第2話 (元)悪役令嬢と悪魔


 手を動かしても、足を動かしても、鎖の音がする。

 それを聴いて私は大きくため息を吐いた。

 今の私が動ける範囲は、ダブルのベッドの上だけしか移動できない。

 

【ハッハハハハ。さすが、ご主人サマ。笑わせてくれる。やはり道化の才能があるぜ】


 私の影から声がすると同時に人型が浮かび上がってきた。

 ナナザイ。

 私が学園の地下ダンジョンで契約した七つの大罪を持つ古の大魔神王。

 「ゲーム」において序盤に出現する学園の地下ダンジョンの最奥にいる二周目以降の裏ボス。

 黒い髪に黒い瞳に黒い服。

 ただし今まで違う箇所があった。

 

「なんで女の姿なの?」


「ご主人サマは、こっち系が好みだとおもいましてネ。悪魔らしく要望に応えてみた。俺クラスの悪魔になる老若男女変幻自在なのよ」


「――私は、ノーマル、なんだけど!!」


「いやいや、あのイカレ女に弄ばれて感じてらっしゃるのに、ノーマルな訳がないだろ」


「あ、あれは、生理反応で、しかたないコトなのっ」


「へぇ――」


 ナナザイの黒い目が金色へ変わる。

 そして私の上に覆いかぶさるように乗ると、手が私の胸に触れる。

 

「――ッ!?」


 身体に電流が流れたかのような錯覚が起きるほど、強い快感が走り抜けた。

 アリアにされても、これほどじゃなかった――。

 歯を食いしばって、この悪魔に喘ぎ声を聞かれない我慢して睨みつける。

 でも、そんな私の行動を嘲笑うかのように、優しく、卑しく、感じ易いように揉んで来た。

 『契約』している以上、悪魔は私の命令は絶対。

 しかし命令を発するには、口を開けて言う必要があるけど、もし口を開けたら、そこから漏れるのは命令する言葉ではなく、快楽に染まった喘ぎ声。

 今の私には、我慢するしか方法がなかった。


「さぁて、下準備はこんなものだろぉ」


「した、じゅんび?」


「そうだぜ、ご主人サマ。魚や動物を捌く時にだって下準備はするだろ。それと同じだ」


「まさか、いま、いじょう、の……」


「ああ、俺ってばご主人サマにとびっきりの居心地を味合わせてあげたくて頑張っちゃうヨ」


「や――や」


 やめて、そう叫ぼうとした瞬間。さっきまで感じていた快楽が身体を駆け巡り声が途中で途切れる。

 そんな私を愉快そうに嗤いながら、急所へと手を伸ばそうとする。


 白い光が目の前を奔り、ナナザイが吹き飛んだ。

 

 光が奔ってきた方向に首を向けると、アリアがいた。

 しかも「ゲーム」において最終決戦(つまり私相手に)で使用した、七属性の神獣の力を取り込んだ『天神地祇』モード。

 性能はぶっちゃけてチート。SRPG型乙女ゲームのヒロインに相応しい形態だ。


「イカレ女ぁ。早くお帰りじゃないかヨ」


「ローズ様に近寄るゴミの気配がしたので、速攻で帰ってきました。自分の直感に従って本当に良かった」


「ハッ、ゴミねぇ。そのゴミに弄ばれて感じているご主人サマに、3日近く似たことをして未だに嫌悪感を感じさせている神子サマはどうなのよ。これは肉体的な相性は俺とご主人サマの方が抜群ってことだネ。ざぁんねぇんでしたぁ。まぁ、そもそも俺とご主人サマは一心同体だからネ。神子サマが割り込んでくる余地はないのよ。分かったら捨て台詞吐いて逃げれば? これから俺がご主人サマに至高の快楽を共有するからネ」


 え、私って3日もここにいたの?

 ずっとベッドに横になってたから時間間隔が曖昧になってた。


「――ごめんなさい。ゴミに失礼でしたね。ゴミは分別し、きちんと処理すれば様々な使い道があります。でも、お前は分別したとろこで残るは薄汚い存在のみ。しかも私とローズ様の間に入る悪質なストーカー。神子の慈悲として、ここで現世から消滅させてあげます」


「できない事を言うなヨ。それにだよ、ストーカーはお前じゃん。しかも悪質な拗らせストーカーじゃん!!」


「違いますっ。――違いますよね、ローズ様」


 目元に涙を浮かべてアリアは言ってきた。


「……うん。アリアはストーカーなんかじゃないよ」


「これが私とローズ様の絆なんです。さっきのセリフをそのままお返しします。『分かったら捨て台詞吐いて逃げれば?』」


「おいおいおい、ご主人サマ。そういう態度だから、そのイカレ女が増長するんだゾ!」


 しかたないじゃん。

 今までアリアの好感度を上げるため、基本的にアリアの言動は全肯定してきたから、涙目で訴えられると私、弱いの。

 ナナザイの非難する視線に、顔を背けた。


「仕方ねぇなあ。イカレ女に、現実ってものを教えてやるのも、先達としての努めかネ」


「先達? 何を言って……。そもそも貴女のような悪魔に教わることなんて、何一つありません!!」


「ご主人サマの最大の快楽の急所も?」


「――――――――――――――――――――――――じ、自分で、探して……見つけて、みせますっ」


 凄く間があった上に声が動揺してるよ、アリア。

 それを見たナナザイは、あからさまに嘲笑して見下す。

 アリアは白く光り輝く聖剣を手に出現させると、ナナザイへと向ける

 ナナザイは黒く光すら吸い込む漆黒の魔剣を手に出現させると、アリアへと向ける。

 互いの圧倒的な魔力と威圧が空間を圧迫して軋み始めた。

 

 ……ところで私って、ナナザイに剥かれて半裸状態なんだけど?

 しかもだよ。

 アリアに嵌められた宝具の影響で、今の私は町娘以下のスペック。

 この二人がぶつかったら、その余波で軽く死ぬ。

 二人が足を一歩前へと踏み出し、

 

「くしゅん」


 私はたまらずくしゃみをしてしまった。

 いや、仕方ないよね。私、今は半裸の状態だしっ。


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