TS物語

 皮田の貞操は堅い。人一倍のマスかきで女体に焦がれているくせ、性根が男根と同じく引っ込み思案だから、裸を見るどころか不純異性交遊にちっとも縁がない。


 女穴なんてものの位置どりなんぞ、まぁビデオでちろっと目にしたくらいで、それも多くは修正に阻まれているから、神秘の存在である。


 彼はある日、腹痛で会社を休んだ。もともと水はガブガブやっては頻尿で厠に通いつめているが、休む前日というのは出すのは専らが後ろの穴からで、しかも口から入った量をはるかに凌駕していた。明けて朝にはトイレから出られない身体になり、入社三ヶ月目で生意気にも有給に手を出した。



 出てくるのが水便から氷の溶けたウイスキーじみたものとなり、やがて完全に透明な水となる頃、過剰な排泄行為に肛門は悲鳴を上げていた。


 紙で拭うのも辛くなり、普段は使わないウォシュレットを頼る。何度も何度も使っていると、手元が狂って操作盤の違うボタンを押してしまった。すぐには気づかなかったが、起動音の後、肛門ではなく睾丸の裏を穏やかな水流がチョロチョロとなぜる。ビデだ。そのとき



「あ、なるほど」



 と思った。


 あんなに遠かった淫穴が身近に、いや、我が身に感じることになろうとは。これも一種のTSものかな、なんて下らない感想に一瞬痛みを忘れた。


 しかしそれも一瞬で、その日は一昼夜、排出の苦しみを思う存分満喫させられるのであった。

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