Whip ‐ホイップ‐ 八分立て

 一方シグレは、長い間考え込んでいた。確かに詩杏のあの申し出はありがたい。シグレ自身も渡りに船であったことは認めている。実はシグレには、パティシエに断られ続けた過去しかなかったのだ。

 誰も彼も口々に、『君は若すぎる。先代ならまだしも、子どもに政治が出来るとは思えない』と言われるのだ。何かにつけて先代、先代と、それはシグレにも分かっていた。そのため努力を欠かさなかった。それでも見た目で判断され、努力など全て水の泡になることがとても悔しかった。口惜しかった。苦しかった。

 人知れず泣いた夜もある。馬を連れてきて正解だったと、その夜はきつく思った。だからこそ、詩杏の申し出はありがたく、尚且つ恐れを抱かせる。失敗はできない。素晴らしい腕が欲しい。せめて自分がパティシエだったら……、という思いも沸いたが、それはきっと違うのだ。与えられた地位で、身分で、立場で自らを見出さなければ、何にもなれないのだ。

 自分は良い皇帝になれるだろうか。無性に、不安でたまらなくなるときもある。この小さな手で何人の民が救えるだろうか。幾らかの経済を回せるだろうか。

 帝国を築いた先祖に、見合った人物になれるだろうか。




「クラム・ショコラはまだ見付からぬのか!?」

 煌びやかな宮殿に、幾度となく怒号が飛び交う。

「しかし皇帝陛下。まだ半日ですし……」

「半日も、だ! 私の力はこれほどまでに及ばないと言っているようなものだぞ!!」

 伝書を持ちよった側近の老爺がなだめようとするが、ウーヴァにとってはそれは逆効果であった。

「申し訳ありません、皇帝陛下。しかしそれよりも、本日は貿易国の役人がいらしているため、このようなときですがご挨拶を――」

「“それよりも”だと!? そんな下っ端仕事! 貴様が顔を見せればいいだろうが!」

「陛下。お言葉ですが、他国との貿易は大事にしなければなりませぬ……」

「だから貴様が行けと言っているのだ! 私は忙しい! 下がれ!!」

 蜂蜜色の長髪を振り乱しながら、ウーヴァは奥歯をむき出しにして威圧する。老爺はひとつ溜息を吐き、背を向けて去っていった。

「くそっ! どいつもこいつも……!」

 皇帝に就いてからというもの、どうも満たされない。好物の菓子を食べても、とびきりの女を抱いても、何も感じなかった。皇帝になれば何かが変わると思っていたのに、これでは何も変わらないどころか悪くなっているではないか。

「リモン! リモン・トルテはいるか!?」

 ウーヴァは気を紛らわすべく、いつもの通り専属パティシエを呼びつけ適当に菓子を作ってもらうことにした。



 ダークチョコレートに似た木製の扉をノックし、イチゴ畑色の絨毯に老爺は足を踏み入れる。そこには、カカオ豆のような肌の色をした役人がソファに腰を掛けていた。役人は立ち上がり、老爺に向かって一礼をする。老爺の方も合わせて一礼し、言葉を続けた。

「お待たせしております。大変申し訳ございませんが……、陛下は日頃の激務によりお時間を割けず……。代わりに私めがご挨拶に参りました」

「これはこれは。そうでしたか……。皇帝陛下にどうしても見せたいものがあり参りましたが……」

 カカオ豆の男性は残念そうに眉の端を下げ、それでも人当たりが良さそうな笑顔を続けていた。

「大変心苦しく存じます。私めでよろしければ、陛下にお渡ししておきますが」

「そうですね……。ですが、陛下にと思いましたので、申し訳ありませんが、これはまたの機会にさせていただきます」

「そうですか……。恐れ入ります」

「いえ、お忙しいところ参ってしまい、申し訳なく存じます。それではこれにて失礼いたします」

 役人はそそくさとカバンを身で隠し、絶対に誰にも見られないように守っていた。老爺は内心深い溜息を吐き、役人を門まで見送る。まったく、あのわがままやんちゃ坊主には手を焼かされるものだ。持って来たものも何かの役に立つかもしれないというのに……。

