている状態。ただの町娘同然。

 もしガチで戦えば、目の前にいる2人にも負けると思う。それほど私は弱体化していた。

 

 でも、だからと言って何もしないのは違う。

 子供たちにとっても、アリアにとっても、私は信頼できる相手でありたいと思っている。

 何か出来ることがあるハズ。

 ……せめてこの手錠さえ無かったら魔法で見つけることも出来るんだけど。

 

 あ、そうだ。

 この手錠は嵌めた相手の魔力による魔術や魔法の発動を阻害する宝具であって、魔力自体を封印している訳ではない。

 私自身は最強クラスの魔力保持者。私から誰かに魔力を渡して、広範囲探索魔法を使用することが出来るかも。

 学園時代にアリア相手にしたことがあるので、やり方自体は問題ないはず。

 この中で魔術師はシューナだけ。


「えっと、なんでしょう」


「色々とあって私は魔法を使うことができない。でも、シューナ、君を通してなら探索魔法を使うことが出来る。協力してくれる?」


「アネイスを見つけられるのなら、はい!」


 シューナは手に持つロッドを握り詰めて頷いた。

 うんうん。さすがアリアがいた孤児院の子だ。芯がしっかりしている。

 あのヘタレな攻略対象者たちにもこれぐらいの気概があれば良かったのに……。

 私はシューナの背後に回り込み身体を密着させた。


「ひゃぁあ」


「ごめんね? 魔力を通すのには身体を密着させた方がいいみたいなの(アリアがそう言ってた)」


 意識を集中させシューナの魔力を感じ取る。

 それに自分の魔力を繋げる

 まずは少しずつシューナに魔力を流していく。


「んっ。ローズ様の、が、私の、ナカに、とても熱い、ぁっんん」


 妙に熱っぽい声を上げるシューナ。

 アリアもこんな感じだったなぁ。あの頃は初々しかった。懐かしい。

 握りしめられているロッドに私も手を添える。

 私という巨大な魔力貯蔵庫から魔力を渡しても、扱う能力がなければ無駄になる。

 シューナという外部装置を使って魔法を使用できる……ハズ。

 

 ロッドに上部に埋め込まれている宝石が光り出した。

 アリアで見つけられないのなら、少し探索方法を考える必要がある。

 動物の生命反応を探知する魔法を使用することにした。

 対人の探査だと、たぶん反応が誤魔化される。それが万能であるアリアが見つけられない原因だろう。

 昔、家庭教師から逃げた時に、私を探すように展開された探知魔法を回避するのに良く使用したから、対処方法はなんとなく分かるんだ。

 本来、森や山には魔物や動物がいっぱいいるみたいだけど、原因不明で激減しているそうだ。

 そんな中でまとまってある動物の生命反応があれば、それが山賊の基地と考えていいハズ。

 ……。

 ――見つけた。

 

「グレイ。この辺りの地図持ってる?」


「あ、ああ。勿論だ」

 

 なんか顔を赤らめている。

 ?

 そう言えば男子たちは、顔を赤らめて目を背けて、女子たちはそんな男子を見て軽蔑するような視線を送っていた

 私がシューナに魔力を送ってる間になにかあった?

 とりあえず、そっちは子供たちの問題なので今は放置しておくとして、グレイから貰った地図を見る。

 反応があったのは此処から約2キロほど離れた場所。

 とりあえず行ってみようか。

 シューナは顔を赤らめながら私を見てきた。


「ろ、ーず、さま。いくんですか?」


「うん。――っていうか、大丈夫?」


「はひぃ。すごく、かんじた、だけです」


「そ、そう」


 なんかアリアと似た雰囲気を感じる。気のせいだよね。うん。気の所為、気の所為。

 





 グレイとシューナも付いてきたがってたが丁寧に断った。

 下手に何かあって怪我でもされて、アリアの好感度が下がる事は避けたい。

 今はアリアの影響で、町娘同等ぐらいの戦闘能力。

 でも、私には頼りたくないけど、頼りになる使い魔がいる。

 孤児院が見えない位置まで移動すると、ナナザイを喚ぶための準備をした。

 

「『我が眷属、七つの大罪を持つ古の大魔神王、ナナザイ。我が契約により此処に顕現せよ!!』」


 ――。

 あれ、反応がない。

 いつもなら影から出てくるのは、その反応が全く感じられない。

 不思議に思っていると、影から黒い触手が伸びて、身体に絡まる。

 これは、逆召喚……?

 私は抵抗できないまま、影に飲み込まれてしまった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る