第5話 (元)悪役令嬢と孤児院 【1】
私が監禁されている屋敷から歩いて30分ほどの所に孤児院はある。
てっきり教会が運営しているのかと思ってたけど、そこは少し大きめの屋敷だった。
それなりに長い年月が経っているためか、所々が朽ちてきているけど、住む分には問題なさそうだ。
「それにしても、アリアはよく中立自治国の孤児院の場所を知ってたね」
「……お母さんが、あのクズに捨てられて辿り着いたのがここだったんです。それから私は、学園に通うまで、ここで過ごしました」
「そうなんだ」
アリアがいう「あのクズ」……つまり父親は、私の母国であるデッシュティル王国の王様だ。
国王はまだ10歳ほどのアリアの母親を、「一目惚れ」だからという理由で抱き、孕ませた上で国から追い払った。
まあ、善政を敷く有能な国王だけど、流石に10歳の少女を孕ませたとなると世間体が悪いためだ。
そんな経緯もあり、「ゲーム」における人気投票では毎回最下位争いをするほどの不人気ぶりである。
アリアが学園に入学してきたのも、国王に母親に対する贖罪を求める事が目的だった部分が大きい。
残念な事に、国王と私の父親を含めた四大公爵家当主は、隣国であるディスペリア帝国の襲撃で命を落とし、それがデッシュティル王国とディスペリア帝国の俗に言う『一年戦争』のきっかけだった。
復讐する相手を奪われたアリアは荒れていた。そして、私とアリアが一番仲が悪くなっていた時期でもある。
……『一年戦争』の一ヶ月ほど前、私のニアミスでアリアの存在が国王に知れたことで、ストーカーと化した国王にアリアが斬りかかり、私が執拗に国王を庇ったのが原因なんだけどね。
流石に、どんなクズでも国王なので、お兄様から公爵家令嬢らしくしろと言われてる手前もあり、また国王殺しなんて罪をアリアが背負う事は回避したかった。(ゲームでは攻略対象者たちが止めるけど、あのヘタレな攻略対象者共は全員イベントをスルーした)
その結果、大好きなヒロインであるアリアから、「シュベァイル様なんて、大嫌いですっ……!」と正面から拒絶されたのは、もうトラウマになっている。
「ローズ様。どうかしましたか? 顔色が……」
「あー、ほら国王の事を思い出してたら、アリアに「シュベァイル様なんて、大嫌いですっ……!」って言われたのを思い出したさ」
「あ、あ、あ――」
アリアは顔面蒼白となり、涙を流しながら瞬間移動と勘違いする速さで詰め寄ってきた。
「違うんです。アレは未熟でどうしようもなく愚かだった私の戯言なんです。ローズ様を嫌いになった時期なんて本当は一度もありません。過去に戻れるなら、あの頃のバカに私を殴り飛ばして、ローズ様に土下座させたいぐらいです。あ、今、土下座して謝ります!」
「いや、いいからっ。土下座なんていいからっ。国王の所為で余裕が無かったのは分かってるからさ」
気にしてないっていうのは、嘘だけどね。軽くトラウマになってます。
まぁ、アレは国王の事で精神的に余裕がなかつたことで発した言葉というのは理解できている。
だからもう良い。終わったことだ。
「おい、お前っ。アリアねえーちゃんを泣かすな!」
「アリアおねーさん、大丈夫? ひどい事されたの?」
建物の方から子供たちがやって来た
アリアが泣いているのを見て心配そうにする子、泣かした私に怒る子などに分かれている。
ただ共通してアリアの事を心配していた。
……アリアには、きちんとこういう場所があるんだ。
「ううん、違うの。ちょっと昔に私が、ローズ様に酷いことを言っちゃって、それを謝ってたの」
「ローズ様? あ、この人がアリアねーちゃんが良く言ってるローズ様?」
「きっとそうだよ。アリアおねーさんが言ってたように、バラのように赤い髪だもの。この人がローズ様だよ」
「うんうん。とっても綺麗なひと」
子供たちはアリアから、私の事を聞かされているらしい。
反応を見る限り、悪いようには言われてないよね。
年下は基本的に妹か後輩ぐらいしか対話した事がない。10歳前後の子供と話すのはここ数年ではかなりのレアケース。
妹といえば、あの子は元気かなぁ。
あまり好かれてなかった。さっき子供たちが褒めてくれた「薔薇のように赤い髪」も、妹からは「鮮血のように赤々としたイヤな色」と言われて記憶がある。
「ゲーム」本編においてはあまり語られなかったけど、続編という名のファンディスクでは、二代目悪役令嬢として登場。スペックは私の下位互換と評されていた上に、中ボス的な存在だった。
この世界においては、あまり仲が良いとはいえない。お兄様に相談したこともあるけど、なんとも言えない表情で「お前が悪い」と言われた。私は妹と仲良くしたくて色々としたのに解せない。
今の状態だと、もう会えないかも知れないけど、「ゲーム」のように二代目悪役令嬢なんかにならないことを、私はお姉ちゃんとして願っている。
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