 老爺はウーヴァに限界を感じていたが、決してそれは個人に向けられている嫌みではなかった。皇帝を支えられない自身もまた、怠慢だと言えよう。どうしたら政を円滑に進められるのか、老爺は頭を悩ませるばかりである。




 朝。詩杏がベェク帝国に現れてから一晩が、何事もなく過ぎた。夜更けごろに、シグレは何やら騒がしさで眼が覚める。実際に雑音が耳に入ったのではない。風がざわついているような気がして、仕方がなかったのだ。

 シアンの花びらは完全に散ってしまっているようで、二人と一匹の周りを埋め尽くしていた。甘い香りが起き抜けの鼻腔に通り、すがすがしい。

 しかしすぐ動かなければ。そのような気がして、シグレは馬と詩杏を起こす。

「おい、そろそろ出立するぞ」

「ふぇ……?」

 詩杏は特段不安を気にすることもなく、熟睡していたようであった。まったく、意外と図太い女である。

 しかし一方で、詩杏は目覚めに見た顔がシグレであって残念がっていた。夢ではなかったのだと、再確認してしまったからである。これまでの出来事を思い出すように頭を動かし、生返事を返した。

「あー、シグレくん。おはよう……、きゃっ!?」

 体をひねった途端、景色がひっくり返り背中を強打する。ハンモックで寝ていたことを、もうひとつ思い出した。

「いったぁ~……」

「朕も良くやった。案ずるな、時期慣れるじゃろう」

「慣れたら困るんだけどなぁ……」

 そこまで長居をするつもりはない。詩杏は背中を擦りながら起き上がった。

「ていうか、こんな朝からどうしたの?」

「今日(こんにち)はパティシエの村に行くと言うたじゃろ? 腹も減っているじゃろうし、食物の調達も兼ねて今から出立するとしよう」

「えっ、もう行くの? 準備が……」

 とは思ったが、詩杏には肩掛けカバンしか準備するものはなかった。今気付いたが、何とも心もとない。見知らぬ土地に入り込んでからというもの必死に守り通してきたが、大したものでもなかったような気がして、肩透かしを食らった。調理に必要なものしか入っていないので、化粧すらもできやしない。

「準備は済んだのか?」

「……はい」

 そう問われて、詩杏は若干赤面する。別に今まで、子どもに素顔を見られていたからではない。準備と言っておきながら秒速で終わった行動に、巣立ちたくない理由を重ねていたからである。詩杏には、居座る理由もこだわりすらもなかった。シグレはまた詩杏に襤褸を掛け、歩くように命じるのだった。

 移動中、シグレは馬には乗らなかった。体格からするとまだ仔馬で、詩杏を乗せて闊歩できるかといえば、できなくはなさそうだが難しいだろうというところだ。それに詩杏には乗馬経験もなく、いたずらにこの白馬に負荷をかけるだけであることは明白であった。それを汲み取ったのかシグレは乗馬を勧めなかったし、女性を歩かせている横で自分だけ馬に乗るのも気が引けたのか、シグレ自身も徒歩で林道を渡っていた。

 詩杏には、地理が全くもって分からなかったが、シグレが北と言えば北なのだろう。シアンの木から北の方面に進んでいくと、やがて開けた土地に出た。そこには、やはり甘い香りが漂っている。しかし花のそれとは異なり、今度は菓子の焼けるような匂いであった。

「わ! 良い匂い!」

「あら! シグレさま! いらっしゃい。木の実ジャムでも食べていきますかい?」

「おばさま、感謝いたします。それではお言葉に甘えまして、いただいてもよろしいじゃろうか?」

 詩杏が自慢の鼻を利かせていると、恰幅の良い年配の女性が話しかけてくる。これまた自慢の天使のような笑顔で、シグレはジャムを手に入れた。紅い宝石のようなそれは、ふたを開けると甘酸っぱいフレーバーが充満している。

