最良の裁量

「えーと、枝豆と冷奴、あと唐揚げ。それでマヨネーズを小皿に入れて持ってきて」


 こういう注文の仕方が嫌いだ。常連顔で「いつもの」と言うのも相当恥ずかしいが、メニュー外の対応を求めるのも図々しくて、同席として忍びなくなる。


 この注文をした人はその一時間後、「だいぶ冷めたな。レンジでチンしてもらおうかな」と言った。幸いそれは実行されず仕舞いに終わったが、「できるだろ」という態度で挑む人間は浅ましく思える。


 さらに酷いのとなると注文のとき「それの肉はしつこいから野菜を炒めたのに代えて。あとチャーハンには出汁をかけておじやにしたいな」など言ってのけるものも。


 彼にとってメニューは、自分の手を汚さず創作料理を楽しむ手段なのだろう。


 その人が代替した食材がどう考えても皿のなかの主役で、店も勘定を打ち直すのに苦労するだろうと恐縮する。


 型通りに給仕されたくらいでチップをやるのは納得ならんが、平時の枠を越えた注文を聞かせてしまったときは、いくらか握らせるものがあってもいいのではないかと思う。


 特にこういう注文をする連中の得意顔を見ると、スマイル0円の逆で、そのツラを黙って見せつけられる分の金を寄越せと言われても頷く以外なくなるだろう。


 一方で店側がこれをやらせる場合、うまい流行らせ方をするなと思う反面、関わりたくはないと思う。過剰な大盛りラーメンを提供する店のことだ。


 食券制のくせしてトッピングや薬味の量、麺の固さなどを独自の用語で持って口頭にて注文させる。呪文だなんだとキャッキャッともてはやす連中を見るに、バカバカしい仕組みがバカには受けるんだと感心する。


 友人につれられて一度行き、口頭ですべて普通の量のものを注文した。味の濃さと脂の量との凄みで、半分も食べると頭痛を覚える。


 意地で残さなかったが、胃もさることながら頭も悪くさせられたような気がした。

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