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第1話 レビュー

私には文章の師匠がいる。

師匠の文章を愛している。


彼女は小説家でも詩人でも何でもない。創作の世界での肩書きは1つも持たない、普通の友達。ただ、少し、哀しい人間なのだ。


私は師匠の文章を愛している。彼女と話していると、辞書の中を歩いているみたいに色んな音がしていた。

足元で常に、何かしらの言葉の残骸が、言葉に付随する彼女の哀しい感覚が、砕けていく。会話が弾むにつれて、その音は段々激しくなって、私はその煩さで自分の現在地を見失う。


私は彼女の空間に囚われることや、そこに激しくのめり込むことを、学校の帰り道、密かに楽しみにしていた。


ある日、学校から家へ帰る途中、彼女は「レビュー」について語ったことがある。


「この間、○○さんの詩を読んだの。君は詩は好き?」


彼女は本をよく読む人間だった。いつも、私の知らない言葉や感覚をそこから盗んで来る。


「好きだよ。飽きっぽいから、小説より読みやすいし。」


飽きっぽいというより、表現の一つ一つに一々浸りすぎて、小説を読み終わるまで集中力が保たないのだ。


「私、この人の言葉、かなり好きなんだけど、詩が好きな頭のいい人たちから、すごく叩かれてるんだよね。」


私が、ふーん、と言ったきり、彼女はその話題を出さなかった。


彼女と別れて電車に乗り込んでから、彼女の言っていた詩集を検索して、評判を見る。


『必要無い描写が多い、何を言いたいのか分からない、誰かの真似事…』


それは5年後、彼女が初めてネットに投稿した小説のレビューと同じだった。


私は彼女から、実は私は物書きになりたいんだと、そこで初めて聞いた。


私はもちろん、彼女の処女作を見に行った。


そこには、私が確かに愛していた彼女の言葉が、縦横無尽に散りばめられていた。短編だったから、一気に読めた。なんて、幸せなことだろうか。これで、彼女の言葉をいつでも見ることができる。学生の頃、大好きだった彼女の言葉をいつでも食べることができる。なんて、幸せ。


そして、なんて、哀しいんだろうか。この言葉たち。


彼女は外の世界に居場所が少ない。それは私もそうだ。でも、だから、彼女の内では誰にも見えない世界が構築されては死んで、構築されては死んでが繰り返されている。その歴史の一つ一つが、彼女の人生を少しずつ喰っていく。哀しい、哀しいね。そんな世界で実った言葉たちを、彼女が全部吐き出す。


その散らかり方が、また、私は好きだった。


最近知ったのだが、彼女の好きだった詩人はもう詩を書くことをやめてしまったらしい。


だけど彼女はまだ、短編小説を投稿し続けている。


ほとんど読む人はいないそうだ。感想も、書かれたとしても、厳しい言葉ばかり。


それでも私は、師匠の文章が好きだ。


師匠の文章が大好きだ。


でもね、それを師匠に伝えたことはない。


師匠の文章がどんな文章より好き。


それは、師匠の人生が好きだから。


そう言ってしまったら、私は師匠の作品を誰より傷付ける、もはや、犯罪者になってしまいそうだし。



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小説に関しては、まだ始めて3ヶ月くらいの初心者ですので練習感覚で載せていければと思います。至らない点も多いと思いますが、ご容赦ください。

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