「ほれ、食してみるがよい。ここの者たちはみな、自分の菓子が食べられるのが幸せなのじゃ」

「いいの!? じゃあ遠慮なく!」

 詩杏は眼を輝かせて、シグレから小瓶を受け取る。空腹もあるが、昨日の失敗も忘れているようだ。

「う~ん……、いい香り……。フランボワーズね? いただきます!」

 詩杏は瓶の中に指を突っ込み、細かい粒が残る木の実と蜜を頬張った。ぱつんとはじけるような酸味とそれに負けないほどの甘み。これは単純に砂糖の量ではない。このフランボワーズ自体が甘みを兼ね備えているのだ。シンプルなジャムなのに、これほどまでに違いが出るものなのだろうか。

「美味しい……」

 心からそう思った。単純だからこそ素材の味が活きてくる。パンなどに付けなくても、このまま楽しめる逸品だった。しかしそうなると昨日のアレは何だったのだろうか。

「旨かろう? それが、魂の味じゃ。いくら手の込んだものを作ろうと、魂が入っていなければ味は付かぬ」

「魂……」

 詩杏には未だに良くは分からなかったが、こだわりというものなのだろうか。しかしそれは何となく、違うような気がしていた。考え込んでいると、ジャムのおばさんは詩杏に気付いたようで、話を振ってくる。

「おや、シグレさま? その方はどうしたんです?」

「おばさま、彼女は朕の友人でごじゃる。ひいては長老殿と相見えたいのじゃが……、お手すきかのう?」

 昨日は専属パティシエール、今日はシグレの友人。シグレは意外と、役者として持っている顔が多い。よくもまあ、このような口から出まかせをすらすらと並べ立てられるものだ。詩杏は少し感心する。

「長老様? いつもの母屋にいますよ。また立ち寄ってくださいな! うんと美味しいジャムを蓄えて待ってますから!」

「感謝します、マダム」

 シグレは一礼し、おばさんを後にした。詩杏はおばさんの胸の辺りちらと見ると、確かにそこには一つ星が掲げられている。ひとつしかないということは専属にはなっていないということだろう。美味しさは、専属になる、ならないでは変わらないようだ。

 年配の女性に示された方に向かうと、こじんまりとした家があった。木造、と言えば聞こえはいいだろうが、実際はまるで無人島で漂流者が建てるような小屋だ。何とも言えない部族感がある。しかしそれにしてはよく作り込まれている方で、中に入ると意外と広かった。まずは拓けた土間があり、右隣には一段高いところに木の板が張ってある。時代劇や絵本で良く見るような間取りであった。

「おや、よくいらっしゃいました。シグレ様、このような老いぼれにどのようなご用件ですかな?」

 その奥から、曲がった腰を引き連れて顔を出したのは、痩せこけた老人だった。頭にはほとんど髪がなくなり、あるのは薄荷飴のような色の、伸びた髭のみである。シグレはまたも恭しく腰を折り、老人に向かって一礼した。

「お忙しいところ恐れ入りまする、長老殿。実は込み入った話があり参りました。お主、襤褸を脱いでも良いぞ」

 最後は詩杏へ投げかけられた言葉だ。一瞬迷ったが、ここはシグレを信じるより他ない。それにこの歳の人なら帰る方法について何か知っているかもしれないとも思い、言われた通り顔を出した。

