第2話空想自傷
このお話は自傷行為や血などの少しグロテスクな描写があります。
苦手な方はお控えください。
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自傷行為をする。
でも私のやり方はちょっと変わってる。
自傷行為の想像をするんだ。それが私の自傷行為。カッターで腕を切る。めちゃくちゃに刻む。そんな想像。想像するだけで満足する。今は。
小説を読んだ。昔の人の文章が好き。それは、今の人の文章をあまり読まないからだけどね。好き嫌いが激しいんだ。これじゃあいつまでも大人になれない。困っちゃうね。
それで、その小説がとても良かった。主人公の心が壊れていく小説だったよ。規則正しく撒き散らされた言葉に引っ張られていく過程が、本当に心地良かった。読んでいくと、そこには自分がいて、その人と一緒にどこまでも落ちていく。その人に巻き込まれて私も破壊される。体の中心にひびが入って、今まで一生懸命に隠していた、辛い、悲しい、苦しいを、全部剥き出しにされる。
気持ちいい。気持ちいいんです。
もっと私の核を壊して。ぼろぼろにして。まるで体が満たされるかのように、心が満たされる。
よく愛で満たされるなんて表現するよね。私のは愛じゃ無いように見せかけて、実はそれは、大きすぎるくらいの愛だと思うの。自分に対しての、抱えきれずに捨ててしまった愛。
今まで散々無視してきた部分を、自分を守るために等閑にしてきた部分を、焼けるくらいに見つめる。
例えそれがどれだけ暴力的なものでも、私にとっては自分を愛していることとして認識される。そのくらい、私が放置してきた私は荒廃している。
ひどく心が折れる出来事があると、今日はこの本で抉ってもらおうかな、ほら、この文章で…って。
悲しい夜はね、こうやって言葉で自分を傷つけた。誰に見えないところで、私は自分からぼろぼろになった。
でも時々、足りない。文字だけじゃ物足りない時もある。だめなんだ。やっぱり。腕、切っちゃおっかな。いや、でも。これまで頑張って耐えてきたわけだし。想像で済ませてきたわけだし。
そんな風に自分を宥めてみるけど、やっぱり荒廃した気持ちは治らない。騒がしいんだ。自分の中がとても騒がしい。
段々考え事の収集がつかなくなって、どこで何を考えているのかわからなくなって、机の引き出したから、奥にしまってあったカッターナイフを取り出す。
ちょっとだけ…ちょっとだけだから…
カチカチと少しずつ刃を繰り出して、初めて腕にカッターの刃を当てる。少し冷たい。けど、細いからあんまりわからないな。
もう少し強く押し当てる。皮膚が凹んでいるのがわかる。細い線が一筋、血管を押し付けている。
少し押さえつける力を抜いて、さっと、カッターを引いてみた。
そこには何の跡もない…なんだ、また、切れなかった。
と、思った瞬間、皮膚の薄い皮がほんの数ミリ、上向きに腫れて、そこから血が滲む。
みるみるうちに鮮やかな色の血が溜まって、腕の丸みを伝った。
い、痛い…もっと…
気がつくと無心で腕に切り込みを入れる。何度も、何度も、何度も…その度に切り口がわずかに隆起して、血が溜まって流れ出す。フローリングにぽたぽたと、血が垂れた。だけどそんなこと気にしない。痛い。痛い。痛い…心が段々壊れ始める。とても気持ちいいの。左の手首からヒビが入って、外の空気が体全体に回った。腕を熱い金属が伝って、体の温度が頻繁に変わっていく。気持ちが、いい…頭がくらくらして、自分の硬い理性の核が段々剥がれていく。それでも手を止めない。無心で切り刻む。何度も、何度も、何度も、何度も……
なんてね。
いつも想像だけだ。私に自分を傷付ける勇気なんてないの。
今日も自分を、誰にも見えない心の奥に監禁する。どこかの上手な言葉が私を完全に壊した時だけ、見えるの。腐りかけの自分。その頃にはどんなに醜いんだろう。楽しみだね。
今日も切らずに済んだ。そうやって明日も、明後日も、私は私から逃げ続ける。誰か私を見つけてね。捕まえてね。自分を想像で、静かに、きっと死ぬまで、切りつける、私を。
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リストカットという種類の自傷はしたことが無いのでリアルさに欠けるかもしれません。
ファッションとか言う人もいるけど、自傷をする人の気持ちって、複雑ですよね。
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