「……クラム!?」

 静かながらもしっかりと見開いた枇杷のような眼で驚かれる。しかし詩杏には今までのような不安はなく、シグレが説明してくれるのを待った。

「長老殿、どうやら彼女はクラム・ショコラではないらしいのです。話を聞けば、異なる土地から迷い込んできたようで……」

「異なる土地、じゃと……? ふむ……」

 長老はシグレの話にもあまり驚いていないようであった。生きている中でそのような話を聞いたことがあるのか、それとも歳のせいで反応が薄いのか。あるいはその両方なのか。

「単刀直入にお伺いいたしますが……、“ニホン”という場所に聞き覚えはありませぬか?」

「ふぅむ……“ニホン”ですかのぅ」

 老人は蓄えた髭を梳き、考えるように天を仰ぐ。次いで、ちらと詩杏の方を見やった。眼を細めまじまじと見つめられると、さすがの詩杏も居心地が悪い。

「しかし……お嬢さんはパティシエールでは?」

「えっ?」

 突然話を振られて、詩杏は戸惑う。胸に光る校章は、いまは布で隠れているのだ。

「この歳になると、どちらに住む者か分かりますのでな。当たりでしたかな?」

 どちらに住む者。それは、ベェク帝国に則るのであれば、貴族と菓子職人のどちらであるかという意味であった。確かにそうではあるが、その言葉は欲しい答えではない。

 満足げに微笑む老人を否定するのは少し気が引けたが、詩杏には故郷についてわずかでも情報が欲しいだけなのである。

「あ、あの、長老……様? わたし、元いた場所に帰りたいだけなんです……」

「何か知っていることはないじゃろうか? 朕が調べたところに寄りますと、気化したシアンハニーが必要であるようですが……」

 言葉を繋いだのはシグレだ。今までの経緯を語ってくれる。

「そこまで導き出しているのなら、儂から言うことはありますまい。しかし、シアンハニーは儂の手元にもございませぬ」

「そんな!」

 やはり一筋縄ではいかないようだ。しかしそのように言い含めるということは、何か知っているということだろう。

「そうでしたか……。しかしその言動、手に入れば別の世界に繋がることができるということで間違いないじゃろうか?」

「それを確かめるのは元来、本人自身が望ましいがのぅ」

 このご老体は、もったいぶってあまり話そうとしない。それを取り繕うのがシグレで、詩杏はというと痺れを切らす物言いに頬を膨らますばかりであった。

「それは……確かにその方が望ましいとは思われますが……。朕にもやるべきことがあります故、彼女のみに構ってはおられぬのですじゃ」

「ん?」

「はて、やるべきこと、の。それなら尚更、しばらく老いぼれに付き合っていただけると嬉しいのですがな」

「長老殿!? 朕の邪魔をすると仰られるのか!?」

 聞き捨てならない言葉を聞いた気がするが、それは長老とシグレの話に流された。

「そうは申しておりませぬ。一番の近道は皇帝の座を狙うこと。そうではないですかな? なればこそ、お嬢さんを一人前のパティシエールに育てるのが早い!」

「それは……」

 老人の双眸が険しく輝き確信を突くが、シグレは言い淀んでいた。彼はこの土地の誰よりも詩杏と時間を共にしている。それ故彼女がどのような人物なのか、分かったつもりでいるのだ。腕は平々凡々、知識も乏しく戦力になりうるかと訊かれれば、それはほとんどないと答える予定であった。

「お嬢さん、ひとつ頼まれごとをお願いできんかの?」

「何でしょう……?」

 シグレが逡巡している間に、長老は詩杏と話を進めることにしたようだ。皺が刻まれた指で、キッチンを指し示す。

「何でもいいので、何かデザートを作ってくれんかの? 儂ゃ、腹が減ったようでな」

「……はぁ。何でもいいなら、作りますけど……」

「長老殿!? 何を――!」

 焦るシグレを、枝のような腕で制する。シグレはこの老人に頭が上がらないのか、敬老の念なのか、長老の柔らかい笑顔にただ足踏みをしていた。

「良いではございませぬか。老いぼれを空腹で死なさんでくださいな」

「~~~~っ!」

 しかし奥歯を噛み締め文句を殺している様は、可愛い顔から一変、悪魔に似ている。焦燥と、だけれども確かに何もできない悔しさが入り交じり、変な汗が出る他なかった。

「無駄に血管を酷使するものじゃありませぬよ、シグレ様。お若いのですから、もっと時間を有効に使わなければ」

 言うて、一番無駄であるように感じられたのは、いま現在であった。自分は一刻も早く皇帝に就かなければならないのである。どこにでもいるパティシエに構ってはやれないのだ。一人前の、とは言っていたが、果たしてそのくらいの技量があるものか。早いところ“ニホン”とやらに帰って、ぬくぬくと暮らしていればいいのだ。

「シグレ様、宜しいですか? 儂を誰だとお思いで? 儂はシグレ様の祖父、ヒガシ・ベェクの専属じゃった男、ミスペルですぞ」

「…………」

 老人特有の、白く長い眉が顰められる。そう、この長老はいまでこそ寂れた隠居生活を送っているが、以前は皇帝のパティシエとして王室暮らしをしていたのだ。名を、ミスペル・ビスキュイと言う。シグレもそれは話に聞いているし、腕は本物だと知っていた。祖父はシグレが生まれてすぐに亡くなってしまったが、自分の代まで世話になっている。

「まさか儂の方が長生きするとは思わんかったが……、ヒガシも疲れが溜まっとったのじゃな」

「あの、長老殿。それはまた、別の機会にでも」

 しみじみと話し出しそうだったので、これはシグレが制止した。老人の話が長いことは、散々同じ内容を繰り返されて知っていたからだ。いまはそんなことよりも、未来の話がしたい。

「そうかの? はて、前もこの話はしたか!」

 カッカと笑うミスペルに肩を落としながら、頭を抱え考える。パティシエは職人気質(かたぎ)故、どうも感覚で物を言うきらいがあった。同じ空気を持つ者なら分かるのか、シグレには難解な言動もパティシエ同士では理解し合えていることが見受けられる。彼女もそうなのだろうか。元三つ星パティシエに学べば、何か変わるのだろうか。

 確かに彼女は自分の専属になってもいいと申してくれたし、一流まで駆け上ってくれればこちらから再度お願いしたいくらいだ。だけれども本当に? もし腕が上がらなかったらどうする? 長老を疑っているわけではない。大きな力は受け取る方にも大きな器が必要なのだ。

「心配いりませぬよ。彼女は紛れもなく、クラム・ショコラですぞ」

「しかし……、吾(あ)奴(やつ)は別の国の者です……」

「問題ありませぬ。クラムは、必要なときに、どのような形であってもこの国に現れるのです。それが例え生まれ立ての赤子でも、明日には命の火が消える老人でも、言葉も文化も知らぬ放浪者でも。伝承と姿が同じであれば、クラムの力は必ず秘めている。それを確かめさせて差し上げましょうぞ」

 ミスペルは言い終わると、すっと立ち上がり、詩杏の方に歩んでいった。気付かなかったが、考え込んでいる内に甘い香りが立ち込めていたようだ。老人は詩杏に何か言い含めると、またシグレの元に戻ってくる。

「もうしばらくお待ちください。儂はクラムではなかったが、凡人故、人を見る眼は磨いてきたのです。年の功は役に立ちますぞ」

「――――……」

 シグレが眼を伏せたので、長い睫毛の房が顔に影を落とす。にわかには信じ難い。初めは自分もクラムだと思っていた。しかしパウンドケーキの件と言い昨夜の焼き林檎の件と言い、詩杏には特別なものが何も感じられなかったのだ。

「ですが」

 その接続詞が気になり、シグレは顔を上げる。

「考えなければならないのは、シグレ様が皇帝になられたときですな。そのときになったら見えてくる景色もありますでしょう。きっと、ご自分なりの答えが出ますぞ」

 その言葉の意味は、いまのシグレには理解できなかった。少し考えたが、自分がまだ未熟であることに恥じることしかできなかった